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褒め屋

A:TBSの公募出した。
B:ほう。
A:うまく行ったらTBSのドラマで華々しくデビューですよ。
B:おお、いいね。賞金は?
A:300万。
B:すご!Switchのゲームが全部買える!
A:誰が買うか。一気に300万分のゲーム買ってもどうせやらねーだろ。
B:そうか。
A:まあ、いい報告ができたらと願ってますけどね。どうなることやら。
B:ちゃんと努力してるんだな。……最高じゃん。
A:おお、ありがとう。
B:いつか絶対売れるよ。
A:いつかじゃ困るわ。
B:それはもう実力次第だからねえ。
A:わかってるよ。とりあえずひと段落したからリフレッシュしようと思ったんだけどさ。
B:いいじゃない。
A:俺、趣味がないんだよね。
B:何だよそれ。好きなことしたらいいじゃん。
A:それが別にないんだよ。
B:選択肢無限かー、いやあ……そんなお前って最高だな。
A:無限だから困ってんだよ。
B:黙って寝とけば。
A:寝たさ。たっぷり寝て疲れを癒やした後にやることよ。
B:何でもいいでしょうに。
A:酒飲まないしギャンブルやらないし旅行とかも興味ないし。いざという時に遊ぶ方法がなくてね。
B:ほえー。
A:お前はえっとあれか、クレーミングだっけ。
B:クレーミング……あ、世直しのこと?
A:良いように言うなあ。
B:ピ、ポ、パ。
A:あれ、電話してる。
B:もしもし、おたくのとこの公園のさあ、ベンチがよごれてんだよね。
A:こわ。自治体にクレーム入れてるじゃん。
B:子供には将来、自分が育った市のために貢献しようと思ってもらわないと終わりでしょ。それなのに公園がボロいとかって理由で見限られたらどうすんの。それって行政って言えるんですかねえ、おおん!!!!!?
A:モンスター市民ですよこれ。
B:ピ、ポ、パ。もしもし、おたくのとこのキャッチコピーさあ、わけわかんないんだよねー。
A:うわ、今度は企業にクレーム入れてる。
B:「一緒なら、何だってできる。」だって?じゃあ僕、月まで3秒で行きたいんですよ。お願いしますね。え、だって「一緒なら、何だってできる」んでしょ。最初からできないとわかってるくせに大きなこと言ってお客さん惹きつけるって、ビジネスとして無責任すぎやしませんかかねえ、おおん!!!!!?
A:これはどっちもどっちな気がするけど……やっぱお前がわるい。
B:ピ、ポ、パ。もしもし、おたくのとこの芸人さんさあ、おもしろくないんだよねー。
A:待てよ、どこにクレーム入れてんのか知んないけど、やべーな。
B:噛んだりハズしたりすることを天然とかって甘やかされて本人も悪びれることなくかわいいとか言われて調子こいて、それって本物の笑いなんですかねえ。おおん!!!!!?
A:同業者批判はやめろ。絶対怒られる。
B:世直しだよ。良くないと思うことは指摘して改善を求めていかないと。それは回り回って世のため人のため本人のためになるんだからさ。
A:言い方もあるだろ。こえーんだって。
B:お前はほんと優しいからなあ。その優しさに救われた人が大勢いると思うと……最高だよ。
A:何だよそのフォロー。
B:まあ、そうは言っても世直し稼業は引退したからね。もうやってないです。
A:そうなの。良かったよ今の時代、トラブルメーカーはやばいやつ扱いされるだけだからね。
B:今はむしろ逆です。
A:逆ってなにさ。
B:プライザー。
A:プライザー?
B:実はもうプライザーとしてすでに3発ほど打ち込んでますけどね。
A:打ち込む?何がよ。
B:素晴らしいね。答えを見つけようと求道するその姿。もう好奇心の塊じゃん。……最高。
A:さっさと答えろ、つってんのよ。……ん?
B:気付いた?
A:今日何かやたら持ちげてこない?
