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「ブランド論〜無形の差別化を作る20の基本原則〜」の要点をざっくりとおさえてみた

こんにちは。おなつです。

今回はブランド戦略に関わる参考書、「ブランド論 - 無形の差別化を作る20の基本原則」(著:デービッド・アーカー)を読みました。

著者であるデービッド・アーカーは、「モダンブランディングの父」と呼ばれ、マーケティングにおけるブランドの重要性を確立させた立役者です。
彼の20年に及ぶ研究成果をブランド論の集大成が本書となります。

本書はなんと20章もあり、どの章も難しい専門用語であふれていました。
その中のいくつか気になった箇所の要点をおさえて記載していこうと思います。

余談ですが、本書のカバーがなかなかインパクトがあったので、あえて外して読みましたが、誰かの伝記のようなカッコよさがあったのも発見でした。

シンプルでおしゃれ、シルバーで名前が書かれているのもGood

著者について

アメリカの経営学者でブランド論の第一人者。
カリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクール名誉教授(マーケティング戦略論)。
マーケティング理論家としてだけでなく、コンサルタントとして国内外の多くの企業に対してアドバイスをしてきた。
マーケティング・サイエンスの発展に著しく寄与したことに対して「ポール D. コンバース(Paul D. Converse)」賞を、またマーケティング戦略への業績に対して「ヴィジェイ・マハジャン(Vijay Mahajan)」賞を受賞。
発表した論文の数は100本以上、また著書は15冊を数える。

本書は大きく5部から構成されています。

第I部 【基本】資産としてのブランド

第I部は「ブランドは企業の資産」であることを説明しています。

一般的にブランドというと商品などのロゴや名称を想起しますが、ここでは商品に想起させる一連のイメージを象徴するもの = ブランドとしています。

ブランド・エクイティ

ブランドは目に見えないものです。その目に見えない(無形)価値を資産として捉える考え方を「ブランド・エクイティ」と著者は名付けました。

1980年代まではよい商品を生み出してさえいればブランドは後からついてくるという考え方が一般的でしたが、それによる失敗も多くありました。
・パッケージ商品:POSシステムの商品スキャンによりリアルタイムデータが台頭。データによる実験から「〇〇%引き」などの値下げが主流となり、通常価格では買われなくなった
etc…

上記のような価格競争もあり、1980年代後半から1990年代にかけての欧米市場において、新たな価値創出の戦略が必要となりました。
ブランドとそのマネジメントの重要性が強く認識された結果、著者であるアーカーが唱えた、「ブランド・エクイティ」が台頭します。

ブランド構築の3つの目標

ブランドを構築し、ブランド・エクイティを高め活用するには以下の3つが必要としました。

1.ブランド認知
ブランドが認知されている度合い(知名度)のことです。
ブランドの名前が知られているだけでなく、そのブランドが提供する商品やサービスがどのようなものか、思想や文化の理解を正しく認識されているかも重要です。
商品を購入するとき、知っていたり見慣れているブランドの方が安心しますよね。

2.ブランド連想
顧客がそのブランドに対して思い浮かべるイメージのことです。
ブランド・エクイティの高いブランドは、ブランドを想像したときに何かを連想させることが多いです。
例. 「Amazon」といえばネット通販。「スタバ」といえばコーヒー。

3.ブランド・ロイヤリティ
ブランドへの愛着の度合いのことです。
ブランドロイヤリティが向上することで、顧客は他のブランドに移りづらくなるため、企業は安定した収益を確保することができます。
私のスマホはApple製品を10年以上前から使っていますが、愛着(慣れ)があるため、他のブランド(競合)に移ることはしません。
このような経験がある方は多いのではないでしょうか。

第II部 【実践】ブランド・ビジョン

ブランドの成功においては「ブランド・ビジョン」が必要です。
ブランド・ビジョンとはブランドに将来こうなってほしいと願うイメージ・あるべき姿を明文化したものになります。
これは顧客だけでなく、従業員や取引先などの社内外含めたステークホルダーから見たときににも重要です。

スポーツ用品のNIKEのブランド・ビジョンは
「世界中のすべてのアスリート*にインスピレーションとイノベーションをもたらすこと(*体ひとつあれば、誰もがアスリートだ)」。

