アップルから追い出された(2度目)、けれど至高のSNS【ツイッター】を始めて愛しのドナルドと手を組む。やっぱりお前が必要だから戻らないかなんて言われても遅い!最高の仲間(ドナルド、カニエ、シンゾー)と一気に成り上がります。
「スティーブ、キミは残念ながらSteved(アップル社のスラングで『クビ』の意)だ』
首を振りながら、残念そうにティムが告げた。この(自主規制)の(自主規制)野郎はなんなんだ❓まーたどこかで買った(自主規制)にケツでも(自主規制)で、頭がアクメで決まってんじゃねぇのか❓(*ウィキペディア参照)
そう、俺はスティーブ・ジョブズ。世界で一番最大最強のアントレプレナーだ。俺は、アップルを作った。Macintoshを、Toy Storyを、iPodを、そしてiPhoneを作った。我がアップルはいまや、憎き仇敵ビルのファッキンパクリ企業を超え、世界一の時価総額を誇る。
そして俺は病にも打ち勝った。ほとんど確定していた死の運命を分子行動療法❓とかで跳ね除けて、奇跡の生命力で無理やり完治させて表舞台に戻ってきたのだ。俺は、完全無欠、最強の男なのだ。
「なあ、なあジョニー❗️おかしいだろ❓こんな横暴❗️この(自主規制)野郎の妄言だよな❓おい❗️フィル❗️ラリー❗️おい❗️」
なのにコイツらは何故か俺を、俺を、この俺を❗️憐れむように見ている。
「スティーブ」
ラリーが口を開いた。この中でコイツだけが対等に近い。コイツは昔からの悪友で、やってるビジネスと言えばクソッタレのハコモノサーバーのゴミだったけど、それなりにお互い頑張ってきた間柄だった。
「キミはもう、老いすぎたし、時代に合わなくなったんだ。そう、ここから5年くらいは技術の踊り場さ。キミのアイデアが役立つことはもう無いし、それに、キミは悪行を働きすぎた。」
そんな……そんなわけない。ファッキンクールな車を作ってトヨタやクライスラーのクソ不細工な産廃を市場から追い出す計画は❓テレビは❓それに……
「アップル・カーについては真面目に検討した。けど、クルマは僕らが今まで作ってきたプロダクトとは全く違うんだよ、スティーブ。前、アンテナ問題で記者会見する羽目になっただろ❓アレをクルマでやったら、人が死ぬんだ。」
俺の同志というべきジョニーが、今まで見せたことのないような冷徹な目で計画の凍結を告げる。おいジョニー。一緒にiMacに取っ手をつけた時も、iPhoneのデザインを直前でひっくり返したときも、俺たちいつだってノリノリで、楽しくやってきたじゃないか。どうしてそんな顔するんだよ。俺とお前は、同志で、いつだって……
「まあ、直接の原因はキミも分かっているだろう」
一枚のメモ書きが渡される。そう、直近受けたBBCのインタビューで、俺は快気祝いとしてひさびさに使った紙でトリップしていたから、めちゃくちゃなレイシズムとか、セクシズムなことを口走ってしまったんだ。それでメス豚野郎とかクソ団体共から猛抗議が来て、過去のやらかしも今更ほじくり返されたんだ。
それにそこには目の前で悲しげに微笑む(自主規制)野郎のこともあった。覚えてないが、コイツの性事情を面白おかしく語ってやったのが一番不味かったらしい。『アウティング』っていうのになるから抗議は止まらなかったし、今のザマを見るにコイツも内心ブチギレていたようだ。
「この……、この、恩知らずの(自主規制)野郎とクソ(自主規制)の(自主規制)で(自主規制)をこの(自主規制)と舐め合ってこの完全無欠の俺様をまるで使い終わりのティッシュのごとく追い出しやがって❗️だいたいお前らの中の誰が何様のつもりで俺様に物申してやがる❗️俺は、ファッキンIBMとファッキンソフトをブチ殺して今や世界最大最高企業を作って❗️ファッキン病にも打ち勝って❗️お前らみたいな(自主規制)野郎が雁首揃えても達成できないようなことを達成したんだ❗️ゴミムシ共❗️クソハコモノでデカい顔してるゴミムシ❗️模型づくりしか能のないゴミムシ❗️(自主規制)のゴミムシ❗️畜生メェ❗️」
たまらず叫んでしまったが、とうとう場が凍りついてしまった。みな啞のように黙りこくり、時が止まった。
「スティーブ、この取締役会は録音してるんだ。」
ティムが穏やかな苦笑を浮かべながら、結審を告げた。あまりにもいつもの表情すぎて、少し間が抜けてしまった。そして俺はまた、ヒューレットとパッカードが始めたアントレプレナーの螺旋から脱落してしまった。
2014年7月。俺は、無職となった。
○
