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想われ

「ん…んぁぁ…」

彼と今の関係になってから幾度目かの朝、カーテンから射し込んだ朝陽の眩しさで目を覚ます

隣を見てみると、彼はまだ眠っていた

「んぅ……」

昨夜と今の無防備な寝顔のギャップに

「かわいぃ……」

彼への愛おしさが溢れてしまい、思わず頭を撫でながら呟く

ひとしきり撫でて満足した私は

「………フフッ」

彼から幾度も愛を注がれた下腹部を撫で、穏やかな笑みを浮かべた





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





??:んん〜〜〜っ、疲れたぁ…

長時間同じ姿勢を続けて固まった身体を伸ばし、思わず口から言葉を溢す

??:んもぉ〜、言わんとってよひぃちゃんなおさら疲れるやん

??:……2人ともうるさい

森田:ご、ごめん●●くん…もぉ、保乃ちゃんのせいで怒られたじゃん

田村:えぇ〜、保乃のせいちゃうやろ、ひぃちゃんが

●●:……

森田村:ご、ごめん

今回、と言うより今年一緒にグループで制作をすることになった相方?の無言の圧に2人して謝る

森田:ま、●●くんどう?何かいいの思い浮かんだ?

気まずさを誤魔化すためにそんなことを尋ねたけど

●●:……とく何も

森田:そ、そっか…

田村:そ、そやったら何か好きな系統とかないん?

保乃ちゃんも同じ気まずさを感じていたようで、私のミスを打ち消そうとどうにかしようとしている

●●:特に……強いて言うならストリート系?って言うのかな、そんな系統が好き

一言目で嫌な予感がしたが、杞憂だったようでいい感じに返してくれた

保乃:へぇ〜そうなんや、やから●●くんってオーバーサイズのやつばっか着とるんやね

森田:かといってだらしない感じしないで丁度いい感じだし似合ってるし、センスいいんだね

●●:別に、無難なの選んでるだけだし//

あ、顔赤くして照れてる 笑

保乃:いやいや、元々のスタイルもいいんやろうけど、シルエットも綺麗やし…コレで髪がなぁ…

森田:ちょ、保乃ちゃんっ

確かに服装はいい感じなのに勿体無いとは思うけど、いま言わなくても…

●●:大丈夫だよ、自覚あるから 苦笑

●●:言い訳させてもらえるなら、ここ数ヶ月バイト入れすぎたのと課題で忙しくてね、切りに行く暇がなかったんだよね

あまり本人も気にしてなかったから良かったけど…

最初は学年が一緒でも年上だから、と敬語で固かったのがやっといい感じにコミュニケーション取れるようになったのに、ここで気まずくなったら後が大変になるところだった…

ん?なに、その顔……そうですよ浪人したんですよ、それだけここに来たかったんやもん別によかやん!

森田:保乃ちゃんのバカっ、そんな気にしちょらん感じやけん良かったけど

田村:ごめぇん

●●:それよりさ、決められるところから決めない?

保乃ちゃんをコソコソと責めているとそんな提案をされる

田村:決められるとこって?

森田:テーマを決めてから採寸で良くない?

私たちは服飾系の大学の学生で、年度末の学年毎に行うファッションショーに向けた制作のためグループを組んだのだが…

●●:………もしかして3人で歩くつもり?

田村:えっ?歩かんの?

制作だけでなく、ランウェイを歩くこともやらなければいけない。私と保乃ちゃんは●●くんだけだと嫌だろうから3人で、と思っていたのだが…

●●:ハァ〜…オレは絶対歩かないよ

田村:なんでなん!?

