嘘をつく人: 6
「それを言いたかったんですか」
わたしは完全に他人行儀でした。もうお友だちとは思っていなかったし、関わることも嫌でした。また「(自殺を止めないなら、お金を返せと言うなら)君は犯罪者だ」と言われることも含めて。どうしてこの人は相手を責めたて、それでいてまだ友だちでいたい、いてほしいと思うのか? 不思議で仕方ありませんでした。
「君が親を呼んだから自殺に失敗したんだ。僕は本気だったんだよ。次は確実に死ぬよ」
「わざわざそれを教えてくれなくていいんですよ」
「僕の本気を見縊るなよ。次は本当にやるからな」
「また止めてくれって言うんですか? いちいち宣言しないとあなたは行動できないの?」
「だから君はひどいんだ! 死のうとしている人を見殺しにする気か」
彼はかなり苛立っているようでした。その後も、仕事も無断欠勤が続いて辞めることになったこと、今回のことで家族以外からも借金をしていることがご両親にわかって、ひどく罵倒されたことへの不満が続きました。失恋や今回のような友人たちに見放されることなどで落ち込むこと、彼は意気消沈してその状態が3か月ほど続き引きこもり、その間に自然と仕事もクビになり…ということを繰り返していたというのです。借金に関しては、お小遣いが足らないと、翌月のお給料日に必ず返すという前提でお母様から借りることを繰り返していた。お母様は、消費者金融に手を出されるよりは…と、呆れつつも彼にお金を融通していたそうです。それが友人たちからも借りている状態だと知られて、指をさして「本当に情けない男ね!」と怒鳴られたとか。それも自分の責任だとなぜわからないのか。そしてそれをわからせる義務はわたしにはありませんでした。
「自殺を止めないと犯罪だとかそういう法律はないみたいですよ。あなたが言いたいのは自殺幇助とかそういう罪かもしれないけど、わたしはあなたにいきなり電話でこれから死ぬ、止めないならお前は犯罪者、て言われたんですよ。それに弁護士のお友だちがそんなことを言ったのなら、そのお友だちを疑った方がいい」
わたしは彼に弁護士のお友だちがいるということを疑っていました。専門家がこういった被害妄想や虚言癖を持った人を仕事以外でまともに相手にするとも思えませんでした。
「それに、どうしても死ぬなら、もうわたしに何も言ってこないでください。何もしてあげられないんです。わたしも困っているんです。夜中に電話されたり犯罪者だと言われたり。あなたに貸してあげられるお金もありませんし、離れていったお友だちを説得してあなたのところに戻るように言うこともできないんです」
けれども答えはこうでした。
「僕を甘く見るなよ。本当に死ぬ気なんだ」