【コロナで脱資本主義】エピソード3 なぜ、彼はパンと帽子の交換を拒否したのか?(2)
エピソード3
なぜ、彼はパンと帽子の交換を拒否したのか?(2)
今度は、二人のアメリカ人にご登場願おう。
一人は、パンを焼くのが仕事の「ブルーノ」という男性。
もう一人は、帽子を編むのが仕事の「テイラー」という女性。
ある日、ブルーノは焼き上げたパンを片手に公園に向かった。時を同じくして、テイラーも編み上げた純白の帽子を片手に公園に向かう。バッタリ出くわした二人はベンチで会話を交わす。
「やあ、テイラー。君の編んだ帽子、素敵だね。肌理(きめ)の細かさなんて、まるで君の白い肌のようじゃないか」
「まあ、ブルーノったら。でも、あなたの焼いたパンも美味しそうね。サーファーのあなたらしく、こんがりと焼けているわ」
ブルーノに悟られないように、こっそりと自分の二の腕を見て、その白い肌にご満悦のテイラー。もっとも、ブルーノが気付くはずはない。彼もそのとき、テイラーに悟られないように、こっそりと自分の二の腕を見て、その小麦色に自己陶酔していたのだから。
ひとしきり満足すると、ブルーノが尋ねた。
「その帽子、編むのにどれくらいかかったの?」
「丸一日よ」
「それは偶然だ。ボクも丸一日かけてこのパンを焼いたんだ。そうだ、テイラー。だったら、君の帽子とボクのパンを交換しないかい?」
「それはいい提案ね!」
こうして、二人はパンと帽子を交換した。テイラーが、美味しそうにパンをほおばりながら笑みを浮かべる。
「その帽子、まるであなたのためにこの世に存在しているかのようだわ。凄くお似合いよ、ブルーノ!」
数日後、ブルーノはまたパンを焼いた。今度は、三日もかけた最高の自信作だ。
テイラーもまた、いつものように一日で帽子を編んだ。ただし、前回とは色違い。まばゆいばかりの真っ赤な帽子だ。
再び、二人は公園で出会う。
「ブルーノ、そのパン、美味しそうね。先日のパンよりも美味しそうだわ」
「それはそうさ、テイラー。だって、前のパンよりも三倍も手間ひまかけているんだぜ。それよりも、君のその帽子も相変わらず素敵じゃないか。今度は何日かけて作ったんだい?」
「いつもどおり一日よ。それよりも、ブルーノ。あなたのパンと私の帽子、交換してくれないかしら?」
そう言って、テイラーはブルーノに微笑みかけた。
「交換? ……。テイラー、確かにきみは魅力的な女性だ。思わず、その青い瞳に吸い込まれそうになる。だけど、それとこれとは話は別さ。その取り引きには応じられないよ」
予期せぬセリフを聞いて、テイラーは怪訝な表情を見せた。
「どうして? ひょっとして赤はお嫌いかしら?」
「い、いや。色の問題じゃないんだ。きみのその提案には問題がある……」
ブルーノが口ごもる。その様子を見てテイラーは切れた。
「まあ! 女の私に恥をかかせて! 許せない。もう結構よ。さようなら。あなたの今後の活躍を願ってるわ!」
テイラーは、色白の顔を編み上げたばかりの帽子のように真っ赤に上気させて、ベンチから足早に立ち去った。
その後姿を見送りながら、ブルーノが肩をすぼめて呟く。
「オー、マイ、ガッ!」
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