【グリッドマン考察】新条アカネと南夢芽
今回はアニメ『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』に通底するものについてです.はたしてアカネと夢芽を一緒に論じることはできるのでしょうか.
1.はじめに
本記事サムネですが,次の2つの絵を組み合わせたものです.
これに限らず,ダイナゼノンが前作アニメグリッドマンをたくさん引用しています(例えば監督編集の下記動画2:48から).
そうした引用の理由は『グリッドマン ユニバース』で明らかになりますが,上記2人の絵については,それとは異なる観点から引用の理由を考えていきます.
2.『SSSS.DYNAZENON』
(1)物語のおさらい
それでは前提となるダイナゼノンの復習からはじめます.まず,この作品がどんな話だったか.簡単にまとめてくれるなと言われそうですが公式は次のように言ってます.
この「つまずいたら,もっと強くなれる」は,視聴済みの皆さんならお分かりいただけるかと思います.本編では次のように表現されています.
「傷ついた魂が輝く星のように」といった感じでしょうか.何かしら過去を引きずっている登場人物たちがそれぞれ少しだけ前に進むお話でした.各々素晴らしいエピソードで魅せますが,今回は(も)南夢芽さんに注目します.
(2)南夢芽の話
彼女が何を引きずっていたかというと,小さい頃に亡くしたお姉さんのこと.2人は一時期仲が良かったのですが,いつからか姉に距離をとられるようになります.ある日,そんな姉から所属する合唱部の演奏会に誘われます.が,事態はさらに急変.その演奏会を前に姉が謎の死を遂げます.
疎まれていたと思っていた姉からの突然の誘い,そして急なお別れ.演奏会に誘ったとき姉は何を考えていたのか,この問いが夢芽をずっと囚え続け,姉の真相を突き止めるため同じ高校に進学します.
そして,姉の調査活動と併行して始まる対怪獣ガウマ隊の活動において,あるとき怪獣の力でダイナゼノンのメンバーがそれぞれ囚われていた過去に飛ばされます(第10回).そこで夢芽は姉(香乃)に会い,真相を知るのでした.
明かされたのは実は姉が夢芽に嫉妬していたこと.姉は対人関係にコンプレックスがあり,そのストレスの矛先が自分より対人関係が上手だった妹に向いてしまったようです.
ここでようやく本題ですが,この「人を頼る」ということ.
会話のうち姉・香乃が「空回り」していたというのは,部内でからかいなのかイジメなのか曖昧だけどそういう対象となっていたことでしょう.そんな香乃にとって頼りにできたらよかったけど,できなかった恋人・双葉先輩.
肝心なところで克服したかった奥手な性格が出てしまった姉でした.そんな姉とは対照的に,妹・夢芽は頼るべき存在,麻中蓬にしっかり頼ることができていた,ということが上記2人のやりとりで言われていることです.
さて,その夢芽が人を頼ることを「最近わかった気がする」について,少し説明したいと思います.
それまで男子と約束しては待ちぼうけさせるという奇行を繰り返していた彼女が蓬(とガウマ)に出会い少しずつ変わっていったわけですが,「最近わかった」とは具体的には第7回を指します.夢芽と蓬の関係性が変わる様子を見ましょう.
詳しく解説する余裕はないですが,上の蓬の台詞「〔姉は〕もう他人なんかじゃない」とは,その前に彼が夢芽から浴びせられた「〔姉は〕蓬君には関係のないことだよ」に対応しています.それでも夢芽はそれまで話せていなかった姉妹の過去を蓬に明かし,そのことに真剣に向き合おうとする蓬を見て,夢芽は態度を変えます.
2人の変化は,具体的には,それまでは姉に関する夢芽の活動に蓬が勝手に付いていくかたちだったものが,これを機に夢芽の方から一緒にきてほしいとお願いすることに表れます.
なんてことのない些細なやりとりですが,後に結ばれることになる2人の物語に加えて,夢芽が人を頼るという2つの意味で重要なお話でした.
少し脱線しますが,第7回の夢芽と蓬の接近は,2人の関係性と併行して夢芽と姉のストーリーラインも同時に処理するもので,脚本的に工夫されているのがわかります.
それではここで踏まえた「人を頼る」という視点から今度は『SSSS.GRIDMAN』を見ていきます.
3.『SSSS.GRIDMAN』
こちらの作品がどういう話だったかといえば「友だちがいれば最強」というものでした(監督談.彼の『電光超人』感想かもしれませんが典拠は失念中).
(1)新条アカネ
最強の女子高校生,新条アカネさんについて掘り下げていきます.その親友・宝多六花の次の台詞から始めましょう.
彼女の台詞から推測するに,アカネも頼るべき人を頼ることができなかった人として描かれていた,というのが今回の読みになります.以下,具体的に見ていきます.
(2)アカネと六花
その繊細な性格ゆえに現実世界で友だちが作れずにいたアカネは,コンピュータワールドに自分が安心できる場所,彼女がみんなから好かれる空間を街ごと造りました.それでも彼女は怪獣で破壊と創造を繰り返します.なぜなら「本当に信頼できる友だち」ができなかったから(後述).
そのことに気づいた本作ヒロインの宝多六花さんがアカネと関係を取り結ぶべく彼女と対峙しますが……
というわけでアカネは拒絶します.理由は六花が「作りもの」だからです.
ところが我々の六花様は折れません.食い下がります.