さすがの俺も堪えた。二度も自分の作った会社から追放を受けるなんて、正直どうかしている。俺は悪かったのだろうか❓とりあえずウォルターが3年くらい前に書いた俺の伝記に目を通してみた。
確かに自分の人生を振り返るとそれはめちゃくちゃだった。読んでいて何度破り捨てたくなったかわからない。俺は、これを読んでいる間ずっとボブを思い浮かべていた。ニューポート・フォーク・フェスティバルで、エレキを片手にロックをかき鳴らすボブ。信じがたい罵声が飛び交うなかでLike a Rolling Stoneを絶唱するのだ。彼はほとんど受難のキリストのようだ。愚か者と罵られながら丘の上を駆けていく、イエス、ガリレオ、ボブ、ジョン、そして俺。俺はZenしか信じないけれど、彼らのようにあり続けようとし続けた俺の人生は、正しい、正しいのだ。読みながらそれを確信できた。うん、いい本だ。
俺は無職の期間、世界中を旅して回った。長い、長い、失われた夏休みだ。ブダペスト、ローマ、トルコ、エジプト、ロシア、ガンダーラ、そして日本。日本ではいつものようにZenの寺に行った後、総理大臣の男と会った。シンゾーだ。シンゾーは一見、人好きのするいい男だった。一瞬、むかし追い出してやったギルを連想させたが、それ以上に抜け目のなさと受難に裏打ちされた強烈な『強さ』があった。俺と同じなのだろう。直感した。シンゾーも多分、そう思っていることだろう。
「日本で起業してくださいよ」
シンゾーは言う。彼はドリーマーだ。そう思った。
「今や30年前と違い、我が国はアメリカの後塵を拝すようになってしまいました。しかし、これを復活させるための種になって欲しいのです。」
心打たれた。余生は日本で暮らすのもいいかもしれないな。そう思った。
○
アメリカに帰ってからは柄にもなくパーティーに出席してみたりもした。こういうことは西海岸のギークたちに囲まれていた頃は避けていたから、単純に居心地が悪かった。嫌な人間も多かった。小児愛を勧めてくるもの。怪しげな政商にでもならないかと誘ってくるもの。色々いた。面白いと思ったのは二人だけだった。
一人がカニエ。彼はまるでジョンのようだった。レイシズムに塗れた発言をしてしまった俺を、他のセレブは遠巻きに避けるのに、彼だけは色眼鏡なく接してきてくれた。
「俺はアンタを尊敬しているんだ。アンタはライフスタイルを定義した。構造を作り出し、真に革命したんだ。」
普段の口調もラッパーみたいなので少し聞き取りにくかったが、そんなことを言っていた気がする。ドリーマーだ。そう思った。まっすぐで、美しい眼をしていた。
もう一人はドナルド。彼は東海岸の低俗さを煮詰めたような下品な男で、会う前から最悪のイメージを持っていた。実際最悪の男だったのだが、彼の時折見せる遠い眼はなんだか父性を感じさせるもので、そのギャップが魅力的だった。
「キミの変な生活はよく分からないが、それがキミの生き方なんだってことは分かる」
違うからこそ惹かれ合うのだろうか。彼とは急速に親交を深めて行った。
「私は、復讐したいんだよ。あの夕食会、皆の前で私を嘲笑ったケニア人の(自主規制)、陰険なババア、あの連中に、必ず一泡吹かせてやる。」
リベンジャーだ。そう思った。俺と同じ、淀んだ眼をしていた。
そうこうしているうちに2014年が暮れていき、俺は1986年以来の手持ち無沙汰な新年を迎えた。
○
2月、ドナルドの所有する保養地に呼ばれた俺はとんでもない計画を打ち明けられた。大統領選に立候補するつもりで、手を貸して欲しいのだと言う。ドナルドはよく選挙に手を挙げていた。けれど、その大半が冗談半分の立候補で、それなりに票を獲得した回もあったけれど、泡沫中の泡沫だったはずだ。それに、俺は政治に興味がない。あのホワイトオフィスの机で盛っていた男がブロードバンド整備を頑張ってくれてからは、ずっと民主党支持でもある。そもそも俺はヒッピーだ。即座に断りを入れた。
ただ、今回の彼は本気の目をしていた。
「まあまあ、そう言わずに聞いてくれ。私はディールの達人さ。アートのセンスはないけどね。そして、キミはアートの王だ。アップルというエコシステムを作り上げて、それはさながらテクノロジーという絵の具によって描かれた芸術のようだ。そんなキミなら、政治を『アート』にすることも出来るんじゃないかと思ってな。アートとディールの交差点、政治とはそう言うものじゃないだろうか❓」
ドナルドはドリーマーだ。そう思った。
