4日間浪人した話
全国各地で共通テストが行われ、全国の受験生が奔走する最中、なんとも不謹慎な話題である。
遡ること11年前の3月、私は地元仙台の国立大学の人集りの中にいた。合格発表を今か今かと待ちわびていた。
発表の時間になると、手袋をはめたスーツ姿の職員の方が2人、大きな板を持ってやってきて、ボードの中に入れ込んだ。受験生たちは目を皿のようにして番号の書かれた板を見つめる。
数秒の後、あちらこちらで歓声が上がり始めた。部活のジャージを着ている人達が、なりたての後輩を祝福している。
私も遅れて番号を探し始めた。映画でよく見るシーンだ、きっと番号を見つけたら歓声を上げて薔薇色のキャンパスライフがスタートし…
ない。私の2つ前から番号がごっそりと抜け落ち、定員を迎えていた。
何かの間違いではないかと何度も見返したが、何度見ても私の番号はなかった。手先が急激に寒くなっていくのを感じた。
足早に帰宅し、母にその旨を伝えると…
「そうかい…残念やったね、予備校は〇〇予備校でいいね?(いいかい?)」
と、いつもと変わらない様子で答えてくれた。
その次の日、私は件の予備校の7階自習室にいた。高校の頃からお世話になっていたので、勝手は分かっていた。東京へと旅立つ新幹線を見ながら、怒りの感情が湧いてきた…
なぜ自分は落とされなければいけなかったのか…なぜまた1年、あの地獄のような勉強をしなければいけないのか?受かった連中は、4月からサークル入ったり、バイトしたり、飲み会行ったりと、楽しい時間が待っているのに!
いやいや、もう大学に行くのなんか辞めて、インドに行ってヒッピーにでもなろうか…
持ってきたボロボロの問題集にほとんど手を付けないまま、1日目が終わった。
2日目からは、予備校の入学手続きやら何やらで忙しくなってきた。
そして4日目、明日から春期講習が始まるという日の夜、家に帰ると、母から
「滑り止めで受けていた〇〇大学に受かったって。今、電話きたけど…」と、眉をひそめながら伝えられた。
それもそのはずである。滑り止めの私立大学の合格発表は半月前に終わっているし、そこで不合格にななったから、こうして浪人しているのだ。それとも、受験生を狙った新手の詐欺だろうか?神も仏もないのか…。
とりあえず、真偽の程を確かめるため、大学の事務局に電話し、確認を取った。事務局の方いわく、合格したことは、本当であるらしい。他の大学に合格したことでキャンセルが出て、いわゆる「補欠合格」をしたというのだ。
電話を切り、事実であることを母に伝えると
「そげんね、よかったやんね」
と、あまり実感が湧いていない様子だった。父にしても弟にしても、同じような感じだった。
その日の夜、布団に入ると、いつもより柔らかく感じた。私自身、受かったという実感は全く湧いていなかったが、とりあえずもう一度大学受験をしなくて済んだというのは安心だった。
生きていれば浮かぶ瀬もあるものである。