忘れられないロシアの女王さま来日
渋谷の道玄坂にある、Bunkamuraザ・ミュージアム。 会期があと1週間ほどの「ロマンティック・ロシア」展には“北方のモナリザ”と称されている、色白ロシア美人が来日していました。
同展覧会の花形でもあるのが、イワン・クラムスコイ作の《忘れえぬ女(ひと)》。描かれているのは、鑑賞者を見下ろす姿がなんとも言えない色気を醸し出しているロシア美人です。Bunkamuraのメインチラシにはこの色白美人の隣に「また、お会いできますね。」という言葉が書かれていますが、個人的には
「アンタ、また会いに来たの?」と見下す女王さまに見えて、仕方なかったです。
うっすらピンク色の頬に、スッとした鼻、存在感のある眉毛、小ぶりな唇、なにより一本一本まで丁寧に描かれたまつ毛の下の瞳が、見下ろすというよりかは見下すのような、鋭い眼差しでした。
そんな中にも、「寒くないの? ほら、カラダが冷える前に早くお行き」なんていう優しさも同時に感じたれた、ような……。
まぁ全部私の妄想ですが、想像力をかき立てられるミステリアスな女性です。“北方のモナリザ”と呼ばれるだけはありますね。
この作品が世に出ると、「この女性はいったい誰なんだ!」「誰がモデルなんだ」「きっと画家が理想の女性像を描いたんだ」なんて議論があったとかなかったとか。
中でも作家レフ・トルストイの『アンナ・カレーニナ』の主人公女性がモデルになったのではないかという意見は有名です。貞淑な妻として暮らしていたアンナは若い青年将校と不倫して駆け落ちまでするも、次第に青年将校からの愛を感じられなくなる、という内容(おおざっぱ)。
もしトルストイのアンナ・カレーニナだとすれば、あんなに情熱的だった愛が冷めてしまったのではないかと苦悩している表情なんでしょうね。
またタイトルの《忘れえぬ女》は日本に来日した際に付けられた名前とのこと。本家のロシアタイトル《неизвестная》は直訳すると「未知数」、英タイトルの《The Unknown Woman》は見知らぬ女性という意味です。
未だ遭遇したことがないというニュアンスのロシアや英語のタイトルに対して、あえて「忘れることができない」という心理を盛り込んだ、鑑賞者目線の日本語タイトル。画家の意図からは離れているのでしょうが、ロマンティックな要素があって好きです。
「ロマンティック・ロシア」展には他にも、夜想曲にピッタリのイワン・クラムスコイの《月明かりの夜》や、写実的な心理描写に定評のあるイリヤ・レーピンの肖像画など、19世紀ロシアを代表する画家たちの作品があつめられています。
ただ残念だったのは、タイトルほどロマンティックではなかったということ。
ロマンティック=恋愛的ロマンを勝手にイメージしてしまった私からすると、ロシアの日常や風景を描いた作品群は、少し物足りなく感じました。
でも重厚なタッチと繊細な筆使いで描かれたロシア絵画は、その場の空気感まで閉じ込めたような臨場感のある絵です。
閉幕まで残り少ないですが、渋谷に行った際はお立ち寄りあれ。
Bunkamura30周年記念 国立トレチャコフ美術館所蔵
「ロマンティック・ロシア」
2018/11/23(金・祝)-2019/1/27(日)
公式サイトが混雑状況を公開。来展のご参考に。
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