林家あんこ「北斎の娘」北海道初上陸!/札幌・だるま寄席
「芸人に上手も下手もなかりけり。行く先々の水に合わねば」
さまざまな芸能に触れていると、ときおりこの言葉を耳にすることがあります。
わたしが初めて聞いたのは小三治師匠のマクラだったでしょうか。
ともあれ、ホントにそうだよなあ、という重みのある言葉です。
さて、私も好きな落語に関して「推し活」めいたものを続けているのですが、推しが自分の地元で「水に合う」のかどうかハラハラ・ドキドキしながらきょう、2024年11月16日を迎えました。
「推し」とは、林家あんこさん。
二つ目の彼女が私の地元・札幌で口演するのは初めてではありません。かれこれ5年前にも来たことはあるとのこと。
だがあんこさんが近年磨き続けている創作落語「北斎の娘」を、北海道でかけるのは今回が初めてだったのでした。
札幌市の中心部から少し外れた豊平区の平岸エリアにある「だるま寄席」はタクシー会社の古い車庫を改装した風変わりなホール。
ここで開催された「第15回だるま寄席」がその舞台です。
きょうの演者は来年の秋に真打昇進をすることが決まっている金原亭馬久さん、紙切りの宝玉斎こん太さん、札幌を中心に注目度急上昇中のお笑いコンビ「やすと横澤さん」。
そして林家あんこさん!……の4組。
前説をかねての開口一番で飛び出した「やすと横澤さん」は、札幌のメディアでじわじわと露出が増えているという勢いのあるコンビ。
観客の反応を見ながらテンポよく盛り上げていく技はこなれたもの。代表作となる看板ネタが完成すればさらに大きく羽ばたくことでしょう。
馬久さんは「駆け込み寺」と「おすわどん」の二席を演じられました。
馬久さんの奥様は、先日「NHK新人落語大賞」で惜しくも大賞を逃した春風亭一花さん(私の個人評価では文句なしの大賞でした)。
その一花さんがNHKでかけたのが「駆け込み寺」。
つまり今回は馬久さんの粋なネタチョイスで夫婦落語家の同じネタを、時期をあけずに聞くことができるという幸運に恵まれたのです。
落語が個人芸であることは言うまでもありませんが、馬久さんの「八っつぁん」、一花さんの「おかみさん」が脳内編集されて見え、スペシャルバージョンとして記憶に残りました。
宝玉斎こん太さんは、明るく朗らかなトーンで会場を和ませつつ、ゴジラ、花嫁、といったお題を切り抜いていきました。前回はいまひとつお客さんが遠慮がちだったそうですが、今回はしっかりと手ごたえを感じられたことでしょう。
さてお目当ての林家あんこさん。
これまでは関東エリアを中心に「北斎の娘」を演じてきました。その意味では北斎との縁が薄い北海道での口演は、いわばアウェー。
ですが、この噺を看板として育てていくためには踏ん張りどころでもあります。
北斎の富岳三十六景の代表作「神奈川沖浪裏」などの作品の説明を少し丁寧に入れ込みながら、聴かせどころを立てての口演。
本来ならば前後編で1時間近くの長さになる噺を、どの小屋でもかけやすくするために仕立てた「30分バージョン」ではありましたが、主人公「お栄=応為」の葛藤と矜持を人情噺に近いトーンで熱演されました。
もう一席は「松竹梅」と南京玉すだれというおめでたい出し物。会場には笑顔の輪が広がっていました。
会場の物販では令和鹿芝居「牡丹灯籠」のDVDも販売されていて、馬久さんとあんこさんが出演されているとのことで珍しいので購入いたしました(お二人のサイン入り)。
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