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初恋の行方

試合終了4秒前

点差は2点差、3ポイント1本で逆転可能

“カウンター!”

“戻れ戻れ!死んでも打たせるな!”

スティールが成功し両チームが勝利に向けてせめぎ合う

“◯◯!!”

◯◯:ハッ……ッ!!

残り1秒、3ポイントラインまではまだ遠いが、前に行く時間はないためその場でシュートを放つ

指から伝わる感触は万全ではないものの悪いものでもなかった




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◯◯:ったく、誰だよこんなイタズラしたの!

黒板に書かれた私と◯◯を揶揄う落書きを消しながらそう尋ねる彼

私はその場で頬を赤く染めて俯くしかできなかった

◯◯:…気にするなよ、ただの悪戯だろうから

渡辺:うん…\\\

◯◯:こんなことして何が楽しんだか…幼稚だよな

渡辺:う、うん\\\

気遣ってくれる◯◯に恥ずかしさとほんの少しの嬉しさもあって、私はまともに顔を見ることができなかった

◯◯:だぁ〜っ、そんなだとコッチの調子が狂うって

渡辺:ふぎゅっ!?

◯◯:気に!する!な!!オッケー?

急に頬を掴んで強引に視線を合わせられて私は

渡辺:わ、わかった!\\\

さらに頬を染めてそう返事するしかなかった




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出会ったのはいつ頃だったかな?

それこそ、物心つく前からの知り合いで、気付いたら話をするだけじゃなくて、そばにいるのが当たり前だった

渡辺:先にかえってよかったのに

◯◯:かあちゃんがいっしょにかえってこい、って言ったから

親同士も仲が良かったからこうなったのは必然だったのかな

ご近所さんだから通う幼稚園から小学校、中学校まで同じで一緒に通うのは当たり前だったけど

渡辺:◯◯は志望校どこなの?

◯◯:日向高校

渡辺:え?!ほんと?!

◯◯:嘘言う必要ないだろ

渡辺:………私もなんだけど

◯◯:………マジ?

高校まで一緒になるとは思わなかったな

2人とも予想外で顔を見合わせてから笑っちゃったもん

まぁ、嬉しかったんだけどね、その頃にはもう好きだったから

好意を自覚したのは中学生になった頃くらいかな

それまで◯◯は特にスポーツとかしていなかったけど、急にバスケ部に入るって

身長が低いことがコンプレックスだったのかな?

私は習い事でダンスをしていたから、その流れでダンス部に入って

それぞれ帰る時間はズレるのに、何も言わなくてもお互いに合わせて一緒に帰ったよね

渡辺:バスケはどう?

◯◯:全っ然、ド下手くそ

渡辺:それ、楽しいの?

◯◯:楽しいよ!下手くそすぎるからあとは上手くなるしかないんだから!

あんまりにもキラキラと、楽しそうに話す姿が眩しくて

元々仲が良かったけど、この時かな、異性として意識し始めたのは

◯◯:そう言う莉奈はどうなんだよ?

渡辺:………まぁ、ボチボチ?

◯◯:なんだよその間

渡辺:いや、本当にビミョーすぎて

◯◯:……そういうことにしといてやるか

渡辺:ホントだってば

嘘、本当は先輩達との差に落ち込んでいた

この嘘も本当は気づいていたんだよね?

この時期は特に、休みが被った日は遊びに連れ出してくれたよね

◯◯:莉奈と休みが被ってない時に友達と遊びに行っているから気にするな

そう言って私が好きそうなところに連れ出してくれて

その優しさに触れていくうちに自分の気持ちに気付いたんだよ

私、◯◯がすきなんだ、って……




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◯◯:ったく、幼馴染みなんだからこのくらい普通だろ…

渡辺:もぉ〜、気にするな、って言った◯◯が気にしてるじゃん

いつもの帰り道、落書きの件が納得いかないのかずっとブツブツ言ってる

◯◯:でも……ほいっ、このくらいでいい?

そう言いながらさっき買っていたコンビニの肉まんを渡してくれた

渡辺:いいの?

◯◯:ん?だって莉奈も腹減っただろ?

◯◯:それとも、ダイエット中?太った?

渡辺:なっ、デリカシーッ!\\

◯◯:ハハハッ、ごめんって、痛い痛い

渡辺:もぉ〜\\

思わず◯◯の背中を叩きながら文句を言う

◯◯:ほら、冷めちゃうし食おーぜ

◯◯:いただきまーすっ……あふっ

渡辺:誰のせいだと…いただきます

渡辺:美味しい

どうも出来立てだったらしく、大きくかぶり付いた◯◯は熱そうにしていた

渡辺:考えなしだからそうなるんですよーっだ

◯◯:う、うるへーっ

渡辺:フフッ、バーカ

◯◯:ングッ、ふ〜…覚えてろよ

そんなやり取りをしているうちにいつものベンチにやってきた

小学生の頃から一緒に帰っているけど、高校生になってからはほぼ毎日このベンチで少し話をするようになった

渡辺:そういえば聞いたよ?おモテになるようですね、次期バスケ部のエースさん?

渡辺:この間は後輩ちゃんから告白されたみたいで

からかうフリをして少し探りをいれてみる

◯◯は少し、不機嫌そうにしていた

◯◯:別に、モテないし…

◯◯:それに断ったよ、今回も

渡辺:へぇ〜

内心、胸を撫で下ろしつつさらに一歩踏み込んでみる

渡辺:同級生だけじゃなくて上からも下からも告白されてるのにモテないはないでしょ

渡辺:でも、全部断ってるってことは…好きな人でもいるの?

