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嘘をつく人: 2

 しまった電話出てしまった…。

 と後悔するも彼は電話の向こうでヘラヘラとした感じで笑い続けます。遠くに車の音がしていました。

(こんな夜遅くに外にいるの?)

 そう思っていたら。

「僕はもう終わりなんだ。もうダメなんだよ」

 笑いを含んだ声で彼はそう言いました。また車の通る音が聴こえます。なんとなくピンときました。これまでに散々気が触れたような態度を取って同情を請い、厳しく諭されれば今で言う逆切れをする。

 真夜中。屋外。車が走っている場所。もうダメだという台詞。

(今度は狂言自殺か。)

 もう溜め息が出ました。そしてやはり彼は「このまま歩道橋から車に向かって飛び降りることにしたよ」と自嘲気味に続けました。そのあと、

「止めたってダメだよ。もう決めたんだ。僕はもうダメなんだ」

 止めて欲しいんだろうな、とはわかりました。しかし、彼にそんな勇気がないこともわかっていました。誰とも連絡がつかなくなって、ようやく電話が繋がった相手に必死に語りかけるわけです。いかに自分が可哀想か、そこまで追い詰めたのは誰なのかと。当然、わたしの心には何も響きません。ただ迷惑なだけでした。ひたすら止めるな、と言う。その反面、自殺しようとしている人を止めないのは犯罪である、いま自分を止めないと君は警察に捕まることになる、と以前にも聞いたような台詞を投げかけてきました。

 時計を見ればそろそろ午前2時半。本当にいい加減にしろ、です。何より、彼に自ら命を絶つ勇気がないことはわかっていました。だからこそ、命を絶つと言って人を脅かすことが許せませんでした。

 だから。

「そこまで思いつめた人を止める能力はわたしにはないです。そしてこんな真夜中にそこへ行くことはできません。だからせめてあなたの最期をこのまま聞き届けます」

と答えました。





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