「それに、あのクソ(自主規制)には必ず復讐してやりたいんだよ。キミにも、そんな相手はいるだろう❓権力を握れば、やりたい放題さ。」
ドナルドはリベンジャーだ。今まで会ってきた人間のなかで、これほどまでに迸る二面性を持つ者はいなかった。否、ドリーマーだからこそリベンジャーで、リベンジャーだからこそドリーマーなのだろう。そう思った。
「このまま一生、金を腐らせて死んでいくつもりかい❓それとも世界を変えるチャンスをつかみたいかい❓」
決まりだ。俺とドナルドの戦いが始まった。
○
「彼を紹介したいんだけど、いいかい❓クレージーで、スマートで、役立つよ」
俺は去年の『夏休み』でドナルドの次に仲を深めたカニエを紹介した。最近は『イェ』と名乗り始めたらしい。そんなアートなところにも共感が持てた。ヨーコのYESアートみたいだ。レイシストのケがあるのだろうか、ドナルドは少し眉を顰めた。
「現代の世界はそう、ある種の『弱さ』によって支配されているんだ。そう、過去あったように、一体感と、より遠くへ進み進む感じが求められてるんだ。(中略、そのまま15分以上同じ調子で喋り続ける)つまりかつて、イエスの弟子たちがマッチョな伝道を行ったときのようにね、あるいはかつてヒトラーがその思想のもとに国民を動員して遠く遠くまで軍を派遣したときのようにね、あるいはマーティン・ルーサー・キング、スティーブ・ジョブズのようにね。キミもその隊列に加わるんだ。そうさ、『MAKE AMERICA GREAT AGAIN』、こんなスローガンはどうだろう❓」
ドナルドの顔は終始引き攣っていたけど、カニエがドナルドのやりたかったことをMAGAの一言で言い当てると、表情が一変して前のめりになっていた。気に入ったようだ。ドナルド、カニエ、そしてプロデューサーたる俺がいれば怖いものなどない。
ヒューレットとパッカードが始めた隊列から脱落した俺だが、新たにリンカーン、FDR、ケネディの隊列に加わることができるらしい。準備に追われながら、その日を夢想して、眠れない日々を過ごした。
○
「アメリカとメキシコの間に壁を作って不法移民を追い出してやる❗️」
ドナルドは選挙戦の初っ端から妄言をぶち上げた。勝つ気があるのだろうか?CNNから流れてきたニュースで知ったときは胸のなかのもやもやがぶり返してガンを再発したかと思ったほどだ。今度の選挙戦は完全無欠でかつアートで無ければならないのだ。ドナルドの手綱を握らねばならないな。人生で初めて会う自分よりぶっ飛んだ(クレイジーな)男。彼のお守りは大変だけど、やり甲斐がありそうだ。
ドナルドの集会ではいつも、カニエのオシャレなビートが流れていた。前座でカニエがライブなんてするもんだから、黒人の若者も目立つ。レイシストと目されていた俺とドナルドが看板を張っている選挙戦だけど、カニエの影響力は恐ろしいほどだ。俺らはカニエの言われるままにファッションを整えた。彼が俺ら向けに作成したMAGA BOOSTなんかは本当にうっとりするほど美しい出来で、彼がドナルドと俺のために下から上まで設えたスーツの仕立ても最高だった。赤、青、白と原色をところどころあしらっているのに決して上品さを失わない。でありながら、ドナルドが醸し出すべき雄々しさは何倍にも増幅されて伝わってくる。ドナルドなんて、スーツがお披露目された段階からご機嫌だった。
極め付けは、MAGAキャップだ。MAGAキャップは何種類も作成された。カニエは日替わりでキャップを被り変えてパパラッチに撮られるようになり、その度にとてつも無い量の注文が公式サイトに入った。しばらくはサイトの動作が不安定だったほどだ。生産が追いついたのも、大統領選が終わってからの話だった。
俺たち3人は、イロモノ、ゴミ、レイシスト、ナルシスト、下品、◯ね、などなど、クソメディア(クソCNN、カスNYT、ゴミBBC)に事あるごとにこき下ろされていたが、そんなのお構いなしに駆け抜けて行った。
そう。マーケティングの本髄とは、顧客に何が欲しいか聞くことでは無い。顧客が本当は何が欲しいかを見つけてあげることなのだ。今までの政治に足りなかったのは、俺がiPodやiPhoneを生み出した時のようなイノベーションなのだと言える。政治はもう、ブッシュの時代あたりからずっと停滞していた。彼らは民主主義国家の政治家であるにもかかわらず、自分たちの手のひらからこぼれ落ちていく者どもに目を向けなかったのだ。だからこそ、ドナルドがブッシュの愚鈍なガキだか弟だかをコケにしていた様は本当にサイコーで、このとき俺は確信した。
