Get Wild
あれはそう、アスファルト タイヤを切りつけながら、ドライブしていた小春日和の昼下がり。
駅前のアーケード商店街を横切る細い路地を徐行していた僕は、商店街の道端で車が過ぎるのを立ち止まり待っていた1組のカップルが一瞬視界に入り、二度見した。なぜか。
男がシティーハンターの格好をしていたからだ。
僕は爆笑した。
真っ赤な無地のインナーに、初恋よりも淡いブルーのジャケットの袖をたくし上げ、タイトにキメた濃紺のパンツ姿は、どこからどう見ても現代に蘇ったシティーハンター冴羽獠だったからだ。爆笑するしかないだろう。
男が冴羽獠に憧れを持っていることは火を見るより明らかだった。これはコスプレではない。崇拝である。恵まれた体躯かつハンサム。なのに女性にめっぽう弱く、隙あらばモッコリしようとする三枚目。それでもピンチの時は頼りになる街の掃除屋、それが冴羽獠なのだ。かっこいいオトコの要素を欲しいままにする冴羽獠に憧れるなという方が無茶な注文だろう。
ただ残念なことに、その男は冴羽獠とは似ても似つかない頭身で、体型はずんぐりメタボ、頭頂は薄く、甘く見積もっても50歳は超えているであろう年齢なのがうかがえた。裏を返せば、50代だからこそ冴羽獠なのである。ドンピシャ世代だ。
そんな冴えない羽獠の男だったが、隣に佇んでいた女性は、見たところひと回りは年下で、清楚なワンピースを着た美しい淑女であった。
彼らは恋人関係だろうか。もしそうなんだとすれば、部外者が口を挟む余地はない。いつまでもロマンを忘れない少年心を持ったおじさんと、彼氏の趣味嗜好に理解のある若い落ち着いた女性。それこそ世の男たちが羨む理想のカップルである。
しかしだ。もしもこれが、結婚相談所やマッチングアプリで出会った二人で、今日が初めて会う日だったとすればどうだろうか。男の格好を見た女性の心境はどうだろうか。たとえシティーハンターを知らなくても、あのコーディネートだ。
女性からすれば絶望ではないだろうか。
車で一瞬横切っただけではあったが、いま思い返すと、男はやけに意気揚々としていて、女性は目が死んでいたような気もする。
もう一年近く前の話なので、この二人がその後どうなったかは知らないが、願わくは幸せになっていてほしい。獠と香のような悲劇的な別れではなかったことを望む。
ところで、憧れの男性の格好を真似したい気持ちはすごくわかる。かくいう僕も、6代目ジェームズ・ボンドであるダニエル・クレイグに憧れて、彼が『007 スカイフォール』の劇中で着ていたBarbourのジャケットと同じものを持っている。
もっと遡ると、アメリカの男性アイドルグループ、'N SYNCでリードボーカルを務めていたジャスティン・ティンバーレイクのソロデビュー曲『Like I Love You』のMVで彼が着た衣装と同じ格好を高校生の頃していた。そしてその曲のダンスを真似して踊っていたなあ……
おい、恥ずかしい過去を思い出させるな!