ちょっとこれは想定と違ったなぁ

森田:いや…正直●●くん歩かないのはちょっと…

女子が多い学校で貴重な男子生徒、しかもスタイルも悪くないときたらその子を軸に考えるのが定石なのだけど…

●●:まぁ、ここの傾向的にわからなくもないけど…マジでそう言うの苦手で…本当に無理

ここまで言うなら無理にとは言えず…本当に困った、どうしよう

田村:ちょっと待ってそやったら前提が崩れんねけど…どぉしよひぃちゃ〜ん

保乃ちゃんに至っては涙目になっている

●●:……断った手前、何の案もないのはあんまりだから、ちょっと考えてたことがあるんだけど

私たちは想定が崩れて慌てていたが、●●くんはある程度予期していたようで案を作ってきてくれていたようだった

●●:2人ともかどちらか1人に歩いてもらうのは確定なんだけど、その…ストリート系はどうかな?思いっきりオレの好みで悪いんだけど…

田村:何か考えがあるんやろ?まずはそれを教えてや、それを聞いてみんことには何にも進められへん

森田:まぁ、ちょっと予想外だったけど

保乃ちゃんも私もフェミニン系などの割と可愛い感じの系統の服装のことが多いから正直驚いた

●●:今、森田さんが言ったように予想外を狙って、ね?

●●:2人とも可愛い系のイメージがあるけど、ビジュアル良いし、メイクはよくわかんないけど、服装含めてカッコイイ系も十分以上に似合うと思ってるからね

●●:できればどちらか1人よりも、2人ともに歩いてもらいたい。そっちのほうが同じ系統で違った魅せ方もできるし…確かに大変になるとは思うんだけど…どうかにゃっ……な?///

田村:ちょっ///

全くもってお世辞じゃないことは思った以上の熱意から伝わり、私も保乃ちゃんも思わず照れてしまう…最後噛んだのは締まらなかったけど 笑

森田:でもどうする?シンプルで、割と賞とか取りづらいジャンルだと思うけど、そこらへん勝算はあるの?

いくら1学校内だけとはいえ、競い合う場であるならば1番を目指すのは当然なわけで…

●●:あぁ〜…そこはあまり考えていない

田村:……舐めとるん?

●●くんの発言は私たちにとってはとても許容できるものではなかった

●●:いやいや、そんなつもりは全くないよ!

●●くんもそのことにはすぐに気づいたようで慌てて補足を始めた

●●:その、こうゆうショーレース?コンテスト?とかで1番を狙うのはこの業界だと当たり前のことだし、その向上心がないと生き残れないのはわかっているよ?ただ、言い方悪いけど素材が2人だからさ

森田:私たちだから、なんなの?

●●:最高の素材だから、変にそうゆうところを狙わずに、素材を活かしつつ個性を出すことに注力した方が獲れると思うんだよね

うん、ナチュラルに褒めるのやめてくれん?照れるやん///

田村:ちょっ…ベタ褒めすぎひん?///

●●:……数少ないこの学校のヒロインの自覚を持ってもらっても良いでしょうか?

森田:いやいやいやいやいや保乃ちゃんはまだしも私なんt

●●:オレが他の野郎どもにど突かれてたの見ましたよね?

森田村:…………はい

そうなのだ、グループ分けをするとき、1人孤立していた●●くんがどうしても気になって声をかけて誘ったのだが、その後教室にいた男子全員にど突かれていたのだ、かなり本気で

まさかその理由がそんなことだとは…

●●:……… ボソッ

森田:ん?なんか言った?

●●:何も言ってないよ

何か言った気がしたんだけどなぁ…

●●:あと、ちゃんとしたファッションショーじゃないからできることもあるし

田村:なにやらす気なん…?

なんか嫌な予感がする

●●:2人ともダンスしてるからまぁ、軽く踊ってもらうとか…

なんか思ったより全然いいやつだった

保乃:それやったら…まぁえぇけど…

●●:じゃあその方向で…で、どうする?どちらか1人が歩く?2人とも歩く?

森田:じゃあ保乃t

田村:2人!!

…………へ?

森田:ほ、保乃ちゃん!?

田村:なんでそんな驚いとるん?

森田:いや、だって私そんなにスタイル良くないし…

●●:その発言はかなりの人を落ち込ませるからやめた方が良いと思うよ 苦笑

田村:ひぃちゃん可愛いから大丈夫!!

…保乃ちゃん、それは理由にならないと思うっちゃけど

●●:オレ的にもさっき言った理由で2人の方がありがたい…無理強いはしないけど、どうかな?

そこまで頼まれたら…

森田:わ、わかったから…そげん目で見らんで///

流石に断れん///

●●:よし、じゃあ2人とも歩くで決定!

●●:じゃあ、踊るのは?どうする?普通に歩くだけでも大丈夫だと思うけど、ジャンルやテーマによっては……

田村:ええでぇ〜

森田:それは全然大丈夫。なんなら●●くんが言ったことに全乗っかりで!

