嘘をつく人: 1
26歳くらいの時のことです。食事やお酒の席ですぐに友人たちからお金を借りる知人(男性)がいました。さいしょのうちはお酒の席での食事代をきちんと払ったり、みんなと普通に雑談するような人でした。しかし慣れてくると、みんなに断りなく自分の友人たちを仲間内の集まりに呼び、本人の分も含めた外部からの友人たちの食事代を、そのまま同席した人たちにツケてしまうというウルトラC技までやってのけました(わたしもやられました)。
当然、みんなから嫌われるわけですが、本人にはそれがなぜなのかわからないようでした。むしろみんなが自分を助けてくれたり優しくしてくれるべきだ、とさえ言っていたのです。本人曰く、「子供の頃からずっと、今だって会社で僕はずっといじめにあってきている。だからみんなに優しくしてもらいたいんだ」
そういう理由は通るのか? おそらく問題はそこではない。いじめによって考え方が歪んでしまうことはあることだけれど、彼のやっていることは優しくしてほしいという「懇願」ではなくただの「タカリ」だったと思うのです。そしてだんだん精神が病んでいくという演技を始めました。なぜ演技かというと、友人たちの前では呂律の回らない口調で喋ったり唐突に笑い出したりするのですが、「ツケにした支払いをしなさい」というと、急に素に戻って「証拠はあるのか! それは恐喝だ! 横領だ! 僕には弁護士の友人がいる! 君は警察に捕まるぞ!」と威嚇したからです。人に優しくしてほしい時には(彼にとっては自分にお金を融通してくれることが優しさでした)、泣いたり精神を病んだ演技をし、相手が厳しい態度に出ると、完全に素に戻り前述の台詞を投げかける。当然周囲から人は離れていき、彼は一人になりました。わたしも例外ではなく、もう関わることはないと思いました。立て替えたお金はもう仕方ないと思いました。それ以上彼に関わる方がよほど苦痛でした。
それからしばらくたったある晩のことでした。夜中の2時過ぎに電話が鳴り、反射的に出てしまったのですが、その問題の彼からでした。
「うわあ、しまった。出ちゃったわ…」
と思った次の瞬間に、彼はまた呂律の回らない声で笑いかけてきたのです。