トロット①【私が愛する달타령(タルタリョン)】
こんにちは。たまにトロットやポンチャックに関する書き物をするのもいいかな~と思い、これからできるだけ定期的に書いていきたいと思います。
一曲目は、私が大変よく聞く曲、달타령(タルタリョン。日本語に訳すなら「月の歌」とか? でもタリョンと言う言葉をあえて使うなら、もっと民謡っぽく「ソーラン節」とか「ホーハイ節」みたいに「月節」と呼ぶ感じでも良いのかな)についてです。この曲は、とにかくリズムがクセになる。特に사월에 뜨는 달은~ 석가모니 탄생한 날~とかこの部分の迫ってくる感じ……。めちゃくちゃ、たまらないです。何度でも聞いてしまう。
最初、私はポンチャック民謡メドレーの中の一曲として聞きました。第一印象は、あれ、なんだか聞きなれない民謡があるな?という感じ。それもそのはず、この曲は正確には民謡ではありません。「タリョン」という民謡によくある名が付きはするものの、比較的新しい普通の歌謡曲であるからです。1972年に김부자(キムブジャ)さんが歌った楽曲ですね。
この曲の何が良いかというと、韓国という国の文化を愛する人ならたまらない要素が盛りだくさんに詰め込まれているところです。歌詞を和訳して引用してみると、
「月よ月よ 明るい月よ 李白が遊んでいた月よ
一月に浮かぶあの月は 新しい希望を与える月
二月に浮かぶあの月は 浮蟻酒を飲む月
三月に浮かぶ月は 乙女の胸を焦がす月
四月に浮かぶ月は お釈迦様が誕生した日
月よ月よ 明るい月よ 李白が遊んでいた月よ
五月に浮かぶあの月は 端午の節句 昇る月
六月に浮かぶあの月は 流頭名節の餅を食べる月
七月に浮かぶ月は 織姫と織姫が出会う月
八月に浮かぶ月は カンガンスルレ 昇る月
月よ月よ 明るい月よ 李白が遊んでいた月よ
九月に浮かぶあの月は豊年歌を歌う月
十月に浮かぶあの月は障子を塗る月
十一月に浮かぶ月は冬至粥を食べる月
十二月に浮かぶ月はあなた恋しくて昇る月」
という感じになります。韓国の文化が一月から十二月に渡って、歌詞にこれでもかと散りばめられているわけです。これは韓国オタクなら大歓喜する歌でしょう。こんな欲張りてんこ盛りセットを、好きになるな、と言われた方が無理です。もしそんなこと言われたらご飯の前でお座りを命じられたままの可哀想な子犬みたいになりますね。
そしてさらにさらに。この歌は前奏の一番最初に、独特なメロディが奏でられます。このメロディは何か?と言うと、実は朝鮮半島の伝統童謡である「달아달아 밝은 달아」という歌のメロディなんです。韓国語が出来る方であればお気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんが、「달아달아 밝은 달아」って、今回取り上げた曲である달타령(タルタリョン)で何度も繰り返されるフレーズでもあるんですよね。韓国文化が好きな人間を、どこまでも喜ばせる要素……!
(ちなみに話は逸れますが「달아달아 밝은 달아」は替え歌として「새야새야 파랑새야」という甲午農民戦争の際の歌になったりもしています。そちらの方がピンと来る方は多いかも)
歌詞も韓国文化盛りだくさんで、音楽自体も韓国伝統音楽からの引用。この徹底的にオマージュし尽くす姿勢。情報の密度やばくって、こんな贅沢でいいの?って思ってしまいますけど、まあそんな感じでとにかく凄い楽曲だと思います。コース料理で次々と美味しいものが出てくるし、どれもたまらない魅力に溢れている。
そしてこの달타령(タルタリョン)は韓国で発表された曲であるものの、中国の朝鮮族歌手によるカバーも多く、それらもまたとても美しいのです。韓国の原曲や、カバーはどちらかというと力強く歌う方が多いのですが、中国朝鮮族歌手はなんというか……「妖艶」と言えばいいんでしょうか。何か見惚れてしまうような、見ていて頬が紅潮するような……そんな印象を強く持っています。
もちろん、韓国での演奏も大好きなんですけどね! ただ、同じ달타령(タルタリョン)であるものの、別ジャンルの香りを纏っている気がします。聞き比べるのも楽しいので、是非皆さんも聞き比べてみてください!
こちらが原曲歌手김부자(キムブジャ)さんの歌唱。
こちらが延辺朝鮮族歌手한국화(ハングクファ)さんの歌唱。
韓国文化をこれでもかと詰め込んだ달타령(タルタリョン)という楽曲。でも、さっと歌詞に目を通しただけでは分からないことはいっぱいあります。これを書いている私だって、달타령(タルタリョン)で触れられている韓国文化を、一つ残らず丁寧に説明できるかと言えば、そんなことは全くできないです。いや、正しくは「自分の言葉で丁寧に説明できる韓国文化はまだまだ一つも無い」という方が私にとっては正解に近いです。分からないことの方があまりにも多すぎるのです。
でも文化に触れれば触れる程、分からないことが増えていくの、楽しいですよね。知りたいと渇望する気持ちも底から溢れてきて、それを満たす過程も愛おしくて、楽しい。
そして掛値なくそういう瞬間が私は幸せだと感じています。これこそが何かに傾倒するオタクやマニアの本質ではないでしょうか。
そんなことを考えながら、今日もまたトロットだとかポンチャックだとか、私が愛して止まない音楽たちを聴いています。
今までただ私の中で存在するだけだった感動を、このブログで少しでも他の人に伝えることができるように、これから頑張って更新をしますね。
一人語りにお付き合いいただき、ありがとうございます。皆さんにとっての「韓国文化が好きだな~」という気持ちも、深まったらいいなと思いつつ。