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こっちむいて!お願い!

私は関東地方の神社にある撮影現場でアミーゴをしています。

この日は可愛い愛犬を連れたご家族がいらっしゃいました。
私がお声かけする前に「一枚撮って欲しいんですけど」と、お客様の方から撮影のお申込みをいただきました。
40代くらいのご両親と中学生のお嬢様。愛犬はコーギーの男の子。
皆さまにはさっそく所定の位置に立っていただきました。ワンちゃんが日付の看板に隠れてしまうので、お嬢様に抱っこしてもらいます。

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いよいよ撮影開始。
ペット連れのお客様を撮影するにあたり、私たちにはやり遂げたい目標があります。それは「ペットを含めた全員の目線をおさえること」
神社ですので自然界の音ではない鳴り物の使用は禁止されています。ペット用のアイテムが使えないのでなかなか難易度は高いですが、これまでもアミーゴの情熱でなんとかしてきました。

さぁ、私とワンちゃんとの戦いが始まります。

「ワンちゃん以外の皆様はずっとカメラ目線でお願いしますね。それでは目線を取りたいので、愛犬のお名前を教えてもらえますか?」
「きなこです」
「きなこッ! きーなーこッ! 見て! きなこ! 見るのッ! こっち!」

名前を呼んでもワンちゃんは知らんぷり。
手をパンパンと打ち鳴らしても、得意の口笛をピィピィ鳴らしてみても、ワンちゃんは振り向きません。なかなかの頑固者か、それとも…。

(音に興味がないのかも?)

私は急いでワンちゃんに近づき、目の前に黄色い人形を出して上下左右に振ってみました。つぶらな瞳が人形を捉えます。きなこが首をもたげました。

すぐさま私は人形を頭上高く振り回しながらカメラの位置まで全速力で戻ります。きなこォ!きなこォ!と叫びながらカメラの前に到達、急いでご家族の方へ向き直りました。

目線がきてる! みんな笑顔! いまだ!

パシャッ!

ご家族に写真をご覧いただきます。

「ワンちゃんもばっちりカメラ目線ですね!」
私のキメ台詞に「おぉ~」とご家族から歓声が上がりました。
「さすが! 口コミ通り!」と奥様。
「え? 口コミ?」

きょとんとする私に、奥様は教えてくださいました。

それは旅行の行き先をネットで下調べしていた時のこと、次のような書き込みを見つけたそうです。

「この神社では、ワンちゃんとの写真をとても上手に撮ってもらえますよ」

この口コミを見た時、ご家族はちょうど愛犬を連れてのご旅行を考えていたところでした。せっかくならこの神社に寄り道してみんなで撮影してもらおう!という話になり、わざわざ足をお運びいただいたというのです。

ご家族は写真を大変喜んでくださいました。
私はお帰りになるご家族の後ろ姿を見送りながら、まさかネットにそんな口コミがされていたなんてと驚くと同時に、どこか誇らしい気持ちになりました。

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ペットに振り向いてもらうアイテムはいろいろあります。それらを使えない現場だとしても、諦めずに絶対に振り向かせたい。やれることは全力で頑張りたい。そんな情熱がお客様に伝わり、こんなに嬉しい口コミをいただけたのかもしれません。

「なぜそんなにも目線にこだわるのか」と聞かれたことがあります。
それはまず、表情をしっかり捉えられること。横を向いていたのではせっかくの良い表情も半分しか写りません。
そして、目は口ほどにものを言います。視線をカメラに向けることでその時の感情を、想いを、意思を、その眼差しが表現してくれます。写真を見返した時に家族全員の表情が見える、強い結束を感じられる、家族であることをより実感できるそれがカメラ目線だと思うからです。ペットのワンちゃんも人間と同じ家族の一員、だからこそ誰一人欠かさない、家族全員のカメラ目線にこだわりたい。

毎回必ず目線が取れるというわけではありませんが、成功率は高いです。これからも時間の許す限り全力で、目線取りに立ち向かおうと思ったエピソードでした。