シェア・タクシーの割り勘定
私、2015年の夏休みに中国・四川省の 九寨溝 と 黄龍 に観光に行ってきました。そのときの実話をもとにしたゲーム理論系の問題です。答えを3通り出してください。
その直後、その年の秋のシルバー・ウィークが5連休になったので、今度は同じく中国・四川省の 稲城・亜丁 に行って、そこでも似たような問題に出くわしました。いずれも「シェア・タクシーの運賃をどう割り振るか?」という問題です。
1つか2つまでは答えがすぐに出るでしょう。でも、そこからが面白いのです。さらにあと1つ、2つをひねり出そうとするところから頭がよく廻り始めます。
問題編
私、2015年の夏休みに中国の 九寨溝 と 黄龍 に観光に行ってきました。一人旅です。そのときの実話をもとにした【問題】です。
みなさんが考えている間に、補足説明しましょう。
中国四川省の標高3000mの山の中に九寨溝という観光地があります。そしてその近くに黄龍という、もう一つの観光ポイントがあります。近いと言っても車で3時間の距離ですが。
多くの旅行者は九寨溝の方に滞在します。そこはホテルがたくさん立ち並んでいて、ちょっとした街になっています。そして、九寨溝から日帰りで黄龍に出掛けます。一方、黄龍にホテルは少ない。すなわち、九寨溝がよりメジャーで、黄龍はいわばおまけのような存在になっているということです。
でも私は黄龍の方により魅力を感じましたし、九寨溝からの日帰り客が少ない朝夕の時間帯を狙って、黄龍のホテルに泊まることにしたわけです。北京からの2人組も同じように考えたのかもしれません。
そういう状況ですから、九寨黄龍空港に降り立った観光客のほとんどは九寨溝に向かうわけです。九寨溝方面にはバスも出ています。ところが、マイナーな選択をした私たちは移動手段でちょっと苦労したわけです。
上の【問題】、ゲーム理論 系の問題です。ゲーム理論は社会学(経済・政治・法律など)を学ぶ学生にとっては必須項目ですね。進化論や情報ネットワーク論で使うこともあるそうです。私はタクシーの中で上の問題を実際に考えていました。
ちなみにゲーム理論のことを中国語では「博奕论」といいます。中国語の「论」は「論」の簡略体です。また、かつての日本では「博打」のことを「博奕」と書くこともあったそうです。ということは、中国語の「博奕论」は、要するに「博打論」ということになります。
「博打論」というとなんだか「賭け事必勝法」とか「いかさまの手口、教えます」みたいないかがわしさが漂います。でも、「ゲーム理論」といったところで「コンピュータ・ゲームの攻略法」みたいなものを想像する人も多いでしょう。そう考えると、「博打論」より「ゲーム理論」の方がマシだとも言い切れません。「ゲーム」というときの楽しいイメージより、「博打」の真剣勝負のイメージの方がぴったりのような気もします。
ところで、実際に私がいくら支払ったのかというと、○○○元を北京組の彼らに手渡して「後はよろしく」と。彼らはそれで納得してくれたようでしたが、それが唯一の答えではありません。他にも合理的な答えが複数あります。というわけで、3通り示してください。
あっそうそう、3つと言わず、4つでも5つでもいいですよ。私は3つしか思いつかなかったわけですが、私が思いつかなった答え、大歓迎です。
解答編
では、答えを示しましょう。
これがもっともシンプルな答えでしょう。でも、合理的な負担額は他にもあります。
あと1つは難しいかもしれませんね。でも、なんとかひねり出してください。
以上3つの場合を比べてみると、私の負担が一番小さいのは《解答1》ですね。反対に私の負担が一番大きいのは《解答3》です。この場合ですと、おそらくもっともシンプルな《解答1》に落ち着くのではないでしょうか。でも、他のやり方もあるのです。北京組の2人はそのことに気づいていたのでしょうか?
