
シカゴからポートランドへ。Amtrak46時間の旅。【Day 1】
こんなにも自由を抱擁した旅はあっただろうか。
2024年の年末に私は念願だったシカゴからポートランドへの2日間にわたるAmtrak旅を決行した。Amtrakとはアメリカを横断縦断する長距離列車で、地理的にアメリカの中心部にあるシカゴからは沢山の路線が走っている。
SNSで時折Amtrakでアメリカを旅する様子が流れてきた。アメリカは広い。だからどの映像でも景色が変わる様がシェアされ、「これやってみたいなぁ」と在米生活が始まってから思っていた。
今回、冬休みという時間を利用してこの長年の夢を叶えることにした。本当は景色が大きく変わる人気路線、ロサンゼルスまたはサンフランシスコ行きに乗りたかったのだが、どうしてもポートランドに行きたかったためそちらを選択した。ずっと北を走る路線なので、ずっと寒そうな似たような景色が続くのかなと思い大きな期待はしていなかったが、それはまぁ全くの間違いだった。
Day 1:
列車は定刻通り、12月23日の15時10分に発車した。いよいよ46時間の長旅が始まった。初めはシカゴからミルウォーキーに向けてひたすら北上。以前ミルウォーキーに行こうとしたが、日帰りが難しく断念したため、駅での停車だけとはいえ思わぬ形で街の様子を伺える機会にワクワクした。
道中車掌さん(正確には違うかな)が行き先を聞いて座席頭上にタグをつけてくれた。このあと満席になるから一人一席でと繰り返しアナウンスされ、最後まで満席または隣がいる状態だったらどうしようと心配になった。
ミルウォーキーに着き、若い女性が隣に座った。どんな人か少し不安だったけれど、彼女は慣れた手つきで座席を倒し、携帯の充電を始め、ご飯を食べたと思えば、アイマスクをして寝てしまった。普通の人で安心すると同時に、私はソワソワしていた。乗車してから1〜2時間、私はリクライニングの方法がわからなかった。正確には1回いろんなところを触っていたら座席が倒れたのだが、それをどうやったのか分からずに過ごしていた。なので彼女に無性に話しかけたかった。でも彼女は寝ている。どうしよう。起きないかな。声かけたいな。ソワソワしていたら彼女が起きた。でもソワソワは治らない。そうしたらまた彼女は寝てしまった。どうしよう。起きないかな。声かけたいな。この間私の背筋はほぼ90度。そろそろ疲れてきた。「次起きたら聞こう!」私は自分に約束した。
自分もうとうとしてしまい、気づいてふと隣を見ると例のお姉さんがスマホをいじっている。「今だ!」と思い声をかけた。
「すみません。1つ質問で、どうやって椅子を倒すんですか?」
「このレバーを下げて、そうそう。あ、硬いから気をつけてね」
「できました!ありがとう。ちなみにこれは何?」
「それはね、足の部分をげてフラットにできるの」
「本当だ、便利だね。快適になった!私、ポートランドまで行くんだけど、Amtrakは初めてで、これを知らなかったら地獄の2日間だった笑」
「ポートランドまで?!私はセントポールまで。大学から実家に帰るときはよくAmtrakに乗るから慣れてるんだ」
「そうなんだ。何年生?何を勉強しているの?」
「4年生。映像だよ。あなたは?」
「私は3年生。経済学とコミュニケーション」
「いいコンボだね。いい旅になるといいね」
「ありがとう!」
そう会話して、また各々の時間に戻った。
数時間後、彼女が突然話しかけてきた。
「今からすごく変な質問をするけれど」
「うん」
「このハンバーガーいらない?二つ買ったけれど余ってしまって。よかったら食べない?」
「いいの?ご飯が心配だったから、助かる!ありがとう」
「よかった!」
「ところでどこかで水が買えたり、汲めたりしないかな?」
「あ、多分ね、、ちょっとおいで」
「OK」
「ここで水汲めるよ」
「本当だ、ありがとう!!あなたが隣に座ってよかった」
「ふふふ、よかった。もう少しで私は降りるけれど、楽しんでね!」
そして電車はセントポールに着き、彼女とお別れした。
同じ大学にいたら私は彼女と話すことがあっただろうか。私の大学は小さくて、クラスメイトと話そうと思えばいつでも話せる。だけど相手がアメリカ人だと思うといつも少し萎縮して、なかなか話せない。Amtrakで話した彼女はすごく優しくて、私のゆっくりな英語を全く急かさず、丁寧に話してくれた。
見知らぬ人と話す。一人旅のどうしても乗り越えなきゃいけないタスクであり、最高の醍醐味だと思う。彼女と出会い、助けてもらい、旅の問題が解決しただけじゃない。他言語で話すことも少し楽になった。「来学期はもっといろんな人と話したい」と思った。
そう思いながら私は眠りについた。