【コロナで脱資本主義】エピソード3 なぜ、彼はパンと帽子の交換を拒否したのか?(4)
エピソード3
なぜ、彼はパンと帽子の交換を拒否したのか?(4)
さて、三年間、一日も休まずに勉強を頑張ったあゆみさんと來未さん。ここでは、三つの仮定しよう。
一つは、英語もフランス語も言語としての難易度はまったく同じとする。
一つは、二人の外国語の習得能力はまったく同じとする。
一つは、二人の学習方法に優劣はない。
こう仮定すれば、あゆみさんの英語の能力と、來未さんのフランス語の能力は同等である。なぜなら、二人が投下した勉強の「量」が同じだからだ。
では、それを踏まえて、ここで、労働の場合と外国語の勉強の場合を比較してみよう。
また、もう一つ、労働の場合と外国語の勉強の場合について次の比較もしておこう。
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「どうですか? ここまでくれば、私がこのページで例の『胸やけのする』フレーズを持ち出した理由がわかったんじゃないですか?」
ボクたちは二人とも無言だった。もっとも、同じリアクションではあるが、ボクとエリカの「無言」は、少し意味が異なっていた。
どうやら、エリカは完全に理解したようだ。だが、一方のボクは、「多分、理解できたかな……」というレベルだった。
そして、ボクの心中はどうやらマルクんにはお見通しのようであった。
「では、もう少し補足しましょう。もう一度、あゆみさんと來未さんの話に戻りますよ。
さて、あゆみさんの英語の能力。かたや、來未さんのフランス語の能力。両者は等しい上に、二人が話せる外国語は異なっていますね。ならば、二人の能力が交換できればいいのですが、多喜二くん、そんなことは可能でしょうか?」
「もちろん不可能ですよ。だって、能力は脳内や肉体内に留まっていて、外界には存在していませんから」
「エクセレント! 大正解です。補足の必要もありません。ちなみに、経済学の世界では、そうしたモノは『商品』とは呼びません。
あゆみさんが來未さんのために英語で通訳してくれた。
そのお礼に、來未さんはあゆみさんのためにフランス語で通訳してあげた。
こうして、能力がアウトプットされれば、たとえそれが目にみえる形の生産物ではなくても交換は成立します。ちなみに、このような商品を、私たちは普段、『サービス』と呼んでいます」
「要は、エステとか、マッサージみたいな商売ね」とエリカ。
「ワンダフル!」
マルクんはかなり嬉しそうだ。ここはボクも負けてはいられない。
「サービスという商品か。じゃあ、キャバクラやソープランドもそうだね」
「スパシーバ!」
おい、マルクん。それ、ロシア語で「ありがとう」だろ。
ボクは突っ込もうと腰を浮かせたが、それより早く、エリカのビンタを喰らっていた。
「いずれにせよ、これまでの説明から、次のように言えることは理解できますね?」
そして、マルクんは黒板に次のように書いた。
―― 「商品」とは、「価値」と「使用目的(種類)」を持ち、かつ、交換の対象となるモノ ――
ボクも、この一文には大納得だ。
「では、この資本主義経済の基礎中の基礎となる真理を学んだところで、もう一度、このページのあのフレーズを思い起こしてみましょう」
―― 交換とは、異なる使用目的を持つ同価値の商品間においてのみ成立しうる経済行為である ――
異なる使用目的。これは、パンと帽子では使用目的(種類)が違ったから、ブルーノとテイラーは交換ができた、ということだな。同じ種類のものを交換しても意味がないもんな。
そして、同価値。これは、ブルーノもテイラーも、労働時間が同じ一日だったから交換できたわけだ。ちなみに、二回目は、ブルーノはテイラーの三倍働いていたために、交換は成立しなかった。
「どうですか? ちんぷんかんぷんだったこの一文が、なにか、もう頬ずりしたいくらいにかわいいものに思えませんか?」
「別に、頬ずりなんてしたくないわ」とエリカ。
「それに、かわいくもないよ」とボク。
しかし、ボクたちは異口同音に声を発した。
「でも、完璧に理解できました!」
ボクたちの笑顔を見て、マルクんも相好を崩した。
「サランヘヨ!」
それは「愛してる」だろ……。韓国語だよ、マルクん……。
「では、今日はここまでにしましょう」
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【エピソード3のまとめ】
●労働には二面性がある。
一つは、労働の「量」であり、これを「頭脳肉体労働」と呼ぶ。
もう一つは、労働の「質」であり、これを「労働の種類」と呼ぶ。
●「頭脳肉体労働」の量(労働時間)は、商品の「価値」として表される。
⇒ 商品には、「労働時間」が内在している。
●「労働の種類」は、商品の「使用目的(種類)」として表される。
⇒ 商品には、「労働の種類」が内在している。
●商品の「価値」(費やした労働時間)が同じならば、両者を公平に交換することができる。
しかし、この場合、商品の「使用目的(種類)」(投下された労働の種類)が同じであったら交換する意味がない。
すなわち、使用目的(種類)が異なって、かつ、価値が同じならば、商品同士の交換が成立する。
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