家具メーカーのIKEAは「より快適な毎日を、より多くの方々に」としています。

ブランド・ビジョンを生み出すには、内外環境、顧客セグメント、市場トレンドなどを把握した上で、高い理想を掲げたブランド連想を複数考えます。

ブランド・ビジョンを作るプロセス

1.ブランドの状況と戦略を整理
顧客セグメント・競合他社・市場トレンド・内外の環境要因など、事業戦略を把握しておく必要があります。

2.ブランド連想を書き出す
高い理想を掲げたブランド連想をいくつでも良いので書き出します。
ブランド連想は、価値提案を支える「差別化ポイント(目標:顧客にとってなくてはならないもの)」を示します。
そうでなければ他ブランドとの等価性を表す「平準化ポイント(目標:顧客にとってこれで十分)」を示すべきとしています。これで十分と思われたら、商品選択の際に、自社ブランドが除外されなります。

3.上記の「ビジョン・エレメント(要素)」に優先順位をつける
最も重要であり、最も大きなインパクトを与えうる要素を「コア・ビジョン・エレメント(最も訴求力を持ち、違いを際立たせる要素2~5個)」とし、残りを「拡張ビジョン・エレメント(その他の要素)」とします。

4.「ブランド・エッセンス」を生み出す
「ブランド・エッセンス」は、ブランドの一番大切な特徴や個性のことです。他のブランドと違うところや、ブランドが一番得意なことを表します。

5.「ブランド・ポジション」を決める
「ブランド・ポジション」とはブランドが人々の心や頭の中でどのような場所やイメージを占めているかを表すものです。
非常にわかりやすい例が以下のカフェのポジショニングマップです。

三坂健『戦略的思考トレーニング』(PHPビジネス新書)より

ブランド・ビジョンは、ブランドイメージの根幹です。
社会的価値があり、かつ顧客に共感されるビジョンであることが重要です。

自社ブランドの他社との差別化

差別化を図るには下記をの6つを構築することが重要としています。

1.ブランド・パーソナリティでつながる
「ブランド・パーソナリティ」とは、ブランドが人間のような特徴や性格を持っているように感じられることを指します。
「iPhone(Apple)」「スターバックス」「ディズニー」など独特の個性がありますよね。アップルは「イノベーション」「クリエイティブ」「シンプル」などの個性がある魅力的なブランド・パーソナリティを築いています。
顧客の目を引き、差別化され、ロイヤリティを獲得・維持するために有利になります。

2.組織で差別化を図る
競合他社・ブランドが真似できないもの、それは「組織」です。
メンバー・文化・資産・能力などは唯一無二です。
組織の価値観を明確にすることはブランドの差別化をもたらし、顧客と関係も盤石になります。真似するのが難しいので、強い耐久力もあります。
私の所属するGMOペパボは特に文化がはっきりしていて、そこに賛同する人が集まってできています。これはかなり強い力だな、と思います。
良かったら↓の記事も読んでみてください。

3.機能的便益を超えて、複数の便益を組み合わせる
機能的便益は、ブランドを通じて顧客に提供しようとする利点や機能のことです。(例:ダイソンの掃除機の吸引力)
機能的便益以外の複数の便益とは、下記3つが挙げられています。

・情緒的便益
製品やサービスの購入・使用時に感情的な満足や喜びをもたらすこと。
例:Appleの製品を買うとき、私はワクワクする。

・自己表現便益
製品やサービスを通じて自分自身を表現したり、他の人に自分の個性や好みを伝えることができること。
例:スターバックスコーヒーに行くと、おしゃれな自分でいることができる

・社会的便益
ある製品やサービスを使用すれば、ある社会的集団に所属することができる、といったことが例に挙げられます。
例:ナイキを着ることで「スポーツを愛する集団」という意識を持てる

上記の便益を複数掛け合わせることで、競合に負けないブランドを構築することができます。

4.「マストハブ」になる
ブランドの成長の道は差別化ポイントが「マストハブ(=必須条件)」になることです。マストハブとは、顧客がブランドや製品を使用するときに、その選択肢に入るために必須の条件のことです。

