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エッセイ『Nirvana』


 妻に連れられるがままに鎌倉にある「匂い」を作る店に行った。何十というサンプルをひたすら嗅いで、気に入ったものを組み合わせて「匂い」を作る。途中何度かなんの匂いを嗅いでいるのかわからなくなると、店員から外の空気を吸ってきてくださいと言われる。
 私の選んだ3つのサンプルを見て、右腕に南国テイストの派手なタトゥーを入れた店員のお姉さんに「お兄さんは全部森系ですね」と言われた。どうやら私の選択は森系に偏っていたらしい。聞いたことのないジャンルだなと思いながら、森系の3種類のフレーバーを混ぜる様を見守る。調合されたものをもう一度嗅ぐ。もう十分いいものになっていたのだが、周りの客は口々に要望を言っていたので、すぐにOKを出すものではないのか、と思い「もう少しパンチが欲しいですね」と答えていた。いらないのに。
 何度かやり取りを重ね、当初よりややスパイシーになったオリジナルの「匂い」が出来上がる。最後に完成品にオリジナルの名前をつけて下さいと言われた。「男性グループで来るとみんな大喜利みたいになるんですよ」とお姉さんから謎の補足もあった。夫婦で来て大喜利するわけ無いだろと思い横を見ると妻はピーチが香る甘いフレーバーに「ハイドランジア(紫陽花)」と名付けていた。それもそれで置きに行きすぎでは、と思う自分もいた。結局私はボケとも真面目とも取れない名前を書いてしまった。ここで勝負できる男になりたい。


『Nirvana』

とてもありがとうございます◎◎