【ダイナゼノン考察】南夢芽の話(知恵の輪,奇行)
今回はアニメ『SSSS.DYNAZENON』のヒロイン南夢芽さんのあれこれです.本記事全体で彼女の姉と知恵の輪,物語序盤の奇行を取り上げ,最後に劇場総集編に触れたいと思います(ネタバレ有り).
彼女はメインスタッフのお一人,中村真由美さんをして六花(前作ヒロイン)とは仲良くなさそうと言わしめるマイペースな癖癖人物です(特典ブックレット(以下「B」と略記)2巻79頁)(※).多くの方も彼女について同様の印象かと思います.
この記事を読み終わった後もおそらくそのイメージは変わりませんが(!),本記事を通じて皆さんの中の南夢芽に変化が起きることを期待しています.
1.名前の由来
まず監督の雨宮さんが自身で指摘されていますが,主要人物の名前は故事成語に由来しています(宇宙船75頁.下記動画が手短にまとめています).
夢芽の場合「南柯の夢」に由来しており,世の中は夢のように儚いというものです.
彼女のキャラクターソング「夢現.GREEN DAYS」(作詞・作曲:矢野達也)の歌詞にも,
といったように泡沫夢幻,つまり人生の儚さのニュアンスが差し込まれています.ちなみに歌詞の「懐かしい人…忘れられない人」とは先ほどの「南柯の夢」→Kano →香乃(姉)を指します.姉妹で同じ故事成語に由来しているのですが,このことはまた後で触れます.
2.デザインモチーフ
次に,主要人物のデザインの由来です.それぞれモチーフが設定されており,夢芽の場合は「幽霊」です.
彼女のリュックにぶら下がっているのは画像右の「うーさー」です.よく見ると夢芽のうーさーには脚がありません.幽霊.
他にも次のようなものがあります.まずは前髪のハイライトが幽霊の典型的なアイコン,三角頭巾の形になっています.
文化祭の仮装もこの流れでしょう.
幽霊である意味は彼女が亡くなった姉に縛られていることに因んでいると思われます.ちなみに姉・香乃のデザインも前髪のハイライトが一緒なので(下の画像),同じく幽霊がモチーフです.
どうして姉妹で同じなのか.夢芽の初期デザインが本編の香乃だったこと(宇宙船79頁)に関係しそうですが,ここでは名前の由来が同じ故事成語であることに合わせたと考えたいです.
3.香乃と知恵の輪
前置きが長くてあれですが要するに姉・香乃の話に移りたい.本編で夢芽が持ち歩く知恵の輪は香乃の遺品でした.
(1)アンク
まず知恵の輪のデザインですが,アンクというエジプト十字(☥)2つで構成されています.このアンクは香乃のリュックにもマークがあったので,彼女に対して何か意味を持たせているようです.
アンクは古代エジプト語で「生命」を意味します(後掲・オリエント事典334頁).
おそらく「死」とは逆のイメージを持たせることで,彼女の死が自殺ではないことを暗示していたのかもしれません.
(2)知恵の輪
次に知恵の輪です.
知恵の輪は英語で disentanglement puzzle といいます.英語に注目したのは次の画像のためです.
香乃の左手首のアクセサリーにパズルのピースが確認できます.これを装着させた意味を考えてみると,英語の知恵の輪disentanglement puzzleと"puzzle"で共通点が見られます.ここに注目して欲しいのでは,という気がしてきます.
さてそれはそれとして,この"disentangle"の意味は,ほつれたりからまったものをほぐす,解くというものです.これを夢芽に所持させることで,彼女のからまった心理状態を表現していたと理解できます.からまることについては次の言葉を思い出します.
夢芽にとって香乃は自由を失う縛り,すなわち「かけがいのない不自由」だったのかもしれません.
(3)香乃の不自由と夢芽の器用
さて知恵の輪が心理的なもつれということならば,元々知恵の輪を持っていた香乃にもからまりがあったということになります.この点,彼女の言葉を聞きましょう.
このシーンでは姉の秘密,すなわち妹への嫉妬が明らかにされました.嫉妬の前提として香乃に人間関係のコンプレックスがあったことがうかがえます.
理解を深めるためにスタッフの方々の話を聞いてみます.長いですが引用します.
