【グリッドマン考察】響裕太に宿った理由+
今回は『SSSS.GRIDMAN』の謎の1つ,“どうしてグリッドマンは裕太に宿ったのか“問題を検討します.劇場総集編の新規カットについても解説します.ネタバレにご注意ください.
1.裕太だけ
この問題,すでに多くの方は解決済みかもしれませんが,未だ筆者は満足する解答を得られておらず今回自ら取り組むことになった次第です.
それではまず問題の所在を確認します.次の台詞から.
台詞の続きは暗転で途切れてしまうのですが,次の台詞と絵がヒントになります.
彼が視線を逸らしたことで六花を見つめていたことが読み取れます(ちなみにコンテには目線を外す仕草はありません(B第4巻151頁C-300).誰の案なのでしょうか).そしてこの描写からどうやら裕太が六花が好いていることが,グリッドマンが裕太に宿ったことに関係していると分かります.
新条アカネはコンピュータワールドに自分の理想の世界を作ろうとし,クラスのみんなが自分を好きになるよう設定しました.
なかでも裕太は本来アカネの恋人となる存在として作られた人物です.第9回やボイスドラマ(以下「VD」)第9.99999999回で,アカネが望んだ本来の世界が夢で再現されましたが,そこで裕太とアカネは恋人同士でした.
にもかからず裕太は六花を好きになっている.
ここからグリッドマンが裕太に宿った理由は,彼だけがアカネではなく六花を好きになったからと考えるのがポピュラーです.
異論はないのですが,行間を読む術に決して長けていない筆者は,この裕太だけが六花を好いたことと彼にグリッドマンが宿ることにある距離を埋めることができません.
幸いネットにはこれを補う2つの説明があります.①裕太がバグだからという説明と,②裕太がアカネの救いとなる存在だからという説明です.まず後者(以下「コンプレックス説」と呼称)から検討していきます.
2.実写のアカネ
この説は一瞬登場する実写の新条アカネに注目します.その容姿は本編で分かりにくくされていますが,主題歌のミュージックビデオで確認できます.女優は新田湖子さんというお方(当時.現在は「月森湖子」名義).
一応本編の実写の方と同一人物か確認します.雨宮監督はアカネと同い年の子に演ってもらえたと言っており(B第4巻14頁),アカネは2003年1月2日生まれ(超全集44頁),新田さんは2002年生まれで同学年ということで間違いなさそうです.
本編でもMVでも髪は長くて色は黒です.この特徴はアカネというよりむしろ六花.六花の髪の色は時折青みがありますが,それはシャドウ部分で髪自体は黒だそうです(色彩設定の武田仁基さん談(B第2巻99頁)).
(1)コンプレックス説
ここから現実世界のアカネの姿は宝多六花に投影されたという考察がちらほら見られます.そして裕太が新条アカネ本来の姿をした六花を好きになったことを,グリッドマンが宿った理由に結びつける見解が出てきます(例えば下記記事).
多少膨らませて説明します.新条アカネは「才色兼備,才貌両全の最強女子.クラス全員に好かれるというキセキみたいな女だよ?」(1話C-123)という設定ですが,髪型が現実世界のアカネと異なる.
異なる理由について,彼女が自分の容姿にコンプレックスを抱いており,コンピュータワールドで理想の姿に変身していると考えることができます.
ところが,アカネにとって彼氏役として作られた響裕太は本来のアカネの姿(六花)を好きになっている.ここに彼女のコンプレックスにとって裕太は救いである点が出ているということです.
なるほど.というのも,裕太と六花は普段学校で話すほど親密ではありません(第1回「覚・醒」等).そして彼が六花を好きになったのは本編より前,夏前の球技大会の空き時間に教室で2人きりになった時に恋に落ちたとのこと(VD第9.99999999回).そのときのことを,光を纏い風でなびいた髪が…といったような光景として描写しており,六花の容姿が決め手と直接には言っていませんが無関係ではないでしょう.
グリッドマンはこの救いの要素を見逃さなかった.
(2)検討
説得的ですが問題もあります.以下話が少し細かくなります.
次の3つの観点から問題にします.①アカネ及び彼女の世界についての知見が事前に必要になること,②記憶喪失の時期,③六花とアカネの関係です.いずれの問いも情報が少ないので白黒はっきりしないのですが,順番にいきましょう.
1)
1つ目ですが,この説が成り立つには裕太に融合する段階で,グリッドマンが自分の使命の1つとしてアカネの心の修復を認識している必要があります.この認識がなければ裕太をアカネの救いとなる存在だと見抜くことはできないからです.
