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【読む旅路👣】すみっコさがし

昨年2023年、北海道最北端の稚内を観光していた際にこんなキャンペーンのポスターを見かけた。

\すみっコと一緒にまちを盛り上げたい/
すみっこまちコラボ

すみっコとは「すみっコぐらし」のキャラクターである。「すみっこにいるとなぜかおちつくということがありませんか?」というコンセプトのもと、「しろくま」「とんかつ」「ぺんぎん?」など、様々な可愛らしい(少し卑屈な)キャラクターが揃っている。
こうしたポップなキャラクターをすみっこまちのプロモーションに起用するのは、なかなか興味深い試みだろう。実際のところ、いわゆる「すみっこまち」とは遠くて辿り着くのも容易でない最果ての地であり、ポップさの対極にある存在である。ここですみっコぐらしパワーが試されるわけである。

私は1年4か月にわたって日本一周をしたことがある。日本を隈なく巡る中で、様々な隅っこにも訪れ、その魅力を探求してきた。私は可愛らしくはない(少し卑屈な)ただの人間だが、隅っこの魅力を語る自信ならある。
すみっコぐらしパワーがなくても日本の隅っこの魅力を伝えられるかどうか、僭越ながらここで一度試させていただきたい。

①宗谷岬(そうやみさき)
〈北海道稚内市〉

言わずと知れた日本最北端の地。天気が良ければ肉眼でサハリンが見えるのも隅っこポイント。
宗谷岬のすぐ近くにある「食堂 最北端」ではホタテラーメンが頂ける。大粒のホタテが乗り、海藻の出汁が溶け込んだ塩ラーメンは絶品。宗谷岬は夏でも寒いことが多く、冷えた体にラーメンが染み渡る。
ここまで来たら宗谷丘陵にも足を伸ばしたい。氷河が溶けては凍り、を繰り返してできた「周氷河地形」はもこもこした特徴的な見た目で、その上に牧場が広がる雄大な大地である。ホタテの貝殻が敷き詰められた「白い道」もフォトスポットとして人気。

食堂 最北端

②野付半島(のつけはんとう)
〈北海道別海町〉

野付半島は道東に生える日本最大の砂嘴(さし)。砂嘴とは海流によって運ばれた砂が堆積して作られた地形のことである。辛うじて繋がっているような細長い陸地の上を道路が通っており、両側に海が広がる不思議なドライブルートである。
道路の果てには灯台が立っており、その先は徒歩となる。そこはエゾシカの楽園で、何度となく群れに遭遇した。国後島が見えるのも隅っこ感を掻き立てるポイント。
頑張れば半島の先端まで行くことも可能であり、隅っこマニアにとっては聖地と言っても過言ではない。

野付半島のエゾシカ

③龍飛崎(たっぴざき)
〈青森県外ヶ浜町〉

龍飛崎は津軽半島の先端。陸奥湾と下北半島が見えて、青森県の形がよくわかる。
龍飛崎を通過する国道339号線には、階段となっており徒歩でしか通過できない「階段国道」の区間がある。日本で唯一の歩行者しか通れない国道なので、ぜひ踏破しておきたい。
また、付近にある「道の駅 みんまや」は、ケーブルカーで青函トンネルまで降りることができる。北海道新幹線の通過する音は迫力たっぷり。地上に戻ってきたら、少し贅沢に磯うにラーメンを頂こう。

階段国道(国道339号線)

④石廊崎(いろうざき)
〈静岡県南伊豆町〉

石廊崎は伊豆半島の先端。伊豆半島には数々の温泉をはじめ、修善寺や大室山、下田など観光スポットが満載だが、その最果てまで行く機会はなかなかないだろう。
先端までの道中には、石室神社という神社がある。この今にも岩に飲み込まれそうな神社は、とても神秘的な日本の風景。
真っ黒な岩が突き出した先が石廊崎の果てであり、そこからは陸地に初めてぶつかるパワフルな太平洋が望める。アクアマリンの色に似た海原を目の前にすれば、心が洗われる。

石室神社

⑤潮岬(しおのみさき)
〈和歌山県串本町〉

潮岬は本州最南端の地。同時に紀伊半島の最南端でもある。巨大な紀伊半島の先端まで辿り着いたときの達成感はとても清々しい。そこで待ち構えている「本州最南端」の碑も感動的。
実は潮岬には様々な物語が眠っている。日英の不平等条約撤廃の機運が高まるきっかけとなった「ノルマントン号事件」、オスマン帝国海軍の軍艦が沈没した際に潮岬付近に住む村人が乗組員を救助した「エルトゥールル号遭難事件」、白蝶貝を求めてオーストラリアの木曜島に渡り、危険な潜水の末に命を落とした串本町のダイバーたち…現地の展示がその物語に臨場感を与えてくれる。
潮岬まで来たら橋杭岩にも立ち寄ろう。まさに橋脚のような巨岩が立ち並ぶ光景は、自然が作ったにしては出来すぎている。

