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いつか、君に伝えたかった。/【ピリカさん:曲からチャレンジ企画参加】

ずうっと前から、君に言いたかった言葉がある。

例えばあれは小学2年生の放課後、児童会館。転校してきたばかりの君は、いつもひとりでノートに絵を描いていた。僕は後ろからそのノートを覗き込み、こう言った。

「なんだその絵。ヘタクソだなー!何かいてんのかわかんねーよ」

僕は描きかけのそのページをビリリと破き、君は泣いた。僕は素知らぬ顔をしていたが、指導員に呼び出されて結局、泣きながら君に謝った。

例えば小学5年の秋。林間学校最終日の夜。フォークダンスで君と手をつなげるかと思っていたら、2人手前で曲が終了。君はこちらを一瞥もせずに女友達と宿舎に戻っていった。声をかける暇さえなかった。

例えば中学1年の春。僕は野球部に入ろうと思っていたが、風の噂に君が女子バスケ部に入ると聞いた。僕は適当な理由をつけて男子バスケ部に入った。君がバドミントン部に入ったと知ったときはアゴがはずれそうになったのだけれど。

その後、奇跡的に同じ高校に通うことになり、奇跡的に同じクラスになった。僕は勝手に運命だと思っていたし、いよいよここから何かが始まると確信していた。どんなシュチュエーションで話しかけようか。どんなきっかけでLINE交換しようか。妄想は膨らむばかりだった。

だけど君は急にいなくなった。ゴールデンウィークが明けるとホームルームで担任が、君は家庭の事情で転校したと皆に告げた。絶望した。お先真っ暗だった。

だけどその悲しみはいつまでもは続かなかった。半年後には彼女ができたし、大学ではちょっとした三角関係も経験した。今は、結婚して子供も生まれた。

そして、何のことはないふとした瞬間に、君のことを思い出す。絵を描いていた横顔。フォークダンスの背中。バドミントンで揺れたポニーテール。高校のセーラー服。

そんなとき僕は、音には出さず唇だけを動かして唱えてみる。呪文のように。そよかぜのように。伝えられなかったその言葉を。

岡村靖幸:「だいすき」

ピリカさん発案の「曲からチャレンジ」企画に参加します!


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