さて「SSSS. GRIDMAN」が「Special Signature to Save a Soul GRIDMAN」すなわち「魂を救う特別な署名,グリッドマン」と明かされました(第12回).
「魂の救済(浄化)」.魂とは心.そして心を持つのは人間ですから,この街の危機の原因に人間の心の問題があることをグリッドマンはおそらくハイパーエージェントとして知っていた.
そして,仮に物語の開始時点でアカネを取り巻く問題につきあらかた調査済みだったとすれば,彼女の心を救おうという明確な意思を持ってグリッドマンはこの世界にやってきたと考えることができます.
したがって①の問いは一応パスできそうです.
2)
次に記憶喪失の時期です.たとえアカネに関する情報を持っていても裕太に同化する時点までそれを保持していないとこの説は成立しません.しかしながら,一般的な理解では,グリッドマンはアカネの世界に侵入した際にアレクシス・ケリヴの攻撃により,記憶と姿が不完全な状態になったと考えられています.
このように記憶は曖昧でアカネに関する知識を持っていません.
ちなみにアレクシスの攻撃の後に裕太と同化したことも一般的な理解です.すると,グリッドマンは裕太と融合する前に記憶が欠けたことになり,裕太がアカネの救いであるという認識に至れるはずがない.
したがって,この説に立つ場合,記憶喪失の時期について上記のような理解ではなく,裕太との融合時かそれよりも後と理解することになります.しかし,そうなると新世紀中学生の面々の記憶も不完全であることが気になってくる…といったようによくない方向に行ってしまいます.
3)
最後に③アカネ・六花の関係性からの疑問です.六花については別記事を予定していますが,差し当たり次のアカネと雨宮監督の言葉をみてみましょう.
ここにこれまでの理解を合わせると,アカネは自分のコンプレックスとなる嫌いな要素を持つ人物を自分にふさわしいと近くに配置していることになります.これはもはや1周して自分が好き,あるいは既にコンプレックスを克服した状態に見えますがどうでしょう.すでに救われているじゃないか.
といったように「私の近くにいるべき」「お気に入り」の六花に自分のコンプレックスを投影しているという理解自体に違和感が生じてきちゃったり,します.
以上,この説には乗り越えるべき壁が多いように思われるのです.ではもう1つの説に移りましょう.
3.バグ
もう1つの説明は,アカネでなく六花を好きになる裕太は創造主アカネにとってバグだからというものです(例えば下記記事).
記事ではバグである指摘以上の説明がないため,以下の説明は筆者の勝手な解釈になります.
まず,本作でも設定を引き継いでいると思われる原作(の1つ)『電光超人グリッドマン』の世界観として,現実世界とは異なる「コンピュータワールド」という異空間があります.これは怪獣とグリッドマンの戦闘が行われる世界で,現実世界の電化製品などの中に存在する異世界です.
本作では,とあるコンピュータワールドに新条アカネが現実世界に似せた街を作っているという設定.
話を戻すと,アカネが作った街もそこに住む人々(「レプリコンポイド」)も彼女が怪獣に作らせたもので,全員アカネを好きになるよう設定してあります.その中で響裕太の好意対象者は六花になっており,プログラムから逸脱しています.まさにプログラム上の欠陥=バグということになります.
また脚本を担当した長谷川圭一さんのインタビューで次のような言い回しが出てきます.
アカネの世界にとって,グリッドマンは外からきたイレギュラーな存在ですから,彼女にとってグリッドマン,バグ,ジャンクは等式で結びうる存在なのでしょう.
したがってグリッドマンは同じバグである裕太を避難先として選んだ.バグ同士「とりあえず同盟を結ぼうか」ということなのか.
結局よくわかりません.そこで次にその「バグ」について理解を進めたいと思います.
4.BUG’S COUNTERATTACK
先ほどの長谷川さんの発言からも『SSSS.GRIDMAN』ではバグに意味を持たせている印象を受けます.そこで「バグであるジャンク」という先の言葉——便宜上以下「バグ=ジャンク」とします——に注目したいと思います.
おそらくこの「バグ=ジャンク」という考えは長谷川さんのみならず制作陣に共有されたものと思われます.
これに注目する理由ですが,バグはプログラムの不具合のことで,ジャンクとは欠陥や故障により製品としては使えないもの.本来別の事柄を示すこれらの言葉を等式で結ぶことで,両者に共通する「要らなくなったもの」という意味が浮かび上がってきます.そしてここに意味がありそうと思うのです.
(1)グリッドマン
先ほど述べたように,新条アカネは理想の世界を作ろうとしますが気に入らない部分が出てきてしまうためそれらを排除しようとします.そのための手段が怪獣で街ごと壊すというのが何ともですが.
