クラスの人気者
KANEBOさんの「 I HOPE.」キャンペーンを取り巻く様々な記事や投稿をみて、「ブランドのキャラクター」について改めて考えさせられました。
突然ですが、想像してください。
あなたの企業がもしとある学校の1人の生徒だとしたら。
果たしてクラスの中でどんなキャラクターでしょうか?
丸裸にされるブランド
インターネットが普及した現代。企業の評判は瞬く間に伝播します。
採用ひとつをとってみても「みんなの就職活動日記」での情報収集はtwitterに移行。従業員や役員の投稿を見て学生は企業の品定めをします。
今までまかり通っていた建前が丸裸にされ、政府の法案や一大キャンペーンでさえもSNSを通じた世論により方針変更を余儀なくされる時代になりました。
建前が通用しなくなりつつある今、ブランドは益々「伝えるもの」でなく「知覚されるもの」である必要があるのではないでしょうか?
言葉よりも行動を
こうした時代に企業に求められるのは美辞麗句ではなく、行動を伴った姿勢の提示です。
以前、弊社の人事担当から採用面接についてこんなアドバイスを受けたことがあります。
学生には未来の話を聞いてもダメ。何とでも言えるんで。
過去の具体的なエピソードから”再現性のある能力”を見抜いてください。
これを聞いた時、私は「なるほど!」と膝を打ち、「しめしめ、これで優秀な学生にも言いくるめられることなく、本質を見抜けるぞ」とほくそ笑みました。
が、最近ふと思ったのです。
今まさに企業は生活者による採用面接を受けているのでは?と。
ここで冒頭の問いに話を戻しましょう。
あなたの企業はクラスの中でどんなキャラクターでしょうか?
それを決定づけるのは、彼・彼女の毎日の行いであり発言です。残酷なことに卒業から数年後に記憶に残るクラスメイトはごく一部ではなかったでしょうか?
詳しくはまた別の機会に書きたいと思いますが、低関与商材であれば特定のカテゴリー内で純粋想起されることが売上を大きく左右します。つまり記憶に残り続ける必要があります。
また、コモディティ化した市場においては、ブランドによる差別化が購買の意思決定に大きな影響を及ぼします。高関与商材であれば「自分にとって圧倒的に魅力的なひと」というポジションが理想的です。
さて、ここから先はかなり私見が入ります。
私が愛してやまない企業を「もしクラスメイトだったらどんな人物か?」という観点でご紹介します。
日清食品:”クラスのムードメーカー”
私にとって日清はバズ系の企画を連発し、いつもタイムラインを賑わせてくれる明るい存在です。クラスのみんなから愛されて、卒業後も多くのクラスメイトの記憶に残る、そんなイメージです。
この好意度と圧倒的な認知が、棚の前での瞬間的な意思決定に寄与します。それは「日ごろからカジュアルな話題を提供してくれる」行動あってのことでしょう。
サイボウズ:”信頼できる仲間”
7月のカンブリア宮殿を観て感銘を受けました。サイボウズはベンチャー企業としてインターネット黎明期の茨の道を突き進み、社員はモーレツに働き、事業の売却と離職率30%という厳しい状況を経験。その後、社長の青野さんが全社員に「雑談」という名のヒアリングを敢行し、日本有数の「働きたい企業」に変化を遂げた企業です。
「チームワークあふれる社会を創る」ことを理念にプロダクト開発や大胆な働き方改革に取組んでいることでも知られています。
・過去に失敗を経験し、それを乗り越えてきている。
・社長自身が育休をとり、その経験から就労環境の改善に取り組んでいる。
・全てのプロダクトが同社が描く「理想の社会」の実現に向かっている。(ブレていない)
こうしたファクトの積み重なりが「信頼」というパーセプションを形成し、グループウェア市場というレッドオーシャンにおける競争力をもたらし、また採用難と言われる現代において強固な採用競争力をもたらしていると考えられます。
ケリング:”かわいいだけじゃないクラスのマドンナ”
グッチやバレンシアガなどのブランドを擁するケリングが、今年6月にエマ・ワトソン他3名の役員人事を発表しました。女優以外にも環境やジェンダーに関する活動に積極的なエマの登用を通じて、同社の社会へのコミットメントについて並々ならぬ覚悟が伝わってきます。
高級ブランドとしての品位や知性といったイメージを保つ為には、こうした社会性を伴う意思決定が必要なのかもしれません。
その他、パタゴニアは企業理念として「地球を救うためにビジネスを営む」と言い切り、選挙の際には全直営店を休業。こんな人がクラスにいたら憧れの的でしょう。
Googleは「世界中の情報を整理し有益なものにする」 をミッションに掲げ、情報格差をなくすという目的の元同社のインターンにすらAPIを公開していたといいます。裏表の無いいいヤツ。
バーガーキングは?宝島は?
