「文学フリマ東京38」探訪記④/気まぐれ雑記
文学フリマには、なにがあるのか
この春、BSNHKで「舟を編む」がドラマ化された。
原作ではサブキャラクター的な位置づけの、新人編集者の女性社員の目線で「辞書編纂」の意味を問い直す秀逸なドラマだった。
ドラマ中盤では出版社の社長が「紙の辞書は時代遅れ」として、デジタル版のみの出版へ舵を切ろうとするくだりがある。
辞書編集部の面々は社長を翻意させるべく「本」として出版すべき意義を探し求める。その中の理由のひとつに「セレンディピティ効果」というものが上げられていた。
セレンディピティ=意図せぬ幸運。
私が本屋巡りが好きなのはまさにこの「セレンディピティ」を期待するからなのだと思う。
だが一方で、掴みにいかなければ触れられない幸運もある。
意志をもって、手繰り寄せに行く。
自分の運命の向かう先を、ほんのわずかであるにしても、力づくで変える。
文学フリマには、その両方があるのではないかと、私は思っている。
著書にサインをもらいに行く
創作大賞2023で朝日新聞出版賞を受賞され、この春「クリームイエローの海と春キャベツのある家」で作家デビューされた、せやま南天さん。
去年の文学フリマ東京で名刺交換をさせていただき、勝手に親近感を抱く私にとっては、目標とする方の一人だ。
札幌で買った著作をスーツケースに詰め、サインをねだろうと東京を目指した。
ご本人に会う「当て」は、ないわけではなかった。
note内で大人気の音声配信コンテンツ「すまいるスパイス」にご出演されるとの情報があったからである。
せやまさんに会うまでのお話の前に、「すまスパ」のことを書いておこう。
クリエイターの輪を広げた「すまスパ」
ピリカさんをはじめ、こーたさん、Marmaladeさん、コッシーさん、そして新メンバーの納豆ご飯さんがパーソナリティーを務める音声コンテンツ「すまいるスパイス」。
ピリカさんがクリエーターに寄稿を依頼する「ピリカ文庫」の朗読をはじめ、メンバーが喫茶店での雑談形式でゲストとトークを繰り広げる「カフェ・ペンギン」など、聴いていて飽きないコンテンツがひしめいている。
不定期で開催している私設のショートショートコンテスト「ピリカグランプリ」とも連動していて、入賞者がゲストとして招かれることも……。
note内で作品発表の場を求めるクリエーターにとっては、またとないチャレンジの場であるともいえそうだ。
「すまスパ」が、奇しくも文学フリマ東京38の開催日が丸3年の記念日ということもあり、九州在住のピリカさんが文フリ会場付近の特設会場で生配信を実施するという一大イベントが企画された。そしてその生配信の中に、せやま南天さんも特別ゲストとして参加していたのだった。
『プロ』と『アマチュア』の境界線を越えて
当日の生配信ではMarmaladeさんを除くパーソナリティーメンバーのほか、ミーミーさん、豆島圭さん、着ぐるみさん、椎名ピザさんと古参から気鋭まで(?)幅広いnoterさんたちが3周年を祝うトークを展開。
後半にせやまさんが登場して、「クリキャベ」制作への思いや裏話などを語った。
デビューを果たした「プロ」と「まだプロではない人たち」との会話はリラックスした空気感で進み、せやまさんも気負いなく本音で語られていた印象だった。
その温かな雰囲気の中だからこそ、せやまさんが発した
「結末を知りたいから、書く」
というキラーワードが燦然と輝いたように思う。
サインは心のエネルギー
なぜサインがほしいのか。
紙に書かれた文字に、何を求めるのか。
自分なりに考えてみる。
物理的には、単に紙に書かれた文字に過ぎない。
だが形が残ることで、記憶は強く、鮮明なまま保存される。
保存?何を?
……気持ちだ。
なりたい自分を目指すための、活力。
みずからもらいに行ったサインには、そんなエネルギーがあるのではないか。
今回は「すまスパ」コミュニティーのお力も借りて、めでたくせやまさんに遭遇することができた。
せやまさんは笑顔で、サインを記してくれた。
そうだ。
私にもまだ、やれることはあるはずだ。
それが創作大賞や、そのほかのコンテスト参加なのかどうかは別として。
『私が誰かにエネルギーを与えられる人になる』
ああ、そうだったんだ。
ようやく自分が目指していたものの、正体が見えてきた。
そんな気がした。
今回は、文学フリマ東京38での、せやま南天さんと「すまスパ」3周年特別回について書きました!
次回(おそらく最終回)では、文フリ会場で出会った「noteの綺羅星」について記します!