B:持ち上げるっていうか、まあそうね。
A:良いこと言ってくれるっていうか。
B:ええ私、褒めるを趣味としてやらせてもらってます。
A:そういうことか。プライザーっていうの。え、ちょっと興味ありますね。
B:単純よ。褒めるだけ。褒められて相手はうれしい。それを見て自分もうれしい。最高。
A:なにそれ、素敵な感じ。宗教みたい。
B:やめろ。そういうのではないから。
A:ポジティブ教みたいな。
B:大丈夫だって。これの何が良いって、お金かからないからね。
A:たしかに。言葉とかリアクションとかで良いんでしょ。
B:そうよ。しかも、リターンを得られることもあるし。
A:え、そうなの。
B:前に悩んでる人を褒めたら、その後にうまくいって「あの時のお礼です」つって粗品もらったことあるよ。
A:へえ。
B:あとは、お客様センター。
A:え、食べ物のパッケージとかに書いてある問い合わせ窓口みたいなやつ?
B:そうそう。あそこ普段はそれこそクレームとかばっかり来るらしいんだけど、良いこと書いたらすぐ食いつくのよ。おたくのお菓子がめちゃくちゃおいしくていつも食べてます。いつもいつも食べてるからまわりから「キャベツ大魔王」とあだなをつけられました。でもそのおかげで彼女ができて、このたび結婚することになりました。毎日幸せです。て送ったのよ。
A:待て待て。だいぶはしょったな。
B:そしたら向こうから「ぜひお二人で召し上がってください。末永くご幸せに」つってお菓子くれたんだから。
A:嘘だろ、すごいな。
B:さすがに嘘だけど。
A:嘘かい。
B:信じるなんてマジでピュア・ハートの持ち主だね、きみ。……最高だな。
A:バカにしてんだろ。でも褒められると気分良いわな。
B:でしょ。
A:でもむずかしいこともあるじゃん。たとえば、会社クビにされちゃった人を褒めてください。
B:ええ?まあ、たまたまその会社ではあなたのスキルを活用できる人がいなかっただけで、もっと活躍できるところに行くチャンスですよ、とかね。
A:はあ。じゃあ、フラレちゃった人を褒めてください。
B:うーん、次はもっと良い人に出会えるためのステップアップですよ、とか。
A:ほお、うまくできるもんだね。
B:待って、違うよ。
A:何がさ。
B:俺は褒め屋であって、別に慰め屋じゃないから。
A:そうか、微妙に違うのね。
B:全然違うよ。さすがにマイナスをプラスにするのはむじい。
A:なるほど。
B:かといって、「髪切ったんです」みたいに、褒め待ちっていうのかな。プラスにプラスをすることもしない。
A:褒められたいと思ってる人を褒めてもポイント低いんだ。
B:そうそう。予定調和は世界の敵だからね。
A:何だよそれ。素直に褒めりゃあいいだろ。
B:それはね、ごめんなさい。素人の考え方なんですよ。
A:はあ。
B:僕も最初はそうでした。やたらめったら褒めまくって、褒めの安売りしてました。
A:褒めの安売り。
B:でもやっぱ自分の労働に対して正当な報酬を設定しないと、業界自体のダンピングにつながるからさ。
A:よくわからん。え、労働とか報酬って言ってるじゃん。
B:今は趣味を超えて、半分ビジネスでやってますから。
A:マジかよ、金取んの。
B:1プライズ110円(税込)。
A:1回褒めるごとに、てこと?妥当なのかわかんねー。
B:あとはコースごとに20分5000円、30分3000円、1時間1000円。
A:そういうのって普通、高くなるだろ。やれやるほど損じゃん。
B:だんだん飽きてくるからね。1時間褒められても後半きついのさ。
A:言っちゃうんだ。ちなみに今このくだりは?
B:24000円になります。
A:たけーよ。
B:時間短いしほら、ギャラリーが多いからね。
A:誰も見てねーよ。褒めるクオリティも低いし、なんだよその仕事。それでほんとにプライザーって言えるんですかねえ。おおん!!!!!?

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