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思い出の味
どうやら私は何歳になってもママの子どもらしく、実家に帰るとママはいつも張り切って料理を作ってくれる。
この間はピーマンの肉詰めと鯖の味噌煮が同じ食卓に並んでいた。主菜がセンター争いをしている。
そしてなにかと私の好物を覚えていて、豚肉を細かく切って甘じょっぱく炒めたものや、キャベツを甘じょっぱく炒めたものを、毎回といっていいほど作ってくれる。
アイス大好き星人の私のために、冷蔵庫にアイスの用意も欠かさない。甘いものだけではなくお酒のほろ苦さも知ってしまった24歳のために、お酒のストックもばっちりだ。
今も昔も、ママは手の込んだ料理を作り続けてくれたのに、子供の頃の思い出の料理を聞かれたら、へんてこなものばかり答えてしまうのは不思議なものだ。
まず、かっけ。大根やネギなどはいれず、かっけだけをさっと茹で、ネギ味噌をつけて食べる。
子どもの頃から私はミーハーから外れることがかっこいいと思っていたので、好きな野菜と聞かれたらドヤ顔で「ネギ」と答えていた。
トマトも同じくらい好きだったけれど、トマトと答えたら負けだと思っていた。そしてなんだかんだ、野菜界の一位はネギから変わることはなく今に至る。
あと思い出すのは、味のない焼きそば。色のついていない焼きそばと、ソース、しょうゆ、タレが食卓に並ぶ。麺に、おのおの好きな調味料をかけて食べる。私はこれが大好きだった。
自分で味を選んでいいという体験は、もしかしたら料理の楽しさを知るはじめの一歩だったのかもしれない。
また、敢えてなにも調味料をかけずに食べるのも、なかなか美味しかった。
ちなみにママは、ラーメンの麺だけをお米の上に乗せて、一緒にして食べるのが好きだった。真似をするとこれまた美味しかった。
ママの料理で思い出すのは、毎日の食卓というよりは、夏休みの昼間に食べるような、簡単な料理ばかりだ。
私は失礼な子どもかもしれない。でもそれは逆にいえば、手の込んだ料理があまりに日常だったからだと思う。
自分で料理をする歳になったけれど、私は一汁一菜がやっと。改めてママはすごいな、と尊敬の念が止まらない。