田村:ストリート系、あんまり挑戦せえへんから楽しみやなぁ

●●:……ホントに良いの?

心配そうに●●くんがこっちに尋ねてくる

森田:もちろん!

田村:なんかめっちゃ考えてくれとったし、全く変やなかったしええで!

そこからはトントン拍子で話が進み、私と保乃ちゃんが主軸になって、●●くんは諸々サポートすることになった。

なんで●●くんがメインじゃないのって?だって●●くん、メインで取り扱ってるのアクセサリー系だから、個人的に革系の小物を作ったりしているらしい

ふと外を見ると陽は落ちきって星が瞬いていた。机上に載せていたスマホを見てみると時刻は21時にそろそろなろうとしていた

森田:うわっ、ヤバい!

田村:どしたんひぃちゃん?

森田:バイトに遅れる!

シフトは22時だが、1度帰宅してから向かいたいため割と余裕がない。

田村:じゃ、今日はここいらで解散しよか

●●:そうd

森田:その前に●●くん!

●●:な、なに?

森田:そろそろSNS、なんでも良いからアカウント交換しない?時間がある時にグルチャで進められたりするし…

●●:……逆にいいの?

田村:ひぃちゃんナイス!もちろん良いに決まってるやん!!

●●:じゃあ、LINEで良い?

森田村:もちろん!!

その場でIDを交換、承認してバタバタと解散することになった





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2人と別れてしばらくしてから、スマホを忘れていることに気付く

森田:ヤバい、どうしよう

最近、誰かに尾けられているような気配を感じることもあったため、かなり焦っている

森田:ロックはかけているから最低限大丈夫だけブツブツ

元来た道をスマホを探しながら歩いていると

●●:森田さん!

森田:●●くん?

●●くんが呼んできた

森田:どうしたの?

●●:いや、スマホ忘れているのに気づいて追いかけたんだけど…相当焦ってたんだね。なかなか追いつけなくて苦労したよ

苦笑いを浮かべつつ、●●くんからスマホを受け取る。

森田:ありがと!電子マネーも結構入れていたからめっちゃ焦ったぁ〜

●●:それは良かった

●●:次からは焦っていても忘れないようにしないとね

森田:イジっちょる?

少しニヤついた笑みを浮かべる●●くんに思わずツッコんでしまった

●●:べっつに〜   イテッ

ますますニヤつく●●くんを思わず小突いてしまった…ビクとも動かなかったけど

森田:痛かって、そんなわけなかろ、白々しか

●●:こういうのはつい言ってしまうじゃん 笑

森田:とにかくありがとう、明日もよろしくね

●●:お疲れ~

●●くんと別れて、今度こそバイトに向かった





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森田:ハァ~~~ッ、疲れたぁ~~………

なんか冒頭でも同じようなこと言った気がするけど本当に疲れた…

まだ早朝と言っても良いような時間帯、バイト先が自宅の近くだからこの時間上がりでも入っているけど、普通は入らないよなぁ

森田:(バイト終わりは初めてだなぁ)

まぁ、この時間に出歩いている私が悪い部分もあるんやけどね

森田:(いつもの人通りがあれば誤魔化しやすいけど今はなぁ)

尾けられている時に撒く場所に差し掛かったが、ほとんど人のいないここから裏路地を抜けていくのは流石に危険すぎるため躊躇する

また、人がいないせいで足音もよく聞こえるため、追いつかれる可能性も高く、二の足を踏んでいた

森田:(でもなぁ…このままじゃ自宅がバレるだけなんだよなぁ)

スマホを取り出し、通知がきたフリをして画面の反射を利用して、サッと後ろを確認する

森田:(流石に反射で映る距離までは近づいていないか)

かといってカメラを起動したら尾行者にバレてしまう

森田:(よし、女は度胸っ!!)

ウジウジと考えていても状況は変わらず、逆に悪くなっていくばかりなため、私は意を決して

森田:ッッッ!!!!!!!

走って撒きにかかった

だが、ストーカーは私の予想を裏切り

“                                 ”

森田:???

