十五夜お月さん
「十五夜お月さんごきげんさん」という童謡は、大正期に少年少女時代を過ごしたものにとっては、なつかしい歌であるが、あれは野口雨情氏の作詞に、本居長世氏が、在来の日本のわらべ歌ふうの旋律をとり入れ、それに新しい形式の伴奏音楽を配したのが喜ばれて、一世をふうびしたものだった。
本居長世氏は宣長を祖とする国語・国文学の家の六代目に生まれ、家学を継ごうか、好きな音楽の道に進もうかと迷った末、東京音楽学校にはいった人で、同級生山田耕筰氏をさしおいて首席で卒業し、若年の身で器楽科の助教授になった。そこでの教え子、山田晋平・弘田龍太郎両氏のものと合わせれば、大正期に歌われた童謡の大部分は、本居氏とその門下によって作られたといってよい。本居氏は、そういうおい立ちから、国語について関心が深く、西条八十氏の童謡「お山の大将」につけた作曲は、歌詞のアクセントによって一番、二番の旋律を変えた日本最初の歌だった。
(出典はISBN978-4-10-121501-3からです)