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考察系漫才師カニバルズ


A:どうもー、カーニバルのように陽気で楽しい笑いをお届けにまいりましたー、カニバルズです。モジャコー。
B:棒読みするぐらいなら言うなよ。
A:そうですか。
B:すみませんみなさん、よろしくお願いしますね。
A:えーと、はじめましての方も多いと思いますが僕らは「考察系漫才」なんてものをやらせてもらってまして。
B:そうでしたっけ。初耳ですけど。考察系漫才?
A:最近、マンガとかドラマの考察コンテンツあるじゃないですか。
B:あー、作中の細かい描写やセリフをファンが読み解いて、あれはこれを表現してるんじゃないかとかこれが伏線だったのか、ていうのを見つけて盛り上がるやつですよね。
A:そうそう。謎解きとかも流行ってますからね。僕らもみなさんにいろいろ考えてもらいながら漫才を楽しんでもらえればと思ってまして。
B:いいですね。さぞ、この会場をワカシてくれるのでしょう。
A:おまかせください。
B:さて、どんなネタでしょう。
A:ちょっとね、ホラー系です。
B:あら、大丈夫ですか。ホラー系が苦手な人もいますからね。
A:そういう人は手のひらに人という字を書いて飲み込んでください。
B:あれは緊張を和らげるやつで、恐怖は抑えられないでしょうよ。
A:ご心配なく。どうせフィクションですから。
B:それ言い出したら終わりだろ。まあ、軽い気持ちで聞いてくださいてことよね。
A:そうそう。えっとね、知り合いに信仰心のあついやつがいるんですよ。
B:あら、あんまり僕らはね、無宗教て人も多いですから。その神様は?
A:えと……ネクタイ。
B:ここは笑って大丈夫なとこだよね。
A:そりゃそうですよ。漫才ですから。
B:なんだよネクタイの神て。近代じゃん。西洋じゃん。男限定じゃん。
A:ちゃんと結ばないと呪われるっていう。
B:しょうもなさすぎるわ。うるせえよ。
A:ごめんごめん。急に振るから。
B:ボケのクオリティは担保してくれよ。
A:マジな話、神様はきゅうりなんだけど。
B:それはそれでヤバいな。
A:会社にイナダっていうイヤな上司がいるんだって。
B:はあ。
A:仕事はめっちゃできるんだけど人間性に問題があって、周りの人がどんどん病んでっちゃうていう。
B:ああ、いるよね。そういう人。
A:いわゆるブリリアントジャークてやつ。
B:はい?
A:ブリリアントジャーク。
B:何それ。
A:優秀なんだけど人間性に問題がある人をブリリアントジャークていうんだって。
B:それはさっき言ったのと同じじゃん。
A:へ?
B:何で普通に説明したことを、わざわざ難しく言い直すのよ。
A:お前が聞くからだろ。
B:そりゃ聞くわ。わけわかんない。ブリリアントなんちゃらて。
A:そうか。
B:あ、ちょっと待てよ。こういうのが実は伏線になるっていうね。みなさん気をつけてくださいよ。
A:いや、これは単純に最近覚えた頭良さそうな言葉だから使ってみたくて。
B:なんだそれ。
A:忘れてください。
B:変に遠回りしたなあ。で何だっけ。
A:イヤな上司がいるって話よ。
B:そうそう。
A:イヤはイヤなんだけど、仕事はできるから尊敬してるし、目標ていうかいつか超えていかなきゃいけない存在でもあるわけ。
B:ほお。上司でも時には食ってかかることも大事よな。
A:そう。でも彼は争いごとは好まない。むしろ信仰心があついから、怒られたり嫌味を言われたりしてもお祈りをすることで平静を保つようにしてるんだって。
B:ほお。お祈りね。
A:お祈りしてる間はいわゆる無心というか。現実逃避とは違うらしいんだけど、ほんとに心穏やかで無我の境地になるとか。
B:へー、すご。
A:ところでさ。
B:ところで?
A:よく「自分は褒められて伸びるタイプです」とかっていうじゃん。でも褒めた後で伸びるかどうかはわかんなくない?
B:はあ。
A:「怒られると萎縮しちゃって本来の力が発揮できないタイプです」、これはわかる。でもその反対で「褒められると伸びるタイプです」ていうのは間違ってると思うわけ。だって褒めたところで伸びなかったら、つけあがるだけじゃん。そいつがちょっと気分良くなるだけ。
B:待って何の話?
A:伸ばすって話。
B:何を?
A:きゅうり。
B:あ、神様!?
A:そうそう。
B:うーわ、まったく読めなかった。
A:褒めると伸びるっていう精神論は信用できないから、やっぱちゃんと自分の手で伸ばさないといけないと考えてるわけ。
B:手で?
A:そうそう。こうやって。手にかけるというか。
B:いやいや、何その変な伸ばし方。両手でグーッと握るの?
A:彼は信仰心があついからさ。お祈りのポーズよ。
B:ええー!?そこでお祈りでてくんのかよ。
A:神様に祈りを捧げるという精神とともに、ちゃんと物理でも伸ばすのが大事。
B:そういうことか。え、でごめん今何の話だっけ。
A:ブリリアントジャークよ。
B:だからそれがわかんないんだって。パワハラ上司みたいなことだっけ。
A:違う惜しい。めちゃくちゃ優秀なんだけど、それゆえに厳しくなってパワハラ的な言動をしちゃうっていう。
B:ああ、そうね。
A:この優秀てのがポイントで、人間性に目をつむればめちゃくちゃ仕事ができて見習うべき部分もあるわけ。
B:何とか改心してもらいたいところですね。
A:そうなの!
B:へ。
A:やっぱ人間として成長していく伸びしろはあると思うじゃん!
B:何だよいきなり、こえーな。ちゃんとワラサせてくれよ。
A:ある日、まあそのブリちゃんにいつも通り怒られてたわけ。
B:ブリちゃん?
A:ブリリアントジャーク。
B:ただでさえ浸透してない言葉を変えるな。
A:親しみやすくなったでしょ。
B:そうだけどさ。
A:成長してくれー、出世してくれーという願いを込めて。
B:出世はどうでもいいだろ。
A:ともかく怒られてたわけ。
B:いやだねえ。
A:で、いつもやってるみたいに祈りを捧げて心を落ち着かせてたの。
B:やりすごせんのかよ。それはそれですごいけどな。
A:ブリちゃんは人間性に問題あるけど仕事はできるから、そこを直して成長してもらいたいと思ってる。
B:ああ。
A:つまり、彼を人として伸ばしたい。
B:いいね。
A:祈りを捧げながら、しばらくそんなことを考えてたらさ。
B:うん。
A:目の前でその上司がバタっと倒れ込んできて。
B:え。
A:息してないわけ。
B:……おお!?
A:普段、両手握って祈る仕草できゅうりを伸ばしてるじゃん。
B:うそ、待てよ。
A:首絞めちゃってんの。
B:うえええええ!おい!
A:そしておいしく、いただきましたとさ。
B:ええええええええええーーーー!
A:どう?
B:どう?じゃねえよ。ダメだよこんな話。
A:言っただろ。絞殺系漫才だって。
B:……こわ!
A:まあまあ。ただの、ほらー話ですから。

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