「金持ちジュリエット」/ショートショートnote杯
ヒロキがシャワーを浴びている間に、テーブル上で彼のスマホが、ぶぶぶ、と振動した。発信者名が目に入る。
『金持ちジュリエット』。
かわいそうに、と私は思った。
ヒロキの太客なのだろう。持ち金を巻き上げられているとも知らずにのぼせ上っている女。それが彼女なのだ。だが、黒い画面に戻ったスマホを眺めているうちに、疑問がわいた。
かくいう私は、何と登録されているのだろうか。
好奇心に負け、電話をかける。
ぶぶぶ、という音とともに表示された文字列は、私の自尊心を大きく傷つける屈辱的なものだった。
性奴隷のように蔑み、一時的な欲望のはけ口としてしか見ていない言葉。
私の出自を見下し、人としての尊厳をも深くえぐる言葉。
これなら『金持ちジュリエット』のほうが、どんなにマシか。
手早く服を身に着ける。ヒロキのご自慢のオイルライターに火をつけ、ベッドの上に放り投げる。見る見るうちに広がる炎を確認し、私はそっと部屋の扉を閉めた。