第3回 入院治療の事を書こうと思ったが・・・
実際のところ、小脳梗塞を起こしてから入院にこぎつけるまでに4日間もかかってしまった。実はこの部分がとても面白いのだが、面白い事を書き続けていたらいつまで経っても『高次脳機能障害』の事を書くことが出来なくなりそうなので、少々割愛したい。
この入院までと治療の過程は、卒中を起こして緊急事態になった時に参考になることが幾つか含まれていると思うので、機会を見付けて書ければと思う。
とりあえず、軽く入院までの経過を書く。
MRIを撮って、その診断は、
「ちっちゃな脳梗塞はいくつかあるけど、加齢のものだから気にすることはないな」だった。それにしても、ざっと見ただけで5個はあったけど、それも普通なんだろうか?
実は、吐き気止めを貰って病院から帰るとき、真っすぐ歩いているつもりなのに右45度の方向へ、斜め斜めに歩いてしまうようになっていた。私は道の左を歩いていたので、後ろからビュンビュンを通り過ぎていく車道の方へヨロヨロと歩いて行ってしまうのだ。私の奇行に嫁さんが驚いて、
「なにやってるの?」
と言って、私の左腕を引っ張って車に跳ねられないようにしてくれた。この時私は、『これは・・・脳をやられてるかも知れない。なんか爺ちゃんがこんな風になってた気がする』と思っていた。
しかし、本当の恐怖はこれではなかった。日暮れの太陽と共に、私の体調もゆっくりと闇の中に引きずり込まれていったのだった・・・とサスペンス風に盛り上げてみる!
洗面器
その夜、私に何が起こったかと言うと、本当は皆さんには話したくはない。
それはなぜか!?
想像がつくかも知れないが便意のことだからだ。大便は、病院から帰ってから直ぐに済ませた。そして、その後は口に入れるものは水であろうと、固形物であろうと全て吐いて胃袋より先には行かなくなっていた。多分脱水状態にもなっていたと思う。後でお医者さんに聞いたところによると、『脱水になった方が尿は多く出るようになる』と言うことだった。
そう!私は何度も尿意に襲われた。
しかし、布団に寝ていても家と言うか世界と言うか・・・とにかく自分も周囲も回りつづけているので、トイレに立つことも出来ない。立つというか、起き上がることも出来ず、足元の本棚に寄りかかって、やる気のない猿のようになんとか座ることしかできなかった。
「頼む・・・洗面器を持って来てくれ」
と、当然尿瓶なんて気の利いたものがないので、嫁さんに風呂場から洗面器を持って来てもらった。ここからが、今思い出しても本当に情けない。 私は、洗面器を布団の真ん中に置いて、パンツを下ろし、四つん這いになって私のJr.が洗面器の真上に位置するようにして・・・致したのだった!何度も、何度も。
『これは、ダメだ!』
と思い、その悪夢の一夜をなんとかやり過ごして、朝陽を待ってかかりつけの病院に行った。
そこで症状を話したら、やはり脳卒中を疑ったらしく卒中を診断するための簡単な身体テストをやった。『これで、なんか診断して貰えるだろう』と密かに喜んでいたのだが、私はその身体テストを“パス”してしまった。
私の運動神経は子供のころから、そこそこ立派だったのだ・・・残念なことに・・・。
救急車を呼ぶのだ!!
なぜ、こんなに詳しく経過を書いたかと言うと、私はここから3日間、つまり倒れてから合計4日間放置されてしまったのだ。この放置期間が無ければ、後遺症もこんなに厄介にならなかったと思うからだ。
目眩がして、真っすぐ歩けなくて、言葉が不自由になって、物が2重に見えて、吐いて・・・と言う症状のいくつかがが出たら《病院に行く》のではなく《救急車》を呼ぶこと。救急車を呼ばないと外来受付になるので、死にそうだろうがなんだろうが順番待ちにされてしまうのだ。そして、これも後で聞いた話だが、脳梗塞は発症から45分以内に治療に入ることが出来たら、場合によるがほとんど後遺症が起きずに済むこともあるそうだ(全員が助かり、全員が後遺症無しになるわけではないと思うので、そこのところは了解願いたい)。
どちらにしても、脳がやられた時の目眩や吐き気は尋常じゃないので、自分の異常は分かる人が多いんじゃないかと思う。
私の頭の中で何が起こっていたのかは分からないが、血管が詰まって小脳、その他の脳の部位に血液が通っていない状態が4日は続いたわけだ。そして、それが《高次脳機能障害》の引き金になったのだと思う。
高次脳機能障害で、人によってはいろいろな事を感じているが言葉にできないこともある。
自分がやってきた仕事の事を理解してるのに、なぜかミスを繰り返してしまうこともある。
アイデアを思いついても、それを説明してるうちに忘れてしまうこともある。
毎日通っていた道で、突然自分のいる場所が分からなくなることもある。
たった今持っていた物をなくしてしまう。そして失くしたことさえも忘れてしまうことある。
高次脳機能障害は、これらの事が一つだけ起こるのではなく同時にこれらの複数の不具合が現れたり、調子が良いときにはある程度普通に受け答えできたりもする。でも治ってはいない。
私は、こうやって自分の感じた事を文章にできる力が残っている。今でも本当にラッキーだったと思ている。
なんとか、高次脳機能障害のことを少しでも伝えられたらと毎日おもっている。
続きはまた今度!