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お月様からの問いかけ(短編小説12)
美香は1日の終わりに本を開いて、大好きなアールグレイのお茶を片手に
もう何度目かのため息をついていた。
もちろんそんな状態なのだから、開いた本の中身は頭にほとんど入ってきていない。
今、美香の頭の中に新しい文字が入る余白がないのは、夫の孝が原因だった。
もう10年以上、一緒に生きてきたのに、ここのところ、全然気が合わない夫婦生活が続いている。
「ふぅ」
美香はまたため息をついて、思考を巡らす。
ほんとはわかっている。もう残っているのは執着だけだって。
ーでも、愛してる、と「思いたい」ー
いっぱいお世話になったし、今だって嫌いなわけじゃない。
良いところもあるし、、夫婦なんてそんなものでしょう?
などと自分を納得させるだけの思考を巡らし続けて、
気づけばいつもぐるぐる思考から抜けられずため息をついている。
思考の出口が見つからない地点でもう、純粋に愛している訳ではないのはわかっているのに、どうにもこうにも、そこから離れらない。
ー愛してると、思いたいー
孝のためを想っているようで、実際は彼のためにも自分のためにもなっていないことにも薄々気づき始めていて、だとしたら、想いとは、あればいい、というわけではないのだろう。
自分と夫をがんじがらめにしている重苦しさから、視線を下に降ろすと、
ふと、開いた本のページから可愛いお月様の挿絵が覗いている。
とても穏やかに目を閉じているお月様のイラストに
ー本当は、どうしたいの?ー
そう問われているみたいだった。
そして
ーいますぐ決めなくても、大丈夫。
だけど、愛してるふりも、しなくて大丈夫ー
そんなふうに、お月様は全てをお見通しな上で
美香を全部、肯定しているように感じた。
美香は、びっくりして挿絵を見つめる。
ーそうだ私、頑張って愛してるふり、してるんだー
思考の出口が見えないのは自分を偽っているからなのかもしれない。
そう気づいた時、先ほどまで感じていた重苦しさが
ぱあああっと晴れていくのを美香は感じていた。
お月様は相変わらず穏やかに美香を見つめていた。
おしまい