なんか映画みよ。
自分がどんなメンタルの時でも観ることが出来る映画をいくつか持っておくといい、と私は思う。
疲れていても誰かを感じていたい日に、人の気配のするBGMになってくれる。
私のお気に入りの映画は、BGMが主体なのか、キャストが主体なのか、情景か、ほどアドリブか、かねがねそういったものを好む傾向にある。
エモい、という言葉が現れてから、ああ、これが私にとっての〝エモ〟なのか、と思っている。
昔の恋人と、初めて会った日にしたこと。
池袋のメトロポリタンでの映画鑑賞。
池袋もメトロポリタンもなんじゃそりゃ、ナポリタンか?状態だった私は、全てわかります、というように装いイイねと返事をし(当時イイね的なものが存在していたかうろ覚え)当日を迎えた。
そんな知ったかぶりの自分が提案したのが、宮﨑あおいさん、高良健吾さんらが出演している『ソラニン』。
浅野いにおさんのことは存じていなかった。
相手の好みもわからないから、本当にあてっずっぽうで学生同士が観そうな映画、を選んだのだと思う。
「いいよ、宮﨑あおい好きだし^^」と返事が来た時、微かに、それ今言わんでも、と思った。
若者のモラトリアム、まさかのメインキャラの死。
結構いいじゃん、なんて思っていた。
映画館から出る。その人の感想は、「うーん。俺にはあんまり、わからなかったかな。」だった。
彼は色んな意味で賢い人で、今となってはそうだよね、あなたにはあまりわからない感情なんだろうな、と特段なんの嫌味でもなく思う。
その後居酒屋に行き、何を喋ったのか全く覚えていない。びっくりするほど覚えていない。覚えているのは、駅のホームで付き合うことが決まったことだけ。
「なんか映画みよ。」
Netflix、U-NEXT、様々なサブスクに手を出し、画面をスクロールしていく。
『ソラニン』が配信されているか、私は検索していない。
その人は私の手を映画中握ろうとはしてこなかったけれど、私の心臓を握り潰す程には魅力的な人だった。
三年ほどお付き合いは続いた。
今でも彼を大切に思い出す。
鮮やかな君の面影を、私はまだ、見失っていない。