レジリエンスの諸相

人類の祖先は弱みを強みに変えて生き残った(放送大学 放送授業より)①

放送大学 放送授業 「レジリエンスの諸相」での山極教授の話をまとめてみました。山極先生の市販本をいろいろ読んでみましたが、この放送授業の山極先生の話が分かり易くまとまっているので、できるだけ忠実にメモしました。(カッコ内の記載は私のつぶやきです)
放送大学 シラバスリンク
https://www.wakaba.ouj.ac.jp/kyoumu/syllabus/PU02060200211/initialize.do

(山極先生の授業内での話)
サバンナ(草原地帯)は森林に比較して、肉食動物が多くいて逃げるところがなく、危険な場所であった。(今と同じ) ゴリラやチンパンジーという人間に一番近い類人猿というのは、いまだに熱帯雨林から離れられない。人間はゴリラとチンパンジーと共通祖先を持つが、ゴリラもチンパンジーも熱帯雨林からずっと離れたことがない。
人間の共通祖先だけが900万年前 700万年前に分かれてサバンナへ、そして他の大陸へ進出していった。当初、サバンナに進出した人類の祖先は、肉食動物からの危険に身をさらしながらほそぼそと生きていたが、しかし、サバンナに進出したことがその後イノベーションにつながる。

(進出といっても、積極的ではなくやむを得ずの行動。当時の大気候変動により、熱帯雨林が小さくなっていく時期に、森で一番弱かった存在の人類の祖先が押し出されるように森から出て行った。当時の類人猿にはない特徴『すでに直立二足歩行で遠くまで歩き回ることができた能力』を持っていたことによって、出ていくことができたとも言える。末尾:本の上巻メッセージ参照)

(山極先生の話に戻ろう)
類人猿というのはサルよりも2つ大きな弱みがある。
・胃が弱い。
・子供の成長が遅い。
2500年前には類人猿の種の方がよほどサルよりも多かった。ところが、今はアフリカの熱帯雨林には4種、ゴリラ2種 チンパンジー2種のみ。ところがサルは、もう60種を超えるたくさんの種がいる。何故かというとサルは毒性のある葉っぱや、それから、未熟な果実も食べられるような強い胃腸をもっている。胃や腸内にたくさんのバクテリアを共生させてそれによって消化阻害物を分解させる。食物繊維を分解させることをやってきた。
ところが類人猿にはそういう能力があまりない。
だから、フルーツが熟するまで食べられない。サルに先に食べられてしまうと不利になる。だから、類人猿は熱帯雨林の中でさえだんだん勢力が衰えていった。一方、サルは熱帯雨林だけでなくもっと過酷なサバンナや落葉樹林帯にまで進出を果たして、ついには日本までやってきてついにはニホンザルになった。
それからもう一つ弱みがある。
それは類人猿の子供の成長期間が長い。おっぱいをあげている時間が長いから、ゴリラでもせいぜい4年に1回しか子供を産まない。
ところがニホンザルは年子も産めるような非常に早い子供の成長速度を持っている。だから次々と子供を産んで家族を増やすことができる。だから例えば、飢饉があってポピュレーションがすごく小さくなった時に回復する力がサルのほうが大きい。類人猿はなかなか回復できなかった。それによってドンドン猿から押されていったのではないかと思う。
人間の祖先というのはそういった類人猿の弱い特徴、つまり、子どもの発達が遅い、それから、胃が弱く未熟な果実や葉をたくさんは食べられないという特徴を持ってサバンナへと出ていった。そこから人間のイノベーションが始まる。

(上記の弱みを補うため、人類の祖先は、森で暮らしている頃から唯一直立二足歩行で、森の中でも遠くから食べ物を集めて、分け合って食べていたらしい。時々は森から草原に出ていって食べ物を集めていたと思われる。)

(以上の話は最近の住宅地へクマ出没の話とかぶる。
 最近、北海道等でクマが住宅地にまで現れるようになって騒ぎになっている。実はこのクマたちは森の中では一番弱いクマらしい。本当に強いクマは森の中で通常の食糧にありついているというのだ。そして、押し出されるように住宅地に出て行った弱いクマが時には鉄砲で人間に駆除されてしまうということらしい。何か、上記の700万年前の人類の祖先の話を思い起させる話だ。)(以上の山極先生の話の続きは次回へ)

(山極先生の末尾の本の上巻メッセージ)

■霊長類は熱帯雨林の住人であり、熱帯雨林の生態系の一部として生存していた。ところがおよそ一千五百万年前におこった気候変動により熱帯雨林の急激な縮退が起き、樹上生活者たる霊長類にとって生存環境の過密化という問題に直面した。

霊長類の中で、この問題の解としてニッチのすみわけという手法を採用したゴリラとチンパンジーは熱帯雨林に残るという選択肢を選ぶことができた。他方、サバンナに進出するという解を選んだものもいた。

彼らの中で、その後5百万年~7百万年前のさらなる寒冷化・乾燥化の中で独自の戦略を獲得し、完全に熱帯雨林と決別したものこそ、我々の祖先、ヒト、ホモサピエンスである。社会的知性」の進化を携えながら、ここに人類の冒険は始まったのだ。


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