言っちゃった、もう後戻りはできない

◯◯:……いるよ

その瞬間

渡辺:そ、そっか……

胸に鋭い痛みが走る

渡辺:(バレちゃダメだ、隠さないと)

渡辺:わ、私と一緒に帰って大丈夫なの?

渡辺:その人に誤解されるかもよ?

一瞬詰まってしまったことを誤魔化すためにからかってみる

◯◯:別に、大丈夫

◯◯:逆に莉奈はいねーの?

渡辺:わ、わたs

◯◯:人に聞いたんだから答えないとか無いからな

そんな真剣な表情で尋ねんでよ、緊張するやん

渡辺:………いるよ

◯◯:そっか……

◯◯:莉奈こそ…大丈夫なのか?その……

渡辺:うん、大丈夫…たぶん、意識されていないから

◯◯:………そっか

◯◯:もし、都合が悪くなったら

渡辺:やけん、大丈夫だってば

隠せてるよね?

渡辺:今更遠慮なんかせんよっ

渡辺:◯◯こそ遠慮せんでよ?

バレとらんよね?

◯◯:!?

◯◯:…しねーよっ

◯◯:……ら、来週!

渡辺:(大丈夫、って…どう言う意味?)

◯◯:練習試合なんだけどさ、部活ある?

渡辺:ないよっ

渡辺:(◯◯も一緒、なの?)

◯◯:ならさ

渡辺:しょんなかけん行っちゃる

渡辺:(聞きたいけど…もし、違ったら怖い)

◯◯:……ありがと

◯◯:練習試合だけど、勝つから

渡辺:ちなみに相手はどこなの?

◯◯:えっと……忘れた

渡辺:なにそれ

◯◯が気を遣ってくれたから普通に話せたけど、結局最後まで1番聞きたいことは……勇気がなくて聞けなかった




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渡辺:どうしよう…負けちゃうじゃん

練習試合当日、相手はどうも県内トップクラスの学校だったみたいで、◯◯達は負けていた

ただ、点差はそこまで離されてなくて逆転できそうなところで膠着していた

第4Q残り30秒ほど

◯◯はこのQから出場して、得点に貢献しているけどあと1歩足りない

“ここ1本獲るぞ!集中っ!!”

◯◯:はいっ!!!

だけど相手は無理に攻めてこないで、時間を目一杯使うようだ

渡辺:(お願い、チャンスきて)

私はただ祈ることしかできなかった

残り10秒

◯◯:……ッ、…ッ!

◯◯達も必死にボールを奪おうとするけど、隙を作って更に点を取られないようにしないといけなくて攻めあぐねている

残り4秒

渡辺:奪った!

“カウンターッ!!”

本当に僅かな隙をついてスティールに成功する

それと同時に一瞬で敵陣に走り込む◯◯

渡辺:行けっ

“◯◯!!”

◯◯:…ハッ!!

残り1秒

3ポイントラインまでまだ少し距離があったけど◯◯はその場でシュートを放つ

渡辺:(入って、お願い………)




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練習試合から1年と少し◯◯は地元を出たバスケが強い大学に行くことが決まっていた

あのシュートは惜しくもリングに弾かれて入らず、負けてしまった

その日の帰りに◯◯からプロを目指して地元を出ることを聞いた

そんなことを聞いてしまったら告白することもできず、ただ応援することしかできなかった

“莉奈〜、本当に行かなくて良いの?”

渡辺:いいの

今日は◯◯が地元を出る日、しばらくは帰ってこれないだろう

本音を言えば見送りに行きたい…でも、行ってしまったら気持ちを我慢することができなくなる

応援すると決めたから、邪魔するようなことはしたくない

だから見送りに行かないことにした

代わりにLINEで一言

渡辺:”プロになるまで帰ってくんなっ!“

コレだけ送った

渡辺:(…やっぱりもっと違う言い方すれば良かったかな)

そんなことを思うが、既に既読もついていた、今更もう送り直すことはできない

そんなことを思っていると着信が

_______________

◯◯
_______________



画面には◯◯の名前が

渡辺:”も、もしもし“

私は少し慌てながら電話に出る

渡辺:”機内は電話禁止じゃ無いっけ?“

◯◯:”まだ乗ってねーよ“

少し呆れたように笑いながら答える◯◯の声が聞こえた

◯◯:”来てくれなかったな“

渡辺:”どうしても外せない用事があったの“

◯◯:”そっか……“

渡辺:”何?もしかして…寂しいとか?“

思わぬ着信に動揺しながらも、努めて普段のようにからかって返す

だけど

◯◯:”うん、さびしい……”

いつもの軽口じゃなくて真面目に返されて少し困った

渡辺:“ちょ、なんでいまさら…どげんしたと?”

◯◯:“………”

いつもと違う◯◯の雰囲気に緊張する

◯◯:“…っし、莉奈?”

渡辺:“な、なん?”

◯◯:“絶対に、プロになるから…待っててくれる?”

ねぇ、それってどう言う意味?

渡辺:“急になん?別にずっと会えんくなるわけじゃなかし”

そげんこと言われたら、期待するやん

◯◯:“そうやけど…よかけん、どっち?“

渡辺:”…良かよ“

◯◯:”……そっか、ありがと“

渡辺:”……ねぇ、それってd“

◯◯:”んじゃ、もう乗るから、行ってきます“

渡辺:”ちょ、待て!切るな!”

そんな言葉は遅く、電話は切られてしまった

渡辺:……んもぉぉぉおおおおっなんなんっ?!?!

私の初恋はまだまだ続くようです

__________Fin

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