もし私に絵心があればパーソナリティをイラスト化した一つのクラスを描いてみたいくらい、企業ブランドの人格化は飽きません。
損得 < 美徳
ここまでで誤解を避けたいのが誰しもがクラスの人気者を目指し、必ずしも多くの支持を受けることを目標とすべきではないということです。
とあるオンラインセミナーでワンキャリアの寺口さんがこんなことを仰っていました。
(ブランディング上の意思決定で)
困った時には企業を人に置き換えています。
なるほど。確かにハイパフォーマーほど評価を気にしないですよね。
価値基準に「美学」があって「損得」で動いてないから。
評判ばかり気にする企業がかっこ悪く見えてしまうのって、上司の顔色ばかり伺うサラリーマンと同じだからですよね。
私はPCの画面越しに激しく頷きながらこのお話を聞いていました。
ヒト単位だととてもシンプルなことが、企業のコミュニケーションとなると損得が前面に出がちです。
自社ブランドの確固たる価値基準を持ち、経営層とコンセンサスを得ることが日々のコミュニケーションにおいても重要になってきています。プランニングの先にある社内での合意形成やチームビルディングといったフローがより大切になっていることを、私自身も日々感じています。
何かを信じろ。たとえそれで全てが犠牲になるとしても
(Believe in something, even if it means sacrificing everything)
Nikeは2018年、コリン・キャパニックの起用を通して自社のスタンスを明確に伝えました。そして最終的には前期比10%の売上と史上最高値となる株価、そしてかけがえのない生活者とのエンゲージメントを得ました。彼の行動自体が賛否を招いていた中で、彼を大々的に起用することは左脳的にはあり得ない判断だったかもしれません。しかし、損得よりも美徳による意思決定が実際に行われました。
一時は大炎上したこのキャンペーンですが、忖度無しの、もはや顧客を選別していくかのようなスタンスは世界中のコーポレート・コミュニケーションの在り方を前進させる取組みだったのかもしれません。
学年に1人(?)は、こういったカリスマ的な支持を集める人物がいたのではないでしょうか?また小中高の定説である「不良がモテる」現象の理由もこの辺りにあるのかもしれません。不良カーストの上位層は高貴な美徳を持っていたりする為です。
クラスをまわす存在
最後のテーマです。2018年頃から「問題提起」を行うブランド・コミュニケーションが活発になっています。テクノロジーの進化により社会通念が次々とアップデートされる中、古い慣習や価値観が顕在化。そこに課題を見出し、ブランドの「行動」を持ってスタンスを示す。ざっくり言うとこういった運動が目に見えて増えています。
では、今なぜこうした問題提起型のコミュニケーションが受け入れられるのでしょうか?
私は以下の3つの理由に着目しています。
①社会課題を提示/解決することで、企業のスタンスを明確にできる為
②課題解決の過程で生活者と利害共同体(≑仲間)になれる為
③生活者に発言の場を提供できる為
特に③はNEWPEACEの高木さんのtwitter投稿を見て実感を持ちました。
クラスの人気者って話をまわすのが上手いんです。
普段クラスで目立たない子の魅力もちゃんと知っていて、クラス全体がひとつの話題で盛上っている時に、さっとその子に話を振る力。クラスのみんなもそんな彼のさり気ない優しさに気づいていて、また支持を集める。こうした気遣いとスマートな投げかけのクオリティが昨今の問題提起型コミュニケーションの成否を分けている気がします。
「保育園落ちた日本死ね!!!」に始まった、社会課題の顕在化とSNSを主戦場にした議論のプラットフォーム化。
「女子力って何だろう?」「かあちゃんの夏休みはいつなんだろう」「この髪どうしてダメですか」…いずれのコミュニケーションも、その相手、更にはその相手が何を話したいのか?までを設計しているように思えます。
冒頭で述べた通り、今後ブランドが自身のスタンスを示しながら仲間を惹きつけていく形のコミュニケーションは加速していくと思います。その際に留意したいポイントをまとめて締めくくりたいと思います。(4,000字に及びお付き合いいただきありがとうございました!)
・企業は姿勢と行動を評価される時代へ
・行動基準は損得 < 美徳
・共に歩む/主役にしたいのは誰?
令和はクラスの人気者だけの時代ではありません。
40人のクラスには40通りの魅力が潜んでいます。
私たちの仕事を通して、その魅力を惹きだし素敵なクラス(社会)を実現できればと切に願います。