「光あれ!」/冬ピリカグランプリ参加作品
何もなかったはずの場所に、いつのまにか私は存在していた。漆黒の闇の中に漂う無形の意識として。だが何をどうしたらいいのかわからぬまま、私はただ、さまよっていた。
そんな私の中に、ふいに何かが流れ込んでくるのを感じる。
「おい、聴こえてんのか?あんたに言ってんだ。悟りきったような、すました面してんじゃねーよ。完全に火が消えちまってんじゃねーのか?
小手先のテクニックで持ってこうなんて、こざかしいこと考えてんじゃねーよ。100年はえーわ。
肝心なことを忘れてるんじゃねーかって、いってんのよ。
もちろん、生のままの感情をただブツケればいいってわけじゃない。コントロールは必要だ。
だけどよ、パッションが足りねーんだよ。消えてんだよ。お前から発せられるエネルギーが落ちてんだよ。触れた人の心の奥を抉る、刃がなまくらになっちまってんだよ。
人の心に届けたいなら、まずは直球で勝負しろよ。カーブがどうだ、フォークがどうだなんて、その後の話だろ。
備忘録として記すならそれでもいい。でも、かりそめにも人様の前に出そうってんなら、根っこのところで日和ってんじゃねーってことよ。
人間生きてりゃ摩擦もあるさ。自分だけ傷ついてるような顔をするな。むしろお前の方が盛大に人を傷つけてるんだ。自覚しろ。そして、忘れろ。
何をいっちょ前に落ち込んでるんだ。
黙って膝を抱えていれば、お優しい通りすがりの誰かが、可哀想にってお前のハートに火をつけてくれるってか?そんな出来すぎた話を期待しててどうする。
子どもじゃないんだ、自分でやれよ。
自分で自分に火をつけるんだよ。燃えるんだよ。燃えないゴミみたいにウジウジしてるんじゃねえ。
お前がやってるのはな、創造なんだ。無から有を生み出すんだよ。お前の中でまだ形になっていないそれに、命を与えるんだ。
きっかけが必要だ。
いまのお前の気持ちに名前をつけろ。そしてその名を呼べ!」
無形の意識であった私は、一瞬の逡巡の後、自らの名を呼んだ。
「光あれ!」
漆黒の闇の中に灯火が生まれ、すこしずつ明るさを増していく。
「そうだ、そいつがお前の名前だ。お前は新しい作品として、世に生まれ落ちるんだ」
一介の作品としての意識を持ちえた私は、さきほどから流れ込んできた意識に向かって誰何した。
「ところであなたは、いったいなんなのですか?」
「知るかバカ!こっちが聞きてーわ。俺は次のヤツのところに行くからよ。じゃあな!」
闇は晴れ渡り、それきり彼の意識は感じ取れなくなった。・・・とりあえず私は、終わりということのようだ。
<終>(1048字)