気に入らないもの.例えばクラスメイトの些細な行動や歩きスマホの担任教師などを怪獣を使って襲いました.
担任教師は歩きスマホでアカネにぶつかるものの謝らなかったことで怒りを買い怪獣に襲われます.グリッドマンに助けられた彼は後日再び歩きスマホをして裕太にぶつかりますが,今度はちゃんと謝っています.僅かですが変化が見られます.
この変化には続きがあり,以前はクラスのことに無関心でしたがここ数年行われていなかった学園祭の復活に尽力した話が紹介され,それがグリッドマンの影響であることとが本編で示唆されました(第8回「対・立」).グリッドマンによってどんどん変わっていく.
これについて長谷川さんは次のように述べています.
グリッドマン=バグの影響で良くなっていく.ちなみに担任教師の第2回のタイトルは「修・復」.つまり,教師の変化を通じてグリッドマンの修復の力が垣間見られたことを表しています(もちろん街の修復という世界観提示の意味もありますが).
(2)アンチくん
関連してアンチ.彼は怪獣として作られましたが,六花の世話になったり人と関わっていく影響で人の心を持つに至り,失敗作としてアカネに捨てられます.
彼もまたアカネにとってイレギュラー,バグ的存在となり「要らなくなったもの」ですが,最後には怪獣となったアカネを救出します.
(3)作品の主題
以上から,アカネの世界ではバグ,ジャンク,グリッドマン及びアンチ(グリッドナイト)が救う側として同列となります.
アカネが気に入らないもの,要らなくなったもの、捨てたもの,ゆえに忘れられたもの.これらに彼女が救われるお話の構造.
関連して雨宮さんは次のように述べています.
正統ではなく異端だったり,普段は劣後とみなされたものの勝利というのはこの手の作品では定番です.監督はこの類の話を好んでいる節があり,コピーものに関しては自身を重ねている分,救い出したいという願いすらうかがえます.先ほどのバグ=グリッドマンが正義の側にいるのもこれと関係がありそうです.
他にもアカネの怪獣への思いにみられます.
怪獣が劣った存在というつもりは毛頭ありませんが,彼女のこの行き場のない気持ちに先ほどの話と似たものを見ることができるでしょう.本編で彼女の気持ちに救いはあったのかよく分かりませんが,この怪獣あるある監督は思うところがありそうです.
個人的に監督のこのような態度に,例えば何でも二者択一で考えるような硬直的な二元論的思考への批判的態度をみますが皆さんはどうでしょうか,このニュアンスは2作目の『SSSS.DYNAZENON』にもみられます.
本作はあくまで裏設定でしょうが,要らなくなったもの、捨てられたものが世界を変えていく物語のようです.そういうメタ設定があるため,グリッドマンはアカネの世界で邪魔者であるがゆえ裕太を選ばなければならないのです.
裕太にグリッドマンが宿った理由は『SSSS.GRIDMAN』がはじかれた者たちが世界を救う物語だから,というメタ的理由がここでのバグ説の理解となります.
5.劇場総集編について(おまけ)
最後に,劇場総集編の新規カットで分かったことを紹介します.
裕太らの高校では2年次に文系理系にクラス分けがされるようです(第10回「崩・壊」).劇場総集編の来場者特典VDにて,内海が理系で来年はっすとは別々のクラスになることが明かされました.
そして本編の新規カットでは内海の教室に電子辞書を借りにきた裕太が描かれます.また内海の教室には六花の姿が.したがって裕太は2人と別のクラスになり,内海と六花は理系に,はっすは(おそらく裕太も)文系に進んだことがわかります.
さらに裕太の視線の先,窓際の六花が風に靡いたカーテンと共に印象的に描かれていました.この描写はVD9.99999999回にて裕太が六花を好きになった光景を彷彿とさせるカットになっています.
つまり,新作『グリッドマン ユニバース』で裕太の恋の行方が描かれる…かも?
今回は以上になります.最後までお読みいただきありがとうございました.ご意見感想等あればお願いします.
次回はアカネと六花を予定[追記:下記記事].
・参考文献一覧
『宇宙船 別冊SSSS.GRIDMAN』(ホビージャパン,2019年)
『てれびくんデラックス愛蔵版 SSSS.GRIDMAN超全集』(小学館,2019年)
『SSSS.GRIDMAN 特典ブックレット』全4冊
『SSSS.DYNAZENON & GRIDMAN ヒロインアーカイブ』(一迅社,2021年)
画像:©円谷プロ ©2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会
※追記(2023/1/30)
作品の主題について記述を若干追加