「しゃべるピアノ」/ショートショートnote杯
街はずれの古い本屋。一人の若い女性が、店内の棚をキョロキョロと眺めている。
「何かお探しですかな?」
「『しゃべるピアノ』という絵本を。コンクール中、不安で挫けそうな女の子をしゃべるピアノが励ます物語なんです」
「…それは」
それは店主が40年前、当時の恋人の誕生プレゼントとして1冊だけ作った絵本。だが身分違いの恋は実らず、2人は引き裂かれてしまった。
「子供のころ祖母によく読んでもらったんです。祖母はその本をいつも手元に置いていたので、亡くなった時に一緒に棺に入れたんですが、また読みたくなりまして」
「…そう、亡くなったんですね。…ここへはなぜ?」
「祖母が生前よく言っていたんです。『思い出を探すなら、街はずれの本屋さんに行ってごらん』って」
「…その本、たしか再版されるはずです。1か月後にまた来てもらえませんか」
「よかった!私、2か月後にコンクールに出るんです。間に合いますね」
「間に合わせますとも。絶対にね」