研究公演は楽しい
約1年振りに組踊を国立劇場おきなわで聴きに行った。
「1838年の史料に拠る 組踊「大川敵討」-糺しに場より敵討まで-」
普段の公演とは違い、考証に考証を重ね、琉球時代の公演を再現しようと努力の賜物の公演。
その全てを観客である私が把握することはもちろんできないが、その一端は楽しむことはできる。
ステージガイドに拠ると、衣裳、舞台、登退場などにいたるまで、充分な検討を重ね、衣裳や舞台などを製作し、この公演に臨んでいることが伝わってくる。
存じあげない方々もいるが、考証にあたった先生方のお名前を拝見すると、そうそうたる面々である。ページ数に限りあるステージガイドでは、それらに関するカラー写真や図などがないのが残念でならない。
国立劇場おきなわの並々ならない意気込みを感じるこの研究公演だが、空席が目立った。
そのおかげで数日前にチケットを取ることができたのだのだから文句は言えないが。
糺の場の最初の乙樽の「金武節」での登場は、南表から出る型と北表から出る型と、ふたつの型があるとのことだったので、1838年では何れだったと考察したのか、とても興味深かった。
それは会場に入って直ぐにどうかわかったが。
谷茶の座り方にも股を割る座り方と股を締める座り方。(後者は按司は締めるのが心得であると考えられるためだそう)
団扇の持ち方など、この公演ではどのような考察をしたのか、それらを観るのも楽しみのひとつ。
「大川敵討」といえば忘れてはならないのが、「組踊研究 創刊号」の座談会。
残念ながら本公演前に再読する時間を取ることが叶わなかったが、朝薫の頃の組踊より写実的になっているという話が妙に頭に残っていた。
確かに谷茶が乙樽の色仕掛にまんまとはまる様は、現代にもわかりやすく写実的だった。
前置きが大変長くなりました。
最初に舞台芸術監督である金城真次さんを司会に、考証をされている茂木仁史先生と古波蔵ひろみ先生のこの公演の説明がありました。
否が応でもこれから始まる舞台に期待が高まる。
その後、後見が「婦人設計救君討敵」の札を掲げ、拍子木が鳴りました。
今回の配役は納得できる出演者で、安心して鑑賞することができた。
下部に縛られた際の乙樽の唱えの緩急、声のトーンの上げ下げ、その凄さに引き込まれた。
谷茶と満納の緊迫したやりとり、それをとりなす石川。
もちろん、乙樽の女こてい節は秀逸。その踊りの際の谷茶の滑稽な姿。
村原と泊のやりとりも笑いを誘っていた。
原国兄弟の息ピッタリの唱えと動きに、ホーっとため息がでるほど。
村原に再会した際の若按司の喜びの声。
ストーリーもさることながら、立方の皆さまの熱気ある演技に、観客中が目を離せなかったのではないだろうか。
やはり組踊は「踊てぃ戻ら」で終わるのがいいですね。
私は衣裳や小道具について特に詳しくはないので、拝見していても、そういう考察で上演したのかと考える余地はなかったのだが、気になったところをいくつか。
後見のはちまちは赤、衣裳は緑とかなり目をひいた。もしかしたらクリスマスを意識したのかと思うほど。
乙樽の笠の豪奢なこと。今回は2階席に陣取ったので、その豪華さがよくわかった。
乙樽の髪飾りも金キラキンで目をひく。
また、杖が少し長めで、持つ位置も中央よりも少し上と琉球舞踊とは違う印象を受ける。
原国兄弟の赤は別として、泊の足袋だけ茶色でした。他の役とは差別化を図るためでしょうか。
きやうちやこ持ちの髪型もかなりユニーク。かなり高めに結い、一番上はまん丸。間近で見てみたい。そして古波蔵ひろみ先生の説明のあった若按司の板締縮緬の赤。たかさき紅の会の協力なくしては実現できなかったという衣裳の復元を拝見できました。会場には会の代表の吉村晴子さんも観劇にきていたそう。
本公演を聴き終わった今、この研究公演に至るまで、また公演中の様子や関係者の意気込み、公演後に関する感想や今後に向けての課題などの書籍化と映像化を望みます。映像を観ながら書籍と照らし合わせをしたい気持ちだ。
特に1年以上もかけたという衣裳の考証と衣裳製作の様子の映像を見たい。
それに、尚家旧蔵組踊集や校註琉球戯曲集をはじめ今帰仁や八重山、喜舎場など10冊は下るまい本があるはずなので、それらの本をもとにどのように喧々諤々したか知りたい。
全曲を通して上演すると3時間を超えるとされる大作。
第一場は、十曲以上もある地謡の見せ場。
なかなか上演されることはないが、それらも含めて、いつか全曲を聴きたい。
組踊のことを聴いたり、考えたりすることが、こんなに楽しかったのかと、久しぶりに体現することができた公演であった。
いつもと違う経験ができる研究公演は楽しい。