正直なところ,本編視聴時は姉の嫉妬と言われてもピンときませんでした.また,夢芽が対人関係で(姉より)器用だったと知り逆に混乱しました.
なぜなら,彼女は「特定の友達としか上手くやれないタイプ」(キャラ設定のメモ書き)といったように一般的に器用と言われるタイプではないからです.
とはいえあらためて考えてみると,"姉よりも"を強調することで,つまりあくまで姉との関係で器用だったことに焦点を絞ればわかり易いかもしれません.ここでは明るく誰とでも親しくできる=人間関係器用といった理解は傍に置く必要があるでしょう.
話を香乃に戻すと,対人関係のコンプレックスと妹への嫉妬という2点で苦しんでいたことの意味が知恵の輪には込められていたと理解したいと思います.
では夢芽が器用だった点について本編の続きです.
このように夢芽は自然に蓬を頼っていた.姉に比べて夢芽のそういうところは昔からだったのでしょう.姉と異なり頼るべき人にしっかり頼ることのできる.ここに夢芽が器用だった点が読み取れます.
4.知恵の輪と南姉妹
さて,知恵の輪について2つの側面から,すなわち知恵の輪の要素とアンク(生命)の要素から香乃を論じました.ここからは妹・夢芽に絡めていきたいと思います.多少記述が重複します.
(1)disentanglement puzzle 要素
知恵の輪の"からまり要素"ですが,香乃については彼女がコンプレックスに縛られており,そのほつれを暗示するアイテムだった.香乃が当時夢芽に触らせなかったのは嫉妬もそうですが,夢芽が人間関係で縛られていなかったことの表れでだった.対して回想の夢芽は笑顔いっぱい=悩みのない描かれ方をしていました.
知恵の輪が夢芽に渡ると,今度は嫌われてると思っていた姉から急に発表会に招待されたという理解できない姉の変化に捕われたこと,さらにはそれを解く物語がこれから開始することを暗示するアイテムとなります.
(2)アンク要素
続いて,知恵の輪の2つのアンク=2つの生命に注目すれば,これが香乃と夢芽を表していると考えることもできます.
すなわち,2つが絡まって外れないことは,2人がからまって解けない状態を表しています.姉は妹への嫉妬.妹は姉の不可解な行動によって互いに縛られたというように.
もっとも,2つのアンクが離れないことは2人の姉妹としてのつながりをも意味するでしょう.具体的には,第10回で過去に戻った夢芽は姉の真意を知り,解放されます.その際,知恵の輪が解けますが,これは夢芽の悩みが解けたと同時に姉との離別(姉の死)の表現にもなっています.これは知恵の輪が2人のつながりを意味するという理解を前提とします.
話を知恵の輪に戻します.怪獣を倒した後,外れた知恵の輪が再び元に戻ったことに触れないといけません.これは過去の呪縛を脱して新しいかたちで姉と結ばれたこと,すなわち姉のことを自分の中に消化できたことを意味するでしょう.
さらに,こうして2つのアンクが解けてくっつくことが,"合体と分離を繰り返すダイナゼノン"にも符号します(お見事か).
以上を踏まえて,あらためてOPの下記画像をみると,知恵の輪と南姉妹の一連の関係,さらには冒頭「南柯の夢」に2人が1つになっていることなどの諸々が1枚の絵にリンクし合っており,圧倒的情報過密(語彙力).
ちなみにこの絵は前作との関係で韻を踏んでいます.
2人が離れ離れになるという点,重要なシーンが水門だった点,ずっと一緒という点も前作に倣っています.「ずっと一緒」というのは前作であれば最終回の台詞で確認できますし,今作では上述の通りです.
以上,夢芽と知恵の輪ついて解説を試みました.
5.夢芽の奇行
ここからはあらためて序盤の夢芽の奇行について考えたいと思います.
物語序盤の南夢芽さんは学校の男子に待ち合わせの約束を取り付けては待ちぼうけにさせるという奇行を繰り返しており,クラスで浮いている状況でした.
この病的行動について夢芽の事情にも目を配りたい.すなわち,姉にまつわる家庭の状況です.具体的には姉の部屋に入るのに親の許可をとっていることや,両親の下記会話の様子から,あれから5年経つのに未だ触れにくい案件となっていることがうかがえます.