追ってくることはせず、労せず撒くことができた

森田:なんやったっちゃろ…

どこか腑に落ちないが、とりあえず逃げ切れたことに安堵する

“_____そこが自宅か……"

男のスマホのロック画面では、青く何かしらのマークが光っていた





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田村:大丈夫?ひぃちゃん

森田:大丈夫大丈夫、夜勤明けで眠いだけ

あの後仮眠をとってから、授業はないが制作に向けて作業を進めるために今日も学校に来ていた

●●:お疲れさまです

コトッ、って音とともに私と保乃ちゃんの前に飲み物の入った紙コップを置いて、●●くんが現れた

田村:ありがとぉ

森田:ありがと…カフェオレ?

●●:田村さんのはね、森田さんのはストレートティー

なぜ紅茶?

●●:カフェオレでも良かったけど、寝不足っぽかったから

森田:それなら普通はブラックコーヒーとかじゃ?

●●:割と飲めないって人もいるし、ストレートティーなら大丈夫かな?って

●●:あと、牛乳とかと混ざるとカフェインって効果なくなるらしいし

森田:……私、今日●●くんと会うの初めてだよね?

●●:いや、遠目に欠伸しているのが見えたから

田村:そんなことより、●●くんって色々物知りやな〜

田村:どっからそんな知識得てるん?

なんか誤魔化されたような気もするけど、気にしすぎと思い流す

●●:昔、テレビでやってたのをたまたま覚えていただけだよ

保乃ちゃんと話している感じからも、誤魔化している感じはしないし、本当に気のせいだろう

森田:昨日大まかに決まったけどさ、今日はもうちょっと細かく決めて、デザインとかまで進めたいんだけど…

田村:やんなぁ…ある程度固めないと実際に作るのに時間を取れんくなるもんなぁ

●●:……2人だから対比にしてみたらどうかと思っているんだけど

森田:対比…?

田村:どゆこと?

●●:あくまで案ね、案。2人だから上下が白黒だったら、もう1人は黒白とか。1人無地ならもう1人は柄々にするとかね

なるほど…アリだな

●●:…………あくまでオレの提案ね?森田さんは黒系で田村さんは白系でどうかな?

田村:シルエットは?なんかイメージとかあるん?

●●:う〜ん、ここは無難にオーバーサイズかビッグシルエットで良いんじゃないかな?

●●:主役はあくまで洋服だけど、普段の2人とのギャップも作りたいから、割とメンズ寄り?ボーイッシュな感じでまとめるとか…?

田村:それでええんとちゃう?

森田:そやね、●●くんのイメージに全乗っかりしちゃおうか

●●:マジ?わりと今、思いついただけの案だよ?

森田:でも、私たちに似合うと思ってなんでしょ?

●●:まぁ、そうだけど…

田村:ならええよ、それで大丈夫!

森田:じゃあそれで描いていくね?

田村:よろしく〜

●●:……文句言わないでよ?

●●くんはちょっと不安そうに釘を刺してくる

田村:そんなことするわけないやん!なぁ、ひぃちゃん?

森田:もちろん!そもそも納得してないなら賛成しないし

森田:だけど!案を出したのは●●くんだから確認、してもらうからね!2人が良いなら、とかはなしね!●●くんがOK出さなかったら進まないからね!

●●:え?いやいやいやいやそれは、専門外だし…

田村:へぇ〜……●●くんは案を出すだけ出して、後は投げ出す責任感なしなんやぁ…そんな人とは思わんかったわぁ

●●:グッ…

森田:私たちに恥ばかかせると?

保乃ちゃんと一緒に●●くんを追い詰める

●●:ウッ……わかったよ

よしっ、承諾した

●●:多分どんなのでも大じょ

森田:今思い浮かんでいる絵があるだろうから、それじゃなかったらOK出さないでね?

●●:………え?

森田:ニガサナイヨ?

●●:…ハイ

よし、退路も絶った

田村:じゃ、これからもっと頑張ろうな!

森田:ぉおっ!

●●:おぉ……






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あのあと、大まかなシルエットを描いていると●●くんは講義が残っているみたいで、一旦別れ、保乃ちゃんと2人で作業を進めることになった

田村:ところでさ、ひぃちゃん?

田村:例のストーカー?どうなったん?