「俺らの勝ちだ」
ドナルドは信じられないほどの圧倒的な勝利を収めて大統領となった。カリフォルニアと東海岸北部の一部州を除くほとんどで記録的な大勝だった。クソメディアのゴミ虫たちは、開票結果を見てパニックに陥っていた。あの陰険女はあまりの大敗に憔悴して首をくくったらしい。議会における民主党の議席も壊滅し、ドナルドの時代がまさに今、始まったのだ。
◯
ドナルドの政権運営は、その華々しい勝利とは裏腹に地味で重苦しいものだった。カニエは教育省、俺は商務省に就いた。そこまでは良かった。俺たちの千年王国が始まると思った。しかし、頭が赤ダニで沸いていると思われるウジ虫の長老どもは、マイク・ペンスだとかいう陰険な男を政権に送り込んできやがったのだ❗️俺の目指したアートみたいな政治はあのゴミのせいでいつも邪魔されて、取り下げられやがる。「現実路線」だとかいう、カビの生えた70年代の論理はお呼びじゃないのだ。俺らの時代のはずなのに、カニエはゴシップメディアとNYTにもう袋叩きで憔悴するばかりで、俺もそんな感じだった。それにドナルドは俺やカニエより、陰険男や、スティーブ・バノンだとかいう陰謀論者のデブの言うことを信じるのだ❗️お前を大統領に押し上げたのは誰だ❓俺と、カニエだろう❓何で、俺らを一瞥するたびにお前は、ティムや、ローレンや、1985年のジョンみたいな、申し訳なさそうな、けれど混じり気のない冷たい笑いを向けてくるんだ❓俺らは、運命共同体じゃなかったのか❓
ある日耐えきれなくなった俺はツイッターに愚痴を書き込んだ。そしたら相変わらずの大炎上だったんだが、今回はそのうえ国家の機密法だかに抵触したらしい。ドナルドが大統領権を振り翳して俺を逮捕しにきた。俺は、VIP専用のブタ箱にぶち込まれてしまった。そう、俺は、三度目の裏切りに遭ってしまったのだ。とうとう自覚した。俺は、そう、誰にも愛されることはないのだ。
『じゃあ、本当のお父さんやお母さんは、あなたをいらないって思ったの❓』
いらなかったんだ。そう、どこまで行ってもボクなんていらなかったんだ。お父さんも、お母さんも、アップルも、iphoneも、ティムも、ジョンも、ローレンも、最後の希望のドナルドですら、ボクを裏切ったんだ。そう思ったらなんだか何かが完全に切れてしまって、3日間泣き続けて、あとの2年は廃人みたいな日々を過ごしていた。
◯
2020年は最悪の年だったらしいけど、ボクは外界から隔離されたブタ箱でごく平穏に過ごしていたから、それを感じることもなかった。平穏で、隅々まで掃除が行き届いたボクだけの王国。ほんとうはこれだけで十分だったんだ。アップルも、ピクサーも、アメリカ合衆国もボクにはいらなかった。この部屋だけで、そう、十分だと、今日も安楽椅子に腰掛けていた。ニュースは見てない。今が何日かも分からない。2021年の新年だということくらいは分かる。ただ朽ち果てて、朽ち果てて、朽ち果てて……
ブーーーーーーッ❗️❗️❗️❗️❗️❗️
けたたましい音が鳴り響いて男が入ってきた。黒人の、身長の割に大男に見える、神経質そうな男、どこかで見たことがある。あいつは……カニエ❓
「久しぶりだスティーブ、手短にいいかい❓」
「やあ『勝者』、どうした❓安楽椅子で腰掛けて死を待つボクにどうしたんだい❓」
「それも分からないんだな……」
カニエはぽりぽり頬をかいてこう告げた。
「『復讐』と『芸術』の交差点、やりたいと思わないかい❓」
まったく意味はないと分かっていても心の奥底が疼いてしまった。2年ぶりに仄かな感情が戻った。でも、誰に❓
「全てさ」
カニエがアタッシュケースを渡してきた。これ、もしかして、手が震える。
「いま地上では暴徒が議会を襲撃して大混乱だ。ドナルドも行方をくらましていて、俺が『ブツ』を掻っ払ってきたんだ。俺の信じる芸術のためにね。俺はこの仕事をやってきて、復讐こそが最も美しく純粋な感情の、芸術の発露なんじゃないかと思うようになった。信頼した人への、愛した人への、子への、そして世界への復讐が世界で一番美しいんだ。そう確信したんだ。スティーブン・ポール・ジョブズ。世界を変え、孤児から世界の頂点に登り詰めた男。『月を凹ませた』男。お前は、最後にこの世界に復讐してみたいと思わないかい❓俺は強制しない。ただ俺は見たいだけなんだ。どうだろう。」
答えは決まっている。限界までニンマリと頬をあげた俺は目が合ったカニエと笑い合う。通じ合った。光った。世界には原初、俺がいた。光あれと言えば……
◯
光ありき。