【教育×感性のままに生きる=おもろい】「ITで隣人を救うデザイナー」は葛藤しながらも直感に従って進む〜ヴァルドネール舞さん〜
‘’おもろい’’と言われる人生を歩んでいる人は、根っからの行動派である。すごいことをする人は元から何かやりたいことがあるくらいすごい人なんだ。
そう感じたことはありませんか?
生まれつきの素質のようなイメージがありますが、実は彼・彼女らも人生で迷いながら現在の状態にたどり着いた人がほとんどです。進む中で見えた道を選んだ結果、’’おもろい人’’になったのです。
フリーランスのデザイナー、ヴァルドネール舞さんもその1人。
舞さんは専門学校を卒業した後にフランスに行ったり、日本で働いたと思ったらアメリカに行ったりと、直感でいろいろな道を突き進んだ人です。
しかし話を聞くと、意外と迷ったり悩んだりする繊細な一面も見え、たくさん考えた上での今であることが分かりました。
そこで海外に行くきっかけや現地で感じたこと、現在日本でフリーランスとして働く理由をお伺いしました。
やりたいことがあるけれど迷う、そもそも自分の進む道をどうやって決めたら良いのか分からない人は参考にしてみてください。
ヴァルドネール舞
フリーランスのUI/UXデザイナー。専門学校を卒業後、フランス留学を経てチームラボに在籍。その後アメリカ留学やアプリ開発会社を経てