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ワガママな迷い猫1

君を拾ったのは

◯◯:(うわ、マジかよ)

急な雨が降ってきて

◯◯:(こんな時間に…危ないのに…)

駅の中で雨宿りをしながら、なけなしの所持金で傘を買うかどうか考えている時だった





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◯◯:おいおいおい予報外れてんじゃん!

バイト終わり、自宅近くの駅で降りて外に出ようとすると予報外れの雨が降っていた

◯◯:傘持ってきてないて…

思わず額に手を当てて独言る

幸い、明日は2限からのため朝から洗濯物をする予定だったし、家も駅からそれほど離れていないため走っても良い。

帰宅してすぐにシャワーを浴びれば風邪にもならないだろう…と思うのだが

◯◯:(今日に限って荷物少なくてパソコンを守れねぇ…)

壊れでもしたら手痛い出費になるため、普段通りにするかどうか迷っていた

◯◯:(時期的にも降り方的にも通り雨なんだろうけど…)

いくら2限からだろうと朝から家事をする予定があるためあまり待つ時間は取れない

雨宿りをした分だけ就寝が遅くなり、睡眠時間が削られてしまう

◯◯:くそぉ、折り畳み傘を無くしてなかったら…

自分の無くし物をしやすい気性を恨みつつ財布の中身を確認する

幸い、駅の中にコンビニが併設されており、そこには傘も売っている上に所持金は足りている。足りているのだが…

◯◯:(くっ、出費…)

お金に苦労している学生の身分として、普段から自転車なり徒歩なりで交通費を浮かせつつどうにか生活している身としてはちょっとのことでも躊躇ってしまう

だからだろうか、普段なら特に周りを見ずに通り過ぎていた駅構内を見回してしまい、見つけてしまった。

◯◯:(うわっ、マジかよ…)

最初は外にいたのだろう、すこし濡れた制服姿で出入り口付近の壁に寄りかかって項垂れている少女を

◯◯:(こんな遅い時間にそんな格好で…危ないのに…)

時刻は23時過ぎ、制服ということはもう補導される時間

酔っ払ったオヤジどもだけでなく、色々と“そういうこと”目的の人間もいるだろう

お金をもらい“そういうこと”で小遣いを稼ぐ人間もいるとは聞くが、目の前の少女は恐らく違うだろう

◯◯:(家出…か?)

塾なども考えられたが、少女はそれらしき荷物を持っておらずまた、雰囲気的にもそんな気配を漂わせていた

◯◯:(俺にはそんな余裕はない、ないんだ)

来年度には卒業が控え、これからますます忙しくなる中少ない仕送りとバイト代でやりくりしなきゃいけない我が身を省みて、ムクムクと湧いてきたお節介心を封じる

◯◯:(それに、犯罪になってしまう)

流石に前科者にはなりたくない、そんな思いもあり、少女を無視することに決めた

◯◯(…仕方ない、傘買って帰るか)

無視することに決めたのだが……

??:___…

◯◯:アッ………

たまたま、目が合ってしまった

すぐに、だけどもさりげなく目線を逸らしたのだが…

◯◯:(やっべ、ヤラカシタ…)

少女の気持ちは分からないが、どうにも無視しようとしたことを責め立てられているように感じてしまう

◯◯:(気にしすぎ気にしすぎ…絶っっ対にそんなことはない)

そうじゃないことは分かっているものの、一度抱いた思いはなかなか消えないもので

◯◯:(はい、ダメでしたー)

◯◯の手には傘だけでなく、お弁当とお茶の入ったレジ袋が握られていた

自分が余計なお節介をしがちだと自覚のある◯◯は再度額に手を当ててしまう

◯◯:(ハァ〜、切り替えろ、やるならちゃんとやれ!)

そう自身を鼓舞し、少女に声をかける

◯◯:…こんばんは

少女と少し身長差のあった◯◯は、若干屈んで目線の高さを合わせつつ、少女に声をかける

??:ッッ!?

少女は物思いに浸っていたのか、◯◯に声をかけられて驚いた様子で後ろに退こうとした…壁だったので退けなかったが

◯◯:あ、急に声をかけられたら怖いよねごめん

◯◯:その、信じてもらえるかは分からないけど怪しい者じゃないから

普段から病気にならないようにマスクをしている◯◯は、マスクの中で必死に愛想笑いを浮かべる

それでも少女は警戒の眼差しを◯◯に向けていた

◯◯:(そりゃそうだよな、時間帯的にも警戒せざるを得ないよな)

そんな思いと共に◯◯の愛想笑いも苦笑いに変わる

それと同時に◯◯は少しだけ緊張が解れた

◯◯:って、まぁ怪しい者じゃないって言われても信用できないよね〜

◯◯:それでも、信用してもらうしかないんだけどさ

少女は“そうゆうこと”を目的としている人ではないこと、そして望んでいないことが分かり、緊張よりもお節介心が大きくなる

◯◯:あてがないなら一晩、ウチにくる?

◯◯:多分、このままだと補導されるだろうし…嫌なら嫌で別に良いけど、せめてコレは受け取ってほしいな?

一晩泊めても良いことを伝えつつ、それには流石に乗ってこないだろうと思って、購入した弁当類の入ったレジ袋を差し出す

??:__…

◯◯:おろ?

だが、少女は予想に反して◯◯の手首を掴んだ

◯◯:ウチに来る、ってことで良いのかな?

少女はコクリ、と頷くと

??:補導はイヤだ

と、ボソッと答えた

◯◯:そっか

再度苦笑いを浮かべながら◯◯は敢えて流して続けた

◯◯:とりあえず、一晩は一緒に過ごすし、名前だけでも教えてもらえるかな?

向井:純葉…向井純葉…

改めて見ると少女、純葉はすごい美少女だった

どこか猫を彷彿とさせる顔立ちは、今は本人の気持ちに合わせ陰をまとっている

そんなことを思っていると、◯◯の脳裏に

◯◯:(懐かしいな…元気にしているかな…?)

不意に、幼い頃近所に住んでおり、よく一緒に遊んでいて、懐かれていた少女の姿が思い浮かんだ

兄弟がいなかった◯◯は、懐かれたことが嬉しくて進んで世話を焼いていた

初対面の相手、しかも異性についていくことを選んだ目の前の少女に、その子の姿を重ねて懐かしさを感じつつ、ますますお節介心が湧いてきた

◯◯:☆☆ ◯◯です

◯◯:改めて、よろしくね?

レジ袋を手首に移して手のひらを差し出した





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◯◯:(さぁ、ウチに誘ったものの、どうすっかなぁ)

傘はこれ以上購入したくない(手持ちが足りないためできない)ため、今ある1本でどうにかするしかないのだが…

◯◯:(まぁ、取れる選択肢なんて1つなんだけど…)

◯◯:向井さん?早速で悪いんだけど…俺の荷物持ってもらっても良いかな?

向井:え…?

いきなりパシリのような扱いをうけ、間違ったかと思ったのか、露骨にイヤそうな表情を浮かべる向井

素直に感情が出てくるところに微笑ましさを感じつつも

◯◯:いや、情けない話、手持ちがなくてこれ以上傘を買えなくて…荷物にパソコンが入っていて、濡らすわけにはいかないし、向井さんと一緒に荷物を傘の中に入れてもらいたくて、ね

苦笑いとともに理由を説明する

向井:なら、一緒にその傘に入るんじゃダメなんですか?

◯◯:へ?

向井の予想だにしていなかった返答に思わず間抜けな声が出てしまう◯◯

向井:だから、

◯◯:ストップ、意味はちゃんと分かっているから…いいの?

向井:だって、今の説明だと、◯◯さんは傘に入らずに濡れるつもりなんですよね?流石にそんな恩知らずじゃありません

◯◯:別に俺から提案しているから恩知らずにはn

向井:なります!

食い気味に否定された

向井:とにかく、荷物も持ちますし一緒に傘使いましょ?

◯◯:ちょっと待った

更なる予想外に一旦ストップをかける

◯◯:一緒に傘に入るのは受け入れるとして…どうして向井さんが荷物を持つことになるの?

向井:え?だって◯◯さんが持って欲しいって

◯◯:それはパソコンを濡らさないためであって…ってかそもそも荷物持つの嫌だったんじゃないの?露骨に嫌そうな表情してたし

向井:それは、人を濡らすくせに荷物まで持たせるつもりなのかと思って…

◯◯:なんで自分は傘に入らない前提で考えているのよ

向井:それは◯◯さんもじゃないですか!

◯◯:………ふっ……くっ……ははっ…

変なところで同じような考えをしていたことがなんだか可笑しくなり

◯◯:くっ…はっはっはっ

向井:な、なんですか?

◯◯は笑い出してしまった

◯◯:ククッ…別に、なんでも?…クハハッ

◯◯:ハァ〜…変なところで同じようなこと考えてたのが面白くて

向井:変なのは◯◯さんだけです

話したことで緊張が解れてきたのか、生来の人懐っこさが出てきたのか、向井は不貞腐れた表情を浮かべる

向井:そもそも、明らかにめんどくさそうな事に首を突っ込んでくる◯◯さんに変だなんて言う権利ないと思いますっ

◯◯:はいはい、その変人に雨の中、途方に暮れているところを助けられたのは一体誰ですかねぇ?

向井:…うるさいですっ

さらに不貞腐れてそっぽを向いてしまう向井

話しかけた時の警戒はどこへやら、初対面とは思えないほど素直に感情を見せるところにますます微笑ましさを感じる。

◯◯:いつまでもここにいてもなんだし、行こっか

◯◯:嫌かもしれないけど、濡れないようにくっついてね?

向井:分かりました…

向井:それと、くっつくのがイヤな人について行きません

◯◯:ハハッ、それもそうか

早速購入した傘を開き、自宅への道を進み始める

◯◯は大きめの傘を購入していたため、身を寄せ合えばなんとかギリギリ2人入り切ることができた

◯◯:(まぁ、あんなこと言ってはいたけど不安だろうから多少距離は取らせてもらうけどね)

急な雨、すぐに駅に入れたのかあまり濡れているようには見えなかったが、気温が下がったことと、知らない男についていく恐怖もあるのか、向井は少しだけ震えていた

◯◯:…もし、言いたくなかったら言わなくても良いんだけどさ

向井の雰囲気的にただの家出だろうとは思うのだが

◯◯:なんで家出したのか…聞いても良いかな?

先ほどから垣間見える根の素直さ的に、そんなに母親と上手くいっていない訳ではない、と思われるため、場繋ぎには重いが尋ねてみる

向井:…ちょっと、くだらないことで喧嘩して

向井:それで飛び出しちゃって…

向井:本当は友達の家に泊めてもらうつもりだったけど、都合が悪かったみたいで…

◯◯:それでとりあえず駅にいた…と?

コクリと頷く向井

◯◯:そっか…お母さんから連絡きてないの?

向井:…さっきから沢山きてる

向井:………ちなみに今も

少しだけ思案する◯◯

◯◯:………連絡って電話?

向井:うん……

◯◯:………(こりゃ明日は代返かなぁ)

◯◯:明日、電車に乗るお金はあるの?

向井:……ない、です

◯◯:了解……明日、送ってあげるからちゃんと帰って謝りなよ?心配かけたんだから

向井:……ハイ

そんなこんな話していると◯◯が住んでいるアパートに到着した

玄関を開け中に入る

◯◯:ちょっと待ってね

そう言うと◯◯は玄関先に用意していたタオルで、濡れた右肩付近を拭きながら荷物をフックにかけ、新しいタオルを取り出して、向井に渡す

◯◯:濡れた?

向井:肩…

◯◯:気にしなくて良いから

肩が傘からはみ出していた事に気づき、気にする向井に返事をし

◯◯:向井さんは濡れなかった?

再度問いかける

向井:濡れてないです

◯◯:そりゃ良かった

◯◯:着替え、俺ので良かったら用意するからシャワー浴びてきな?

向井:?!?!

向井:そんな?!純葉は大丈夫です!

◯◯:遠慮しなくて良いよ、俺もあとから入るから

◯◯:一応ちゃんと掃除しているからそんなに汚くないし…シャンプーとかは安いのだけど許してね?

◯◯:あ、それと親御さんに説明したいから向井さんがシャワー中に着信あったら出るね?

◯◯:経緯はどうであれ、誘拐みたいなもんだし

向井:……ハイ

せっかく晴れてきていた陰を、再度まとい始める向井

◯◯:気にしないで良いよ

◯◯:俺が勝手にお節介してるだけだし

その様子が可愛らしく、思わずフォローする◯◯

向井:アリガトウ、ゴザイマス…

◯◯:もぉ〜…気にしないで良いの!

◯◯:ほら、はやくシャワー浴びてきな?そこにあるから

風呂場を指差し伝える◯◯

その時タイミングよく

Prrrr、Prrrr

向井のスマホに着信があった

向井:ま、◯◯さん

◯◯:ん、電話きた?

◯◯:じゃあ、話している間にシャワー入ってきな?

向井:……お願いします

葛藤があったようで、一瞬固まったが、◯◯に任せる気になったみたいで、スマホを◯◯に預け、向井はシャワーを浴びに向かった

◯◯:(さぁて、大仕事だぞっ、と)

_______to be continued

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