私を変えた一冊『都の子』
江國香織『都の子』
江國香織の文章が好きだ。
特にエッセイ。
文章自体が瑞々しく、読み進めていくと目の前のものが温度を帯びてくる。陳腐な言い方だけれど、言葉に生命力を感じる。
読書の醍醐味は「本の世界に入り込めること」「本の中の世界と一体化できること」。
江國香織はその最たる作家だと思う。
これ以上ないと言うほど。時に残酷なまでに現実的なのに、それでいてどこか、日常生活に一枚薄い膜が張ったようなファンタジーを感じさせてくれる。
江國香織は、のめり込みすぎないぐらいのちょうどいい具合に、現実に引き戻してくれるのだ。
彼女の文章を読んでいると、耳元で水音が聞こえたり、落ち葉のかさかさいうを音を感じることが、たまにだけど本当にある。
彼女の本を初めて読んだ時、英字新聞を初めて目にした時のような、柔らかな衝撃があった。
明るい太陽よりは、薄暗い曇りが似合う作家だと思う。とても魅力的だ。
泥くさく、生きていこう、そう思える。