そんな中おもむろに保乃ちゃんが聞いてきた

森田:あぁ〜…今朝、バイト帰りに尾けられてた

今朝のことを簡単に伝えると

田村:アカンやん!

まぁそんな反応になるよねぇ

森田:まぁ、大丈夫やろ

田村:いやいやいや、ダメやろ!!

田村:GPSとか仕込まれてへん?

それは私も不安になったからすぐに調べてみたけど

森田:まぁ、それも考えたんやけど、多分大丈夫。何か変なもの受け取ったりいつの間にか持ってたりしてないけん、盗聴器、GPSの類は心配せんで良いと思う

田村:そんならまぁ、ええけど…家はバレとらんよな?

森田:多分ね、多分…まぁ、最悪警察にも頼るから

田村:保乃にもすぐ連絡してな!

保乃ちゃんの言葉に思わず苦笑いをしてしまう

森田:…今みたいに相談はさせてもらうよ

田村:保乃にできることがあったら、ちゃんと言うてな?

濁そうとしたことに気付かれたのか、念を押される

森田:分かっちょるよ、ちゃんと言う

田村:ジーッ

森田:本当に!!ホントやけんそがん目で見らんでよ

森田:危なくなったら警察に連絡した後に、保乃ちゃんにもすぐに連絡します

田村:ならよし

私の返事に満足したのか、保乃ちゃんは笑って返事をしてくれた

”流石に尾けられていることには気付いているか“

”GPS類は気付かれていないようだし、もっと仕掛けるか“

“ここまで…ここまでバレなかったんだ…失敗はしない…”





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その後、課題と並行して準備を進める忙しい日々を過ごしてるが、そんなことはお構いなしにストーカーは不定期に現れていた

ただ、尾けるだけでなく、しばらく尾けては止める、そして再び現れるなど意味が分からないこともあり、最初は楽観視していたが、流石に疲労感を感じ始めていた

森田:(ホントになんなん!?何ばしたかとかいっちょん分からんっ?!)

雨が降る中、傘をさして雑踏を掻き分けて進む

森田:(そいで遊んどるつもり?しけとーね)

撒くためにかなりの迂回をしているが、思考を読まれているのかそれとも何か特別な手段で把握しているのか、何度撒いても先回りして現れるストーカー

森田:(そっちがそん気やったら、コッチにも考えがあるけん!)

最近、リュックの中に用意していた‘  ’を確認する

そして、少し早足で歩く程度だったペースを、跳ねる水飛沫で濡れるのも構わず、一気に全速力にもって行き走る

それだけでなく、今までは自宅まで尾けられないように迂回し続けていたが、一直線に自宅目指して移動する

全力ダッシュを始めた私を、ストーカーは余裕なのか、追いかけてくることはなかった

“逃げても無駄だよ”

“位置情報は逐一把握できるから”

●●:すぐに先回りしてあげるよ…





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最初は子供が迷い込んだのかと思った

受験会場で見かけた君は女性だとしても一際小さく、中学生に見間違えた

ただ、よく見ると身長に見合わぬ落ち着いた雰囲気から、同じところを受ける人だとわかった

1年次の時は全くと言っていいほど接点は無く、ただ遠くから眺めていた

周りの協力を得ながら楽しそうに夢に向かって走っていく君は、親の反対を無視し、半ば家出のようにして進学してきた自分と違って、あまりにも羨ましく、それでいて眩しくて………気付けば惹かれていた

2年次の時に、突然チャンスはやってきた

この学校は総合的にファッションデザインを学ぶ学校らしく、1年間で、最低でも1グループで1つのトータルコーデを作らなければいけない

学科の垣根を越えてグループを作り、1つの作品を仕上げていくが、1年次はまだ入学したてであることも相まって割と大人数、あるいは1クラスくらいの人数のグループが出来上がることもざらにあり、それでどうにか乗り切ることができた

ただ、2年次はその時に特に馬が合った人間と少なくて3人、多くても10人に満たない程度の人数でグループを作ることが多い

それなりに交友関係は築いてはいたものの、人見知りもあり、浅い付き合いしかなかったオレはここで孤立し、ピンチだった

●●:(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいどうしよう孤立した詰んだ流石に1人は無理!)