自身が生まれてきた意味,ここではアカネの友だちとして造られたことについて,六花はそれでいいと言います.これは要するに贋造物,それがなんじゃーい!というわけです(巽○太郎).実際,(『電光超人』からの)作品の世界観的にレプリコンポイドも人間と同じ生命体であることには変わりないのです.
ちなみにアカネの気持ちを確信しているからか,わざわざ返事まで求めています.六花さん,完全に勝ち確ムーブ.
(3)第9回
その六花の確信の伏線は,第9回でアカネが六花を「シー」に誘うバスのシーンにあります.この回は怪獣の力によって,六花たちグリッドマン同盟の3人は強制的に夢に閉じ込められました.
このように六花が不参加を伝えると,バスの後方にいたクラスの人たちが一瞬でいなくなり,アカネと六花の2人だけになります.
この描写は「アカネには友だちがいる」という六花の台詞に対応していると考えられるため,その意味はアカネには本当の友だちがいないということになります.物語全体から見ればこの世界(コンピュータワールド)のみならず現実世界にもアカネには本当の友だちがいないということでしょう.
アカネとしては,ここで消えたクラスメイトたちも贋造物なので本当の友だちとは思えないということになります.問題はそれにもかかわらず同じ贋造物である六花に関心を寄せていることです.このあとグリッドマンの力で夢であることに気づく六花ですが,アカネは続けます.
この言葉から分かる通り,アカネは他のクラスメイトとは異なるものを六花に求めています.それこそが「本当に信頼できる友だち」なのでしょう.
(4)落着の過程
さてあらためて考えると,アカネは友だちが欲しくて贋造物を作ったのに,贋造物と思うと友だちになれないというジレンマに陥っていることが分かります.
これに対し,六花は自らの出自を受け入れるあるいは気にしないことで,本当の友だちになるのに作り物かどうかは関係ないでしょうとアカネにぶつけるのでした.だってあのとき作り物の自分に「本当に信頼できる友だち」を求めたじゃないかと.しかもバグの影響で,六花は他のレプリコンポイドと異なり人間味を獲得した存在です.つまりアカネのプログラム通りに動かない者ですから,六花のアカネと友だちになりたいという気持ちは,アカネが考えているものとは異なるはずです.もっとも,このバグ要素は第三者視点でのみ観測できることなので,劇中の誰もそのことを知るよしはないのですが.
とはいえ最終的に2人は無事関係を取り結べて一件落着となります.そのプロセスを見ていきましょう.先ほど紹介した台詞とその際の2つのカットが参考になります.
諸々を総合すると「ドアを開けられた=六花たちを頼り,信じることができた」と理解できると思います.扉は六花とのお別れの部屋につながっていましたから.これはアカネが「人を頼る」一歩を踏み出せたので「本当に信頼できる友だち」の関係に入ることができたということでしょう.
また扉をメタファーにしたのもその向こう側,世界の広がりを示唆するからでしょう.「本当に信頼できる友だち」ができて彼女の世界は変わったはずですから.
4.終わりに
以上,『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』は「人を頼ること」を共通の主題にしていたことがわかります.そして冒頭・渡り廊下の夢芽のカットがアカネを引用している趣旨はそこにあると踏んでいます.
「人を頼ること」,そして「人を頼ることの難しさ」.繰り返しますが両作品では,人付き合いに奥手な人たちが「頼ること」に躓いている様子が描かれました.
香乃にとっては恋人への気遣いが,アカネにとってはある種のジレンマがそれぞれ「人を頼ること」への障害として描かれることに.
ちなみに夢芽はどうでしょう.正直よく分かりません(すまない).
とはいえ試しに少し考えてみましょう.先ほどからの台詞,人を頼ることが「最近わかった気がする」をヒントにすれば,人を待ちぼうけさせる奇行を繰り返していた段階の彼女は,上手く人に頼ることができない状態だったと理解できそうです.
若干メタ的な視点にはなりますが,話を聞いて欲しくて,あと一歩のところまで行くけど結局頼ることのできない状況の表現が奇行=待ちぼうけだった可能性.こうした理解からすると「蓬くんなら私の話聞いてくれると思って」という最初の彼女の台詞は本心からだったということになります.
もっとも,人を頼ることに不器用な人間がそもそも待ち合わせの約束を取り付けられるのか疑問だったりします.また,実際に奇行をする際の夢芽の心のあり方はどのようなものだったか,結局その説明は現段階ではできていません.が,さしあたって最低限の整合性は取れているようにも思いますので試論としてここに記しておきます.
さて,ここで私たちの現実に目をやると誰かに頼ることができないでいる人のなんと多いことか(自戒を込めて).「もっと早く相談していれば…」といった言葉を私たちはよく目に,耳にするところです.
ここまで『SSSS.GRIDMAN』と『SSSS.DYNAZENON』について,「人とのつながり」という普遍的テーマ,その中でも「人に頼ること」とそこに躓いてしまう人たちに着目した作品と整理しました.これ以外にも作品には雨宮監督の人間洞察が散りばめられていることでしょう.あらためて人間ドラマパートにも相当力が入っていることを感じます.
今回は以上になります.『グリユニ』だけじゃなくTVシリーズの方もまだまだ退屈からの救済は終わらない,ということで最後までお読みいただきありがとうございました.
・本記事で引用した過去記事
画像:©円谷プロ ©2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会/©2021 TRIGGER・雨宮哲/「DYNAZENON」製作委員会
※追記(2024/1/30)
「4.終わりに」にて南夢芽の奇行について試論を追加.