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初めての寝台特急の旅

2019年の4月が終わる頃の金曜日、私は家路を急いでいた。
というのも、翌日から始まる10連休、それだけでも嬉しいのだが、今回はその連休を利用して寝台特急に乗って四国に路上ライブツアーに行く予定があったからだ。子供の頃から夢にまで見たサンライズ瀬戸に乗り、瀬戸大橋を渡るのだ。
しかし、現在の時刻は21時前、列車は22時発だ。間に合うだろうか…。西川口にある自宅に戻ると、準備していた荷物とギターを抱え、スーツ姿のままバスで大急ぎで川口駅に向かった。
京浜東北線で一路東京を目指しながら、なんとか取れた切符を眺めていた。 10連休前夜の寝台特急券。毎日、川口駅のみどりの窓口にキャンセル待ちのために通い詰めてようやく手に入れたプラチナチケットだ。取れた部屋は「のびのび座席」。カーペット敷きのフロアに寝そべる一番安いシートであったが、そんなことは問題ではなかった。何としても間に合いたい。 

東京駅には10時7分前に到着した。すぐさま7番線へと上がると、黄土色に紅色のラインが入った丸みのある車両サンライズ瀬戸・出雲号が発車の時を待っていた。
柔らかな灯りに照らされた車内に入ると、驚いたことに、意外と広いのである。スーツケースとギターケースを抱えていても難なく通ることができる。
ドアを抜けると本日の宿「のびのび座席」がある車両に到着。見た目はカプセルホテルのようなスペースだった。しかし、一つだけ違うのは隣のお客さんとの仕切りは、顔のところにしかないことだ。
そそくさと荷物を入れ込んでいると、列車が動き出した。背中を丸めて座席に潜り込み、窓の外を流れる景色に目をやった。

私と同じ、スーツ姿のサラリーマンが駅のホームにたくさん並んでいる駅をすり抜け、明かりが煌煌と、灯るビル群をすり抜け、列車は夜の東京を後にしていく。高速バスや新幹線ではなかなか見ることができない光景に心踊った。

横浜を過ぎると、窓の景色はどんどん明かりが消え始めた。それに合わせるように列車はどんどんスピードを上げていく。
駅で買った夕飯の菓子パンをウーロン茶で流し込みながら、明日からのツアーのことを思った。
到着した朝から高松でライブをし、徳島、高知、松山を2日間で回る。若さと無鉄砲さが為せる弾丸ツアーだ。ライブができそうな場所を地図で探しながらふと思った。映画「ビートルズがやって来る ヤァヤァヤァ!」のときの4人も、電車の旅をするときはこんな気持ちだったのだろうか?忙しいスケジュールの中撮影された映画だったそうだが、4人が無邪気にトランプをしたり、ふざけ合ったりする姿が印象的だった。
簡単な食事を終え、窓にもたれると、とたんに眠気が襲ってきた。社会人になって1ヶ月、ずっと走り続けてきたのだ。無理もない。
揺れる廊下を伝い、洗面所で歯磨きを済ませると、スーツの上着を体にかけ、のびのび座席に寝そべった。
背中から伝わるゴトゴトという音が何とも心地よい。列車は新富士を出たところらしい。

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