別にグループを作って作品を出さなければいけないなんてルールはないため、個人でトータルコーデを組んで出す人間もいるが、学科により学ぶ内容は違い、場合によっては全くもって専門外のことにも挑戦する必要があり、よっぽどのこだわりや才能がある人以外は大抵グループで役割を分担しつつ製作する

●●:(クッソこんなことになるならジャケットとか挑戦しとけば…いや、今更後悔しても遅い、そんなこと考える前にこの状況を打開することを考えないと…)

その成果を発表する場が年度末のファッションショーなのだが、アクセサリー系の学科を選んでいたオレはそこに1人で臨むことになり詰んでいる……はずだった。森田さんが声をかけてくるまでは

森田:●●くん、だよね?よかったら私たちと組まない?

今の自分の窮地と好意を抱いている相手と親しくなるチャンスを逃すなんてことはできなかった

製作グループに入っていないとはいえ、それなりに親交のある男友達はいたため、羨まれてど突かれたけども

田村:保乃らな、浪人してん

まさか年上と思っていなかったため、最初は人見知りと緊張がひどかったけど、田村さんも含めて良い人だったため、徐々に緩和していった

●●:(あぁ、やっぱり好きだなぁ)

それと同時に好意もどんどんと大きく膨れ上がっていった

森田:アッハッハッハッ

普段は冷静だがツボが浅くゲラなところも

森田:そうなんですけどもぉ

森田:ひかるさんは疲れたのだ

実はちょけるのも割と好きなのも

親交を深めるほど見られる君の一面にますます好きが募っていった

それと同時に今後、他の誰かがこんな一面を知る…だけではなく、好意を向けられるかもしれない可能性に、気が狂いそうになった

いや、まさしく気が狂ってしまったんだと思う

ダメなことは分かっていた

ただ、君を好きになればなるほどもっと様々な面を知りたくなり、気付けば尾行を始めていた

最初はキャンバス内だけだった

●●:(何処で過ごしているんだろう?)

そのうち

●●:(バイトはしているのかな?)

●●:(どこにバイト先はあるんだろう?)

●●:(どこで暮らしてるのかな?)

学外まで尾行する範囲が増えていった

罪悪感に苛まれつつも抗えぬ衝動に抵抗できずに過ごしている時に、その時は訪れた

森田さんがスマホを置き忘れたのだ

画面が見える状態でロックを解除をするなど、その日は隙が多く、タイミングよく連絡先も交換もでき、おかげで盗聴用のアプリのダウンロードと位置情報共有の設定をスムーズにすることができた

位置情報共有と盗聴のかいあって、自宅の位置とプライベートの過ごし方などを知ることができた

そして、それと同時にさらに自ら以外に知られたくない、と独占欲も増していった

●●:(絶対に失敗しない……大丈夫、完璧なはず…)

雨が降るとある日、作戦を実行する

作戦と言っても自分がストーカーをしていたことは知られるわけにはいかないため、たまたま遭遇し、ストーカーから守るといった感じだ

ストーカーはオレなため、オレが森田さんと合流した時点でほとんど成功みたいなもんだが、念には念を入れるため、とことん恐怖を煽ることにした

流石に窮地を救えば多少、好意を持つだろう

後はそこからさらに仲を深めれば良い…そう思っていた

●●:(タイミングミスった、自宅に一直線に向かい始めた!)

●●:(まぁいい、すぐに先回りしてあげるよ…)

とは言いつつ先回りをしようとするも、森田さんと変な場所で鉢合わせるわけにはいかないため、どうしても多少迂回する必要があるぶん追いつけない

●●:(どうする…?一応、ロックとかは分かっているけど)

水たまりなど気にせず、水飛沫を跳ねさせながら考える

幸い、森田さんの住んでいる場所はナンバー式のロックで、開ける度に口に出していたため覚えている

同タイミングくらいで森田さんの自宅マンションに到着する

森田さんがエレベーターに乗ったタイミングでエントランスに入り、ロックの解除を行う

コレならまだ階段で間に合うはず

急いで階段を駆け上がり、森田さんの部屋のある階に辿りつく

その瞬間

森田:待っとったよ?

物陰から現れた森田さんに

●●:?!?!?!?!?!

