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笑顔の思い出

夕方、近所の青年とエレベーターで鉢合わせになりました。彼はダウン症で会う人すべてに挨拶を欠かさない好青年です。その時、昔の記憶がよみがえりました。
私はとあるホテルで会議に参加していました。休憩時間を部屋で過ごし会議室に戻ろうとエレベーターに乗ると、スポーツウエアを着た背の高いふたりの青年が乗っていました。他には誰もいません。奥の壁を背に立っている人が、私に笑いかけてました。その笑顔があまりに人懐っこく、私は彼に釘付けになりました。「私、この人を知っている?この服装だから、会議の参加者ではないはず。どこで会ったのかしら。あんなにニコニコしているのだから、どっかで会ったんだ。あ~ 失礼をしたくない。誰?誰?」エレベーターは十秒ほどで地階に着き、私たちは互いに目で挨拶をして、彼らは出口に、私は会議室に続く渡り廊下に向かいました。そして「あっ!」と気づいたその瞬間、外から「キャーッ」と黄色い歓声が聞こえたのです。その青年は、サッカー日本代表のゴールキーパー、川口能活選手でした。そのホテルはジュビロ磐田のスポンサー企業の所有だだったのです。
私は地方都市に暮らしているので有名人と会うことなどありません。でも、それが記憶に残っている理由ではありません。川口選手の笑顔は別物でした。旧知の間柄と思わせるような暖かさががあり、しかも上品で紳士的。あのような笑顔を見たことはありません。あれをオーラと呼ぶのでしょうか。先日、引退試合をされたドイツ・フランクフルトの長谷部選手や大リーグの大谷翔平選手の人柄の良さが言及されることがよくあります。NHKの朝ドラ「虎に翼」の主人公のモデル三淵嘉子さんについても、出会った全ての人が一瞬で彼女のことを好きになった、と書かれていました。「虎に翼」では「地獄」を行く覚悟が語られていました。たぶん、人を引き付ける品性は、覚悟を持って不断の努力をした人からのみ匂い立つものなのでしょう。でも「地獄」を通って成功しても、高慢で下品な人もあるはずです。その違いがどこかにある。どこなんだろうと今日はずっと考えています。でも、何はともあれ、川口選手(今はジュビロのコーチをなさっているとか)、素敵な笑顔の思い出をありがとうございました!

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