Google::豊富な情報と優れた検索エンジンがマストハブであり、インターネットでの情報検索の主要な選択肢となっています。
Airbnb:ユニークな宿泊体験と利便性がマストハブであり、シェアリングエコノミーの代表的な企業として人気を集めています。

マストハブになりえるアイディアの見極め方は「そのコンセプトは市場にとって重要か?」「その製品・サービスを開発できるか?」の2つです。

「そのブランドよりうちのブランドのほうがいいですよ」式のマーケティングでは、およそ市場は変化しない。どんな変化であれ、意味のある変化が市場構造に起きる唯一のケースは、大きなイノベーションを掲げた新しい”マストハブ”が市場に投入された時だ。

本書第7章より引用

5.イノベーションをブランド化する
イノベーション:新たな考え方や技術を取り入れて新たな価値を生み出し、社会にインパクトのある革新や刷新、変革をもたらすこと
イノベーションを自社のものにし、顧客の信頼性を向上させ、中身を伝える作業(コミュニケーション)を楽にするメリットがあります。
イノベーションをブランド化することにより、企業は競争力を高め、市場での差別化を図ることができます。

6.サブカテゴリ―をフレーミング(枠組みを決める)する
サブカテゴリーとは1つの大きな商品ジャンルの中から、消費者がモノやサービスを選ぶ際の、選択の基準となるもの。
ビール:生ビール・ドライビール・エールなど
著者が分析した事例で、飲料会社のアサヒはビール市場における新ジャンル(サブカテゴリ―)としてドライビールを確立しました。それにより、たった1年で競合のシェアを10%奪い、10年間市場トップを守りました。
サブカテゴリーを作り出しうまく管理すれば巨大な成長を得られます。

第III部 【活性】ブランド優位性

顧客のスイートスポットに焦点を当てる

ブランド構築に役立つ手法は以下の6つです。
・外部のロールモデル
・ブランド・タッチポイント(顧客接点)
・顧客の動機と未対応のニーズ
・好機を素早く見極めること
・既存の資産の活用
・顧客のスイートスポット(真芯)

特に最後の顧客のスイートスポット(真芯)に注目し、ブランド構築を行うことがブランドの優位性を築く上でとても重要になります。
スイートスポットとは顧客が実際に熱中していることや関心ごとです。

顧客に自社の製品やサービスの特徴を伝え説得するだけでは勝てません。
顧客が何に興味を持っているか、顧客の生活と結びつき、積極的に関わることが大切としています。

赤ちゃん用オムツで有名なパンパースは自社のWEBサイトで、オムツの情報だけではなく、赤ちゃん発達に関する記事やオンライン・コミュニティを運営しています。これにより、ママやもうすぐママになる人がつながることができ、考えや知識を共有できるようになりました。
オムツ販売という枠組みを超えて、パンパースが母親を理解し、ブランドと母親との関係を築くべく努力をしていることがわかります。

パンパースのような例は顧客から共通利害を持つパートナーとみなされ、結果としてブランドに対する熱意・好感・信頼をもたらすことができます。

一貫性が勝利をもたらす

ブランド一貫性が勝利をもたらす理由は以下の4つとなります。
・ブランドの定着には時間を要する
・長期間にわたる一貫性のあるブランド・プログラムは、特定のポジションの実質的な所有権をブランドにもたらす
・どのような変化であっても、変化はそれまで築き上げてきたものを薄めてしまう。それにより顧客が変化について行けなくなる。
・維持する方が簡単で低コスト。

もちろん何がなんでもビジョンを変えない、という頑固さとは違いますし、不十分な戦略遂行を繰り返すことでもありません。
ですが、変更を行う際は正当性をしっかり確認する必要があります。

社内向けブランディングがカギとなる

社内向けのブランディングはメリットが多くあります。
・社員や事業パートナーに方向性と意欲を与えることができる
・社員に刺激を与え、創造的で画期的なブランド構築プログラムを発見・導入させる可能性を高める
・社員基盤が活性化し、社員や関係者はブランドについて他人に語りたいと思うようになる
・大いなる目標を含むビジョンのあるブランドは、仕事上の意義と達成感さえも社員に与える見込みが大きい
・社内向けブランド戦略の活性化によって、戦略とその実践の基盤となる組織文化を支援できる

