「春ピリカグランプリ」朗読配信ウラ話/⑯「指紋」 作:師走
「春ピリカグランプリ2023」すまスパ賞受賞作品の朗読について、読ませていただいた感謝と作品への向き合いを綴っていきます。
今回は、師走さんが書かれた王道ショートショート「指紋」についてです。
はねのあきさんの作品の時に感じた星新一の匂い。師走さんのこの作品からもビシビシ感じます。意識して模倣されたわけではないと思いますが、少ない文字数の中で要素をそぎ落としながら骨太にSFの味わいを極めていくと、おのずと辿り着く理想的な形は似通ってくるのかもしれません。
いうなれば和食の神髄に近いのではないでしょうか。
表面上は切ったり盛ったりのシンプルに見える作業の裏に、出汁の取り方、下ごしらえの仕方、無駄のない包丁さばき、などといった達人の技を見えないところで施している。
そうしたことを前提にセリフ部分を読み返してみましょう。
無駄がまったくない。
極限までそぎ落とされ、研ぎ澄まされた言葉が、あたりまえのようにサラリと書いてあるのです。
さらに突き詰めると、このお話は地の文なしでセリフだけを読んでもストーリーが成立するのです。
100mを全力で走りきることのみに意識を集中させるアスリートのような潔さを感じた作品でした。
この作品を朗読するうえで意識したのは以下のような点です。
・主人公の年齢は60前後か。
・人殺しのような悪辣さはなく、楽天的な人柄を想像。声のトーンを軽めに設定。ただ、年齢表現のため掠れ声を4割ほど加えて。
・友人は差別化で低めの声。だが一般社会に適応しているようなので、険のなさげな雰囲気で。
・地の文は主人公の心の声として。
・逮捕された主人公が、接見に来た弁護士に事情を説明しているようなイメージも含みつつ。
・警察官の声はベテランぽさと、バカな犯人への呆れ声のイメージで。
セリフの味わいが後を引く今作。
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