ここで白状します。実際の経験をもとに【問題】を作ってみましたが、実は数字を少々調整しました。旅行情報として不正確ではいけないので、正しい数字を出しましょう。
空港から黄龍までのタクシー代は「昼間260元、夜間400元」です。これが2015年8月時点の公定料金です。タクシー乗り場の看板にもそう書いてありましたから、ボラれたとかそういうことではありません。
私たちが九寨黄龍空港に着いたのは夕方で、夜間料金の時間帯でした。それからタクシーで黄龍に向かうと、運転手は夜道を帰ることになりますから、まぁ妥当なところでしょう。
こうして3人で400元を負担することになって、その額は 3 で割り切れませんし、シェアするメリットが最も大きいのは私でしたから、切りのいいところで結局私は150元払いました。残り250元を北京組の2人で割れば125元ずつになります。いい線なんじゃないかと私は思っていますが、いかがでしょうか。
では、追加でもう1つ【問題】をいきましょう。
1つ目の問題には複数の答えがありましたが、この2つ目の問題にはもっとたくさんの答えがありそうです。1問目も2問目も1つか2つまでは答えがすぐに出るでしょう。でも、そこからが面白い。さらにあと1つ、2つをひねり出そうとするところから頭がよく廻り始めます。
「教訓」なんて言葉を使っちゃいましたが、気楽に考えてください。1問目に取り組んでみて、気づいたこと、考えたことなどあったのではないでしょうか。そういうものを言葉にして、気の利いたフレーズを作ってくれればOKです。
あるいは《答え》のような見方が役立つ場面を想定しませんでしたか。そういうものがあれば、斬新な見方を披露していただいてもかまいません。3つと言わず、4つでも5つでも、どんどん書き出してみれば思考は広がります。
考察編
上で次の【問題】を出しました。
その《答え》はすでに書いたように次の3つです。
そしてさらにもう1つ【問題】を出しました。
ここで、ちょっとおしゃべりをしましょう。(こうしてまたいつものように答えを引っ張るわけですが)
中国の通貨単位は「元」ということになっていますが、中国の紙幣には「圓」と書いてあります。「圓」は「円」の旧字体です。またその発音は「イェン」です。つまり、「円」なのです。
東アジア各国の通貨について、表にまとめてみました。
台湾の紙幣にも「圓」と書いてあります。香港の紙幣は発行銀行によって「圓」か「元」のどちらかです。韓国では漢字の使用をやめましたので現在の紙幣にはハングルと英語しか書いてありませんが、ウォンを漢字で書くとやっぱり「圓」です。ベトナムも今では漢字を使っていませんが、「ドン」という音も「エン」または「イェン」と似ています。
ちなみに他の近隣の国々は違いますよ。モンゴルはトゥグルグ、ミャンマーはチャット、タイはバーツ、ラオスはキープ、カンボジアはリエルですから、音からしてまるで違います。
こうして見ると、東アジア一帯の通貨は「円」も「元」も「ウォン」も「ドン」も、要するに全部「円」なのです。1つの文化圏なんだなぁと思う。「円文化圏」です。
さて、2つ目の【問題】に戻りましょう。「1つ目の【問題】ならびに《答え》からどんな教訓を得るか?」、思いつくままにどんどん書いてみます。
こんなんでどうでしょ?
稲城亜丁編
稲城亜丁空港から 亜丁風景区 の入口までのタクシー運賃は400元(1元≒20円)です。8月に九寨黄龍空港から黄龍に向かったときはタクシーをシェアする人を探すのに少し苦労しましたが、稲城亜丁空港から亜丁風景区に向かう人は多いので苦労はありませんでした。むしろタクシーの運転手が「1人100元だよ」と自ら進んで4人の乗客を集めますから、こちらは言われるままについていけばシェア・タクシーが実現します。
ところで、以前の記事「シェア・タクシーの運賃をどう割り振るか?」で「一人旅の私と北京から来た2人組の3人でタクシー代300元を支払うときの各人の支払額」について、私は3通りの答えを示しました。
さて今回集まった4人は、一人旅の私と別の一人旅の人とカップル1組の合わせて4人でした。運転手が言う通り1人100元ずつ支払ったのですが、それは上の《解答1》にあたります。他の解答例だとどうなるでしょうか。
まず《解答2》の場合、400元は3で割れないので端数はカップルに負担させるとして、そうすると一人旅の2人は133元ずつ、カップルは1人67元となります。
次に《解答3》の場合、タクシーをシェアしないで3台のタクシーに乗ったとすると、一人旅の2人は400元ずつ、カップルは1人あたり200元かかります。この4人が1台のタクシーに乗ることでタクシー2台分=800元浮いたわけですが、その浮いた額を4人で均等に200元ずつ分けると、結果的に一人旅の2人が200元ずつ支払い、カップルの負担額はゼロになります。
でもそうなると、その話に私は乗りません。もう1人の一人旅の人と2人でシェアした方が良いからです。そう考えると《解答3》は合理的な解決策とは言えないのかなぁという気がしなくもありません。でも、考え方の一つとしてはアリなような気もします。
まぁ何はともあれ、ここではたくさんの案を出しましょう。そのうちどれを選ぶかは、後で考えれば良いことですから。
◇ ◇ ◇
〜 数学目線で社会を見る 〜
▷ 投票のパラドックス
▷ 信用創造という名の錬金術
▷ シェア・タクシーの割り勘定
〜 チベットの風 〜
▷ ラダック (北インド) ┌ 九寨溝・黄龍(中国・四川省)
▷ チャイナ・アルプス ▷ + 稲城・亜丁 (中国・四川省)
▷ シェア・タクシーの割り勘定 └ 香格裏拉 (中国・雲南省)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?