何かを嗅がされ、そこでオレの意識は途絶えた…

森田:やぁっと仕掛けてきてくれた

森田:重っ?!力が抜けたこ人間ってこげん重かと?





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●●:ぁ……ここ、は…?

あ、●●くんが目ば覚ましたみたい

森田:あ、目が覚めた?おはよぉ

●●:森田さん?!ってこれ…

●●くんが周囲ば見渡して、絶句しとった

森田:そうばい、全部●●くんばい?

微笑みを浮かべながら●●くんに話しかける

●●:は?……え?

直前に嗅がされた麻酔の影響か、はたまた状況の異質さ、自分がストーカーをしていた相手にストーカーされていたことの影響か、いずれにせよ、●●くんは混乱しているようだった

森田:●●くんが尾けていることは知っとったよ?

森田:そうしやすか状況ば作ったのもひかん考え通りばい

その混乱にさらに拍車をかけるように情報をどんどん伝える

思考する隙間を与えないようにするために

森田:今の時代って便利よねぇ…スマホ同士の位置情報共有とか少し設定をするだけで簡単にでくるもんね?

森田:しかも盗聴だってスマホにアプリを1つ落とさせるだけで簡単にでくる

●●くんは自身が仕掛けていたものがバレていたことに動揺したのか

●●:ぁ……ぅ……ぃ…ぁ……

言葉にならない声を漏らすだけになっていた

あと少し…

森田:ひかはね?…●●くんのことが好き、大好き、誰よりも好き、愛しとぉっちゃん。やけん、●●くんが尾けてくれとることに気付いて嬉しかったっちゃん!

森田:ひかの片想いじゃない!●●くんもひかのこと好いとったんだ!、って

森田:それなんに、一向にアピールしてくれん、アピールしたっちゃ気付いてくれん……

森田:どれだけひかがこん時ば待っとったて思う?

ベットに腰掛けていたが、徐々に●●くんに被さるように迫る

●●:森、田…さん……

森田:そん呼び方嫌や

●●:え?…

森田:ひかる、って呼んで?

●●:いや、でも…

森田:想っていた子に想われていたんよ?

もうちょっと…

●●:ひかる、さん……ンッ

森田:ンゥ…ねぇ

口付けを交わし、最後のひと押しをする

森田:好きな子が、ベッドで何がしたっちゃ良かって言いよぉっちゃん

●●:………ぁ

森田:何もせんと?普段考えとったこと、全部したっちゃ良かよ?

●●:ッッ!!!

森田:ンゥッ……

●●くんは我慢できなくなったようで、姿勢を入れ替えながら抑え込んでくる

●●:ひかるっ…好きっ……好きっ!………

森田:へへっ、ひかも好いとーよっ

●●くんに激しく求められながら、雨はいつの間にかすっかり晴れて、洗い清められたように澄み渡った星空に、2人で溺れていった





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田村:おはよぉ

森田:おはよ、保乃ちゃん

あ、ひぃちゃんやぁ…ほにょ?チョーカー?

田村:ひぃちゃん、チョーカー付けてるって珍しいなぁ?

可愛らしいハート型の錠前のモチーフがついたチョーカーをつけていた

田村:あれ?それ鍵本当に閉めれるん?

森田:うん、そだよぉ〜

ただの飾りと思っていたモチーフはちゃんと錠としても使えるようだった

田村:鍵は?どうしとるん?

森田:家に置いてきた

その時、●●くんが教室に入ってきた

“●●はよーっす!”

●●:…うす

“アレ?珍しい!!ネックレスつけてきてんの?”

●●:どうでも良いだろ

ほにょ?これは?

田村:ひぃちゃん?

森田:なに?

ひぃちゃんちょっと目が泳いでる?…

田村:もしかして…

“え?鍵?これなんの鍵?!”

●●:うるせーよ…

ひょっとして、ひょっとするかも…?

田村:もしかして…?

森田:保乃ちゃんうるさか///

顔赤なっとるし…ビンゴやん!!

田村:ふ〜ん、そっかそっかぁ

思わずニヤニヤしてひぃちゃんを見つめる

森田:もぉ、もっと上手に隠してよ●●…

小声で言うたことは聞こえへんかったことにしたろか 笑

田村:良かったな、ひぃちゃん

森田:よかけん黙って///


______Fin

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