社内でブランドを構築するには、「ブランドを学ぶ」「ブランドを信じる」「ブランドを演じる」という3つの段階が必要であるとしています。

第IV部 【強化】ブランド・レレバンス

「ブランド・レレバンス」とは、ブランドが顧客にとって重要で関連性のある存在であることを指します。

ブランド・レレバンスが脅かされた時の対応策

競争が激しい市場ではブランドのカテゴリーが縮小する要因でブランド・レレバンスが失われる可能性があります。

対応策としては、以下の5つが挙げられます。
・同格になる
・イノベーションで一気に飛び越える
・ブランドの修正・再ポジションをする
・周囲を気にせず、同じ価値提案を追求する
・投資中断・撤退

市場変化は関係なく、顧客に「買わない理由」が生じた場合は以下が有効。
・正面から対応してマイナス点を打ち消す
・話題を変えてしまう

ブランドの活気や存在感が失われるなどの場合、「購入時の検討対象」から外されたり、最先端でないとみなされてしまいます。
活気を与えるには以下の4つの手段があります。
・製品、サービスにイノベーションを起こす
・印象的なマーケティングプログラムを生み出す
 →人々を巻き込んだ販促・説得力のある広告・口コミなど
・ブランド活性化要素を見つけるか生み出し、それをブランドに結びつける
 →自社で所有できるブランド活性要素と活気ある社外のブランドの2種類

著者は十分に活気のあるブランドは少数で、活気の欠如はブランドの世界の流行病と書いています。どこの企業・ブランドでも起こり得ることですが、活気を取り戻すために必須の対処法です。

第V部 【拡張】ブランド・ポートフォリオ

ブランドにはポートフォリオ戦略が必要

「ブランド・ポートフォリオ」とは、複数のブランドを持つ会社や組織が、それぞれのブランドを管理する仕組みです。
ブランド同士の効果や役割を適切に管理するため、投資すべき伸びるブランドと縮小すべきブランドが明確になり、経営資源を適切に分配できます。
これにより、多様な顧客のニーズに対応できるので、さまざまな顧客層をターゲットにすることができ、市場での競争力を高めることができます。

複数のブランドを持つ会社の例:「7&Iグループ」(「セブンイレブン」「イトーヨーカドー」「セブン銀行」など…)

ブランド拡張の方向性を見極める

ブランド拡張はブランドを強化・発展させるための一つですが、高リスク・高コストとなります。以下の4つのケースが存在します。
・よい拡張:新しい製品・サービスの認知を高め、必要な連想を得る。
・さらによい拡張:新しい製品・サービスがブランドの認知と連想を強化する上に、ブランド範囲を広げ、ブランド構築予算を増やせる
・悪い拡張:ブランド連想が新しい製品・サービスの妨げになる
・悲惨な拡張:新しい製品・サービスがブランドイメージを薄めたり、望ましくない連想を生む。事件や失策により元のブランドを傷つけてしまう。

利用可能なブランド連想を見極め、説得力のある価値提案をもつ製品・サービスを見つけ、拡張が場当たり的ではなく長期ビジョンの一部であることを確実にする必要があります。

終わりに

ブランドという概念に関する総論として、本書はかなり網羅的です。
ブランディング手法の細かい具体については、時代とともに新たなトレンドや型が生まれていくものですが、核となる考え方はおそらくあまり変わらないもので、そのインプットとしては良書だと思います。

ちなみにII部の要点だけだいぶボリューミーで、III部以降駆け足じゃね?なんて思った方はいますか?後半サボったわけではありませんよ!
本書自体もII部の分量がかなり多いです。0→1の実践フェーズがやはり一番課題が複雑で、苦心するものなのでしょう。

私は現在プロダクト内でWeb広告担当をしていますが、広告もやはりブランディングあってのものです。どれだけ多くのユーザーに見てもらえたとしても、ユーザーにとっての価値がなくてはCVに繋がりません。
施策ごとにさまざまな広告を配信していますが、改めて顧客のスイートスポットを意識する必要があると考えさせられました。

ディレクターだけでなく、どの業種・職種の方でも自分の関わる仕事のために読んで損はない1冊です!

ここまでお読みいただきありがとうございました!
以上、おなつでした。

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