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「バルバロス戦記 ~断章~」/#うたスト!#課題曲O

「ショウ、なんだいこれは!」

インカムを通して、セシリアの声が甲高く耳に突き刺さった。

「どうしたセシリー、コーヒーでもこぼしたのか」

「レーダーだよ。バルバロスがボコボコ沸いて出てきやがった。話が違うじゃないか」

スナイパー機・SP09のレーダー範囲は、ショウが乗る人型近接戦闘機・AT11とは仕様が違い、広範囲の索敵が可能だ。

「ジョウノウチ、あんたのレーダーではどうだ?SPよりは索敵は狭いだろうけど」

「少々お待ちを。・・・なるほど、バラバラ見え始めてますな。おっと、ハイスペック機のモノケロスが1、2の3機。そのほかはドラドが10機。こりゃ分が悪いね、旦那」

索敵可能領域を広げるためのマッピング任務で、4機小隊でログインしたばかりだというのに、ピンポイントで敵がアピアランスしたのは何故だろうとショウは思ったが、選択肢は一つしかない。

「撤退だ。クローゼ、ツーマンセルで各個撃破しつつ後退する。ジョウノウチはとっととログアウトラインを目指せ。セシリーはライン手前でギリギリまで援護を頼む」

「ラジャー」

とクローゼ。

「ご武運を」

言うが早いか通信を落としたジョウノウチは、タンク型射撃支援機・MR13を即座に後退させる。機動力に劣るMRは、それでも全力で無限軌道を回転させる。セシリーは無言だが、すでに照準を絞り始めているのだろう。

「左から行こうか」

言い放つとショウはAT11を旋回させ、アクセルペダルを踏みこむ。同じくAT11のクローゼが続く。

48秒後、ショウは3機編隊のモノケロスをモニターで確認。左の機体をロックして、距離120mで左にジャンプ旋回する。敵3機からのマシンガン掃射を、そのままホバリング旋回で躱す。

敵の注意が上に向いたところにクローゼが突進。左の敵機にプラズマブレードの3連撃を叩きこむ。

「セシリー!」

ショウが叫ぶと同時にスナイパーライフルのビームが一閃。ダメージを追った敵機のコックピットを貫く。

「ビンゴ!」

クローゼの声を聞きながらショウも、左のレバーボタンを押し、背部ホルダーからブレードを引き抜く。降りざまに、ブレードを逆落としで中央の敵機の背部ジェネレーターからコックピットへと突き通す。

「2機目、と。3機目は?」

「下がった。ドラドが近い。数的不利だ」

とクローゼ。

「退くぞ。セシリー、適当にばらまいてくれ」

「アイサー。ジョウノウチはログアウト。こちらもボチボチ」

「おまかせだ。きょうはこのまま解散。次の任務はまた連絡する」

「グッドラック、コマンダー!」

☆☆☆☆☆

1辺が2mの鋼鉄の立方体、RーPOD。

函の上部に据えられた赤のランプが緑に変わる。自動扉がゆっくりと開き、ショウこと高宮章介が疲れ切った表情で姿を現わした。

「お帰りなさい」

出迎えたのは白衣姿の若い女性だった。

「博士、話が違う。なぜ待ち伏せされた?」

「私にもわからない。無事でなによりよ」

「わかってるだろうが、こいつは単なるゲームじゃない。理屈はわからんが、プレイ中に死ぬとプレイヤーの存在ごと、どこかに持ってかれる」

「そう、『どこか』にね」

「呑気なもんだな。俺はその『どこか』にいっちまったカオリの行方を知るためだけに、協力してるんだ。それを忘れるな」

高宮はエンゲージスーツのジッパーを下ろし、裸の上半身をあらわにする。

「そのことだけど、仮説を立ててみたの」

「妄想、の間違いじゃないのか」

高宮が3人掛けソファの右端にドカリ、と腰を下ろすと『博士』と呼ばれた女も、そのソファの左端に腰掛ける。

「いっとくけど、かなり大胆な仮説よ」

高宮は返事をせず、テーブルの上にあったミネラルウォーターのボトルを手に取り、キャップをはずすとグビリ、と喉を鳴らした。

「プレーヤーは『バルバロス戦記』のゲーム内で『死』を認識した瞬間に消える。跡形もなくね。物理法則を全く無視して。だけど、ただひとつだけ、納得のいく仮説がある。それは・・・」

『博士』は高宮の目を見据えていった。

「私たち自身もゲーム内のキャラクターなのかもしれない、ということ」

「バカな!あり得ない」

激高した高宮は立ち上がる弾みで水のボトルを倒してしまう。床に転がったボトルからはトクトクと水が流れ出す。

「高宮章介、プロゲームプレーヤー。得意は戦闘系ゲーム。北海道札幌市生まれの27歳。妻・カオリとは学生時代に知り合って卒業と同時に結婚。去年、西区にマンションを買った。子供はいない。ネコのカンタを飼っている・・・この個人情報も、ただのデータに過ぎないっていうのか!?」

「仮説よ。それもかなりエキセントリックな、ね。だけど・・・」

『博士』は立ち上がり、床のボトルを拾う。

「そんな突飛な発想でもしないと、追いつかないのよ。開発中のゲーム内に設定していない敵が突然現れ、その敵に破れた人間は消える。そんなバカげたことの説明が誰にできるっていうの」

「・・・なんだっていい。カオリさえ戻ってくるならな」

「さっきの戦い、モニターしていて気づいたことがあるわ」

『博士』はRーPODの傍へと歩き、壁に設置されたモニターパネルに触れる。

「セシリアのスコープで見えた映像のログよ。敵機の様子を見て」

こちらに向かって進行する敵機。見えているその姿は、もともとゲーム内に設定されていた戦車タイプのコルブス3機。その3機がある地点を通り過ぎた瞬間に、謎の人型機体、通称モノケロスへと変貌を遂げる。

「なんだこれは!どういうことだ?」

「こっちが聞きたいわよ。いずれにしても何かしらの『境界』を通過した瞬間に別物へと変貌する。これが今日新たに分かったこと」

「その話、ユピテルの本社には?」

「まだ言ってない」

「言うな。俺はあいつらを信用していない」

「私のことは?」

「・・・シャワーを浴びてくる」

部屋を出た高宮は、『博士』の仮説の話を思い出しながら自分に言い聞かせるように呟く。

「誰だろうが、すべて蹴散らす。必要なら、変えてやるさ。この世界の成り立ちですらも」


<終>





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