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Femme Fatale〜頓知気なアイドルに貴方は戦慄する〜

「ファム・ファタール」という言葉をご存知だろうか。可能な限り簡単にまとめるなら、これは「男を破滅させる魔性の女」を指しており、言うなれば傾国の美女、楊貴妃などが代表的な例だろう。
そんな名前を冠したアイドルユニット「Femme Fatale」が日本にいると知ったのはいつだっただろうか。明確な記憶はないが、少なくともMV「鼓動」が途轍もなく印象的だったことは覚えている。

そんな彼女たちの、もはや恐るべきとも言える「魅力」を、8つのポイントに分けて紹介していきたいと思う。

1.ボーカル

前提として知っておかなくてはならないのは、Femme Fataleは実の姉妹で構成されたアイドルユニットであるということである。これによって、他のグループではあり得ないレベルで声質が似通っている。二人とも歌声は少しハスキー気味で、とても真っ直ぐな歌い方をするので、聴いていて心地良い。
もちろん、似通ってはいるが少し違う、というのがまた魅力的である。姉・戦慄かなのは声に少し甘めの成分を含んでいるのに対し、妹・頓知気さきなは声が比較的さらりとしているので、そのバランスが本当に絶妙である。「フェイズ」では冒頭から二人の掛け合いが聴けるので、ぜひ一度聴いていただきたい。

2.歌詞

Femme Fataleの歌詞には、一貫して「揺るぎなさ」がある。不条理な世界に晒されながら、それでも必ず守るべきものがある、という強い意志を感じるのだ。これは従来のアイドルから見ると新しい傾向ではないかと感じている。これが如実に表れているのが、「down shout leaf」Bメロである。

いつでもリセット押せば 済むと思ってる浅はかさに
「もう一度」(なんなの?)
「やり直そう」(知らない)
そんなのいらない
Femme  Fatale「down shout leaf」

ちなみに「down shout leaf」は全て戦慄が歌詞を書いている。そうなると自然に体重の載ったパフォーマンスになるわけで、一リスナーとしては大満足である(ちなみにFemme Fataleのファンは「隠し子」と呼ばれている)。
もう一つ、比較的最近リリースされた「ピューピル」は、「水曜日のカンパネラ」の作曲・編曲者でもあるケンモチヒデフミ氏が作詞・作曲を行っているが、前述の「揺るぎなさ」を残したまま、軽妙な言葉遊びも織り込まれており、聴いていて楽しい作品となっている(以下Aメロ)。

瞳孔が開いたって どうこう言うつもりもないけど
汗が滴って 焦ってもしょうがないかもね
Femme Fatale「ピューピル」

3.コレオグラフ

「down shout leaf」は戦慄が作詞したと前述したが、なんとこの曲はコレオグラフ(振り付け)も全て戦慄が作成している。つまり彼女はシンガーでもあり、リリックメイカーでもあり、コレオグラファーでもあるということだ。どうしてこんなにも幅広い才能があるのか。
「down shout leaf」以外にも彼女が振り付けを担当した曲はいくつかあり、そのうち1stミニアルバムに収録されている「バタフライ」のdance practice videoがYouTubeで公開されている。
もちろんコレオグラファーとしてだけでなく、パフォーマーとしての実力にも目を見張るものがある。特に、冒頭でも紹介した「鼓動」は、初めて外部の方(Vogueの先生・ランディエクストラバガンザ氏)にコレオグラフを依頼したそうだが、戦慄・頓知気二人の動きが精緻に組み合わさった絶対にミスの許されない振り付けを、彼女たち二人とも完全に自分のものにしている。この練習動画も本当に見た方がいい。エッ!? ってなるから。

4.トラック

トラックは比較的テクノポップ系が多い。これが二人の歌声に本当に良く合う。ボーカロイドのような、でもその中に人間味も見え隠れするような、そんな声を引き立てるようなトラックメイキングには逆説的に感動する。特に現時点でリリースされている最新曲「Cupid」は、ポップを極めた中に儚さもある傑作となっている。
そうかと思えば、「Club Moon」のように少しファンキーなギターリフから入るクールなナンバーも彼女たちは持っている。そのモチーフは「月で餅つきをするウサギ」という、格好良さと可愛さが喧嘩することなく共存した作品になっていて、個人的にリリース直後は無限リピートしたものだった。
上記の2作品はケンモチヒデフミ氏が手がけたものだが、植松芳裕氏が手がけた「down shout leaf」、佐々木喫茶氏が手がけた「安眠swimming」も同様に、二人の声を理解した最高の作品となっている。

