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僕が宇宙の研究者に至るまで
僕は現在、研究者/高専教員という職業で、幸運にも学問でご飯を食べられる立場にあります。
しかし、研究者に至るまでというのをあまり語ったことがなかったように思います。
研究業界の先行きが日々取り沙汰されるなか、1人の若手研究者として研究者になったきっかけというか、成り行きを話すのはロールモデルとしてわずかでも意味があると思ってこの文章を書いています。
軽い自己紹介ですが、僕はいま宇宙物理学・天文学という分野の研究をしています。特に、ブラックホールを対象とした研究をしています。
さて。
まず、僕は他の同分野の方々みたいに、
「宇宙の謎を解き明かしたい」
とか、
「小さい頃から星空好きの少年だった」
とか、
「身近に研究者がいた」
とか、研究者を目指す立派な理由は全くありませんでした。何とも恥ずかしい限りですが。
子ども時代の記憶のうち宇宙との関わりがあるものといえば、星のカービィのキーホルダーをつけていた星座早見盤を持っていた(ほとんど使ったことはない)ことと、ホーキング博士の本を読んだ(内容は全く覚えてない)ことくらいですし、好きな図鑑は恐竜と昆虫でしたし、両親は出版関係のサラリーマンと主婦という理系要素すらないごく普通の家庭で親族に研究関係者はゼロ。
特別賢かったかというとそんなこともありません。
小学生までの得意科目は国語と社会(桃太郎電鉄をやりまくっていたので)でした。今となっては理由は思い出せませんが、むしろ算数や理科はとても苦手でした。
中学生になって数学はだいぶマシになりましたが、相変わらず国語が1番の得意科目で、理科は全くできなかったし、正直当時は面白いとも思ったことはありませんでした。
そんなこんなで、中学生くらいまでは、将来の夢とかやりたいことなどもなく、本当に平凡などこにでもいる中学生でした。
しかし高校時代に転機が訪れます。
振り返るとここが研究者になるに至った直接的な原点だと思います(ヒロアカの「:オリジン」みたいでかっこいい)。
当時教わっていた物理の先生が、それはもう楽しそうに物理を語る先生だったんです。
その先生は大学院時代に理論物理(QEDだかQCDだか)を専門とされていたらしく、授業の雑談として時々素粒子やブラックホールの話をしてくれました。
まだ厨二病が残りつつあった当時の僕は、素粒子とかブラックホールという言葉の響きにやられてしまったのです。
だってブラックホールとかなんかかっこよくないですか?
そこから物理を興味を持ち始め、また当時色々な面で学校の先生方にはお世話になっていたこともあり、「仕事で物理を使うなら中高の教員かな、安定してるしな」みたいに深く考えず教員を志し始めます。本当になんとなくです。
とはいえ、高校時代はほぼ部活しかやっていなかったため、進んで科学雑誌やブルーバックスを読んだりとか、大学の物理に触れてみたりとかいうこともほぼありませんでした。
科学オリンピックとかいう存在を知ったのも大学生になってからです。
その後はそのぼんやりした将来像を持って大学に進学したのですが、幸運なことに大学でも良い出会いがありました。
大学でリアルな物理の研究者に教わったことで、物理の魅力というか熱に触れ、自分自身の特性と物理という学問の相性の良さを次第に感じつつありました。
さらに卒業研究や大学生向けの研究インターンなどを通して研究の楽しさを体験して、「研究やってみてもいいかもなぁ」と、ようやくこの段階(大学3,4年)で将来の選択肢として研究者を意識し出すようになりました。
しかし、まだ修士課程に進学した当初は全然教員になるつもりでした。
教員志望の学生が、より深い物理の知識や経験を求めて修士に進学するというよくあるお話です。
ただ、大学院生として研究業界に初めて真面目に片足を突っ込んだことで、より研究をやりたいという気持ちが強くなり…
気付けば博士課程に進学しておりました。
そして気付けば博士号を取り、職業としての研究者になってしまっていました。
でも、博士号を取ったあとは企業に進む道ももちろん真剣に考えましたし、人生の分岐点ではしっかり迷っていることは付け加えさせてください(笑)
ただ、巡り合わせによっては、物理ですらない全く別の道に進んでいた可能性も大いにあると思います。
こうしてみると、「絶対研究者になるぞ!」みたいな強い意志で研究者を目指したのではなく、その時々で自分が面白いと思えることややりたいことをなんとなく続けた結果として、「なんか研究者になっちゃってる…」みたいな感じなのです。
言い方はすごく雑ですが、僕としては成り行きでここまできてしまったという感触なのが正直なところです。
なんとなく「ブラックホールの研究ってかっこよくない?」みたいな感情を高校生のころから持ち続けて、来るところまで来ました。
こういう成り行きなので、良い意味で宇宙やブラックホールそのものにはドライに接しており、特別な感情や思い出深いエピソードなどはありません。
もちろん宇宙やブラックホールは好きですが、僕にとっては物理現象という側面が強く、あくまで物理学の応用例として興味があるというわけです。
(これもよくある話ですが、元々が宇宙ファンではないので、宇宙を研究していながら僕は星座とか天体ショーとか宇宙開発の話は全く知らない)
なので、今後僕がずっと研究者でいるかどうかすら、自分でも全く保証ができません。
宇宙の研究より面白いことや優先したいことが見つかったら、迷わずそちらを選ぶと思うからです。
いまのところはまだ研究を楽しめているし、やっぱ好きだなと思うことも多いので、もうしばらくは続けてみるつもりです。
いかがでしょうか?
研究者といっても色んな人がいて、研究者の数だけ色んな至り方や考え方があるはずです。
そのどれもが素晴らしいものだし、それに唯一の正解があるわけでもないはずです。
ただ、中には僕みたいになんとなく今に至っている研究者も少なからずいて、何も特別な人間ではないし職業でもない、学問や研究者が浮世離れした別世界のモノではないんだよというのが、この文章を通して伝わればとても嬉しいです。