ちなみに,姉の死と両親の険悪ムード,さらには会話のない食事風景から夢芽は家庭環境の問題を抱えていると理解するのは注意が必要です.次の監督の発言があるからです.
制作工程のどこかで雨宮さんの意図を離れていったとして,当初の意図はどのようなものだったのか.正直想像もつかないわけですが,ここでは次のように理解したいと思います.
すなわち,姉の話題になると両親も冷静になれないため,姉に対するモヤモヤは夢芽独りで抱え込まざるを得なかった.つまり家庭環境が夢芽へ及ぼす悪影響はこのような間接的なものにとどまるということではないか.
さらに,一見険悪にも見える両親ではありますが,姉の部屋を片付けない母の心境としては,夢芽が姉のことを克服できていないため,それを気遣って部屋を片付けられないというものの気がします.というのも,こればかりは夢芽個人の問題でしょうし(両親は姉の事故死を受け入れているのでしょう).そのことに父は思いが至っていない.あるいは辛気臭い雰囲気を出されることに苛立っているのかもしれません.
以上のつもりだったが上手く伝わらなかった,とここでは考えたいと思います.
いずれにせよ,姉のことについて①両親に相談できず,②「特定の友達としか上手くやれないタイプ」なのにその友達・鳴依におそらく頼れずにいるため(つまり姉の状況と同じ),高校1年生(15歳)にしてはメンタルハードモードだったのではないでしょうか.
これを踏まえると次の台詞が分かりやすくなります.
そう,彼女の奇行は自分ではどうしようもない内なる何かの発露だった.OP曲の「インパーフェクト」もこのことを拾っていた可能性があります.
夢芽の待ちぼうけはSOSのサインだったのでしょう.そう考えると,第1回の雨降る橋で彼女に対峙したのが本作のヒーローであるガウマと姉問題にとってのヒーロー蓬だったことは象徴的だったと思います.
ヒーローとはピンチのときに現れる救いの存在.彼らと出会ってから夢芽はどんどん明るくなっていきます.
次の台詞もどこまで本気かわかりませんが,それなりに本心だったのでしょう.
ちなみにガウマがヒーローというのはスペシャルドッグの件です.前作のヒーロー響裕太(グリッドマン)に倣っています.
それでは最後に蓬のミイラコスプレに触れます.以下はただの妄想でおそらく制作者の意図とは異なります.
ミイラはガウマを連想させるものの,これはこの先夢芽のことで傷だらけになるけど,きっとなんとかやっていくだろうということだと思いました.この笑顔は未来に向けられている気がします.総集編特典ボイスドラマでそうした片鱗が見れました.
6.劇場総集編(おまけ)
総集編でほぼカットされていた山中暦ですが,新規カット及び総集編特典ボイスドラマでピックアップされていました.
もっとも,新規カットでは暦が脱衣所から消えます.裸のまま別世界に行ってしまったのでしょうか….特典ボイスドラマの方も,なかなかトイレから出られないと,登場したのはいいがとにかく扱いがアレな山中氏.
ちなみに新規カットでちせはバッティングセンターに行きたがっていたのですが,予告でバッティングセンターが映っていたのが気になります.暦の心配をよそにあの後バッティングしていたとすれば暦の尊厳は削られていく一方という.でも彼はキャラクターソングがかっこいいですからね.その辺りの調整なのかもしれません.果たして新作で暦の活躍は見られるのでしょうか…
今回は以上です.最後までお読みいただきありがとうございました.
・前作ヒロインも考察してますのでぜひ
・参考文献
特典ブックレット『SPECIAL NOTE』(全4巻)
『宇宙船 別冊SSSS.DYNAZENON』(ホビージャパン,2021年)
『SSSS.DYNAZENON& GRIDMAN ヒロインアーカイブ』(一迅社,2021年)
日本オリエント研究会編『古代オリエント事典』(岩波書店,2004年)
画像:©円谷プロ ©2021 TRIGGER・雨宮哲/「DYNAZENON」製作委員会
© Project wooser
※追記(2023/3/11)
表現や画像の修正追加.ガウマの3つ目を追加(5)
※追記(2023/4/14)
「3.」に「人を頼ることの難しさ」(脱線部分)を追加
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?