本州最南端の碑

⑥日御碕(ひのみさき)
〈島根県出雲市〉

出雲といえば出雲大社が圧倒的な知名度を誇るが、さらに奥へ進むともう一つの見所が待っている。それが日御碕である。
日御碕の先端に立つ日御碕灯台は、日本でいちばん高い灯台。しかもこの灯台は上ることができ、頂上からは開放的な山陰の海が見渡せる。
近くには出雲松島と呼ばれる岩の数々や、豪快な柱状節理も見られる。ウミネコの繁殖地・経島(ふみしま)もあり、隅っこでありながらなかなか賑やかな場所である。

日御碕灯台

⑦室戸岬(むろとみさき)
〈高知県室戸市〉

室戸岬は四国の南東に位置する岬。正直なところ周囲に有名な観光地はないが、だからこそすみっこまちとして純度が高く、浪漫がある。
室戸岬は地図上で見るととても鋭利だが、訪れてみると本当にその通りで、地形としても洗練されていて美しい。先端に広がる岩場を散策するのも、童心に帰ったような楽しさを感じられる。
本当に空を飛んでいるかのように感じる室戸スカイラインを登ると、室戸岬灯台が鎮座している。そこから眺める夕日はあまりにも雄大で、眼前の風景以外何もいらないような感覚で満たされる。

室戸岬を訪れた際のエピソード「あの夏の啓示」も公開しているので、ぜひご覧いただきたい。

室戸岬の先端

⑧都井岬(といみさき)
〈宮崎県串間市〉

都井岬は宮崎県の最南端。ゆっくりと車を走らせていると、道端で馬たちが草を食んでいる。この馬は「御崎馬」と呼ばれ、希少な在来種の野生馬である。
道の果てには都井岬灯台。美しい白亜の灯台が聳えており、灯台の立つ高台からはぐるりと水平線を見渡せる。ソテツが自生しており、植生から南国らしさを感じられる。
都井岬の観光施設にあるレストランでは鰤の漬け丼が頂ける。程よい脂と濃厚な旨味を味わえて、満足度が高い。

御崎馬

⑨長崎鼻(ながさきばな)
〈鹿児島県指宿市〉

長崎鼻は薩摩半島の最南端。赤黒い火成岩で形成されており、地の果てのような雰囲気が漂う。そこから薩摩富士・開聞岳を眺めると、端正な円錐形が海に浮かんでいるような絶景を味わえる。
指宿といえば砂むし風呂が有名で、そちらも気持ち良いのだが、ぜひヘルシーランドにも訪れていただきたい。よくあるスーパー銭湯のような名前だが、錦江湾と一続きに見えるインフィニティプールのような絶景温泉は開放感が堪らない。
もし時間があれば、JR最南端の駅・西大山駅にも立ち寄りたい。そこには可愛らしい黄色いポストが立っている。

開聞岳(長崎鼻より)

⑩南崎(みなみざき)
〈東京都小笠原村〉

東京・竹芝港から小笠原・父島までフェリーで24時間。さらに母島までフェリーを乗り継いで2時間。その最南端が南崎であり、一般人が踏み入れられる東京の最果てである。その達成感はひとしお。
徒歩1時間の遊歩道を抜けた先には「小富士」がある。その頂上から見渡せば、鮮やかなマリンブルーに囲まれた小さな岬、妹島や姪島といった島々。振り返れば母島の全景が一望できる。
すぐ近くの砂浜に降りれば、こんもりと盛り上がる小富士を仰ぎ見ることができる。目の前には透き通った海。そこは楽園と呼ぶに相応しい。

南崎(小富士より)

こうしてみると、日本は隅々に魅力が潜んでいる。風景の圧倒的な美しさはもはや前提であり、その上で私は、そこにしかいない生き物、そこにしかない建物など、各々の個性を探ってきた。そのいわば「すみっコ」たちに、今回スポットライトを当てることができただろうか。
そうしてこの記事もまた、インターネットの片隅で燦然と輝くことを願う。

※写真は全て筆者撮影

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