5.MV

Femme Fataleの魅力を語るうえで、特にMVは外せない(外せる要素もないのだが)。なぜなら、そこでは彼女たちならではの「可愛い」が完成されているからである。もしかすると、それは可愛いというだけでは言葉足らずかもしれない。そこには看過できぬほどの儚さが混ざっている。
儚さという面で見ると、「安眠swimming」は圧倒的である。まるで絵画に描かれる天使のように二人はそこにいて、今にもこの物憂い世界から羽ばたいていきそうな危うさがある。一方で、最初の方で取り上げた「フェイズ」は極彩色の中で二人が躍動していて、これはこれで世界に対するもう一つのアプローチ、「逃避」ではなく「抵抗」なのだろうとも思う。
そんな彼女たちだが、ユーモラスな一面もある。YouTuber・ゆゆうた氏が手がけた「恥晒し」では、ゆゆうた氏が彼女たちに刀で斬られたり銃で撃たれたりと、彼のコンテンツ力が十二分に発揮されている。アイドルの作品としては甚だ異色ではあるが、これが彼女たちの音楽性の幅広さでもあるに違いない。

6.メンバー構成

アイドルグループには、悲しいかなメンバーの加入・脱退がつきものである。ところがFemme Fataleにはその心配は微塵もない。前述の通りこのユニットは実の姉妹であり、文字通り他人が入る余地はないし、脱退は即解散を意味しているからである(もちろん解散もしないでほしい)。
そもそも二人は生まれながらのユニットかのように、あまりにもバランスが取れている。ボーカルについては前述の通りだが、ビジュアルについても姉・戦慄は毎度魅惑的な「可愛い」を追求し続けているのに対し、妹・頓知気は持てる天然素材の清楚さで勝負し続けていて、そのどちらの姿にも心を掴まれる。
そして最もそのバランスが印象的なのは、「after light」MVの間奏である。ここでは戦慄が真っ白、頓知気が真っ黒な衣装を身につけており、一見逆の方が似合うのでは? と思うのだが、見れば見るほど異なる解釈も出てきて、この二人のバランス感は奇跡的だと思わざるを得ない。
ちなみに基本的に作品のプロデュース等は戦慄が行なっており、頓知気は(おそらく作品に口を出さず)パフォーマンスに徹しているので、その辺りの役割分担もユニット存続の「かすがい」になっているのだと思う。

7.ソロ活動

さらにFemme Fataleの幅を広げているのが、二人のソロ活動である。
戦慄は2021年6月より「戦慄かなの」としてソロ曲をいくつかリリースしているが、Femme Fataleでやりたいこととの差別化が明確で、とても驚いた記憶がある。Femme Fataleは格好良さと可愛さが共存していると前述したが、戦慄かなのは格好良さのバロメーターが限界まで振り切れている。特に「drop」(作詞作曲・ケンモチヒデフミ氏)ではバックダンサー「ビッチーズ」を従えて激しいダンスをしているが、最後の表情が圧倒的王者なので、ぜひ一目見て心を射抜かれていただきたい。
頓知気は自らのグラビア愛が高じてグラビアアイドルとしても活躍しており、週刊プレイボーイで初登場にして表紙を飾っているほか、一昔前のグラビアをイメージしたという写真集「ときめきヒロイン」も発売している。また、頓知気もソロ曲を持っており、これまた懐かしい雰囲気の漂う楽曲「恋のロケットランチャー」(作詞作曲・佐々木喫茶氏)は名曲なので、ぜひ聴いたあとに口遊んでいただきたい。

8.ビジョン

2022年1月11日。Femme Fataleは中野サンプラザで、単独ライブ「A Night to Remember」を行った。私も配信で参加していたが、結果的にアーカイブ期限内に何度も見返すこととなった。
「忘れられない夜」を掲げて行ったこのライブは、彼女たちのこれまでの歩みを、演奏や映像で振り返るような構成となっていた。前途多難だったけれど、徐々に二人が同じ方向を向いていけるようになったことに思いを馳せ、少し胸が熱くなった気がした。
そして彼女たちは持ち曲を出し切っただけでなく、新曲を3曲も入れてきたのだ。特に「だいしきゅーだいしゅき」は相対性理論「マイハートハードピンチ」を彷彿とさせる楽曲で、個人的に刺さったので一刻も早くリリースしてほしい。
彼女たちがあの夜を忘れられない夜と言ったのは、これまでの苦労をあからさまにアピールするためでも、これまでの歩みを必要以上に賞賛するためでもない。「これから5年くらい先はやりたいことで埋まってるから」ライブのMCで、戦慄はさらりとそう言った。彼女は直向きに未来を見据えているのだ。そしてその先に、明確なビジョンを投影し続けている。

さて、これまで彼女たちFemme Fataleの魅力をお伝えしてきたが、いかがだっただろうか。こんなにわくわくさせられて、こんなに目が離せなくなるようなアイドルユニットがいるなんて、末恐ろしいとは思わないだろうか。それこそが彼女たちの魅力であり、思惑であり、つまるところ「魅惑」なのだと、私は信じきってしまっている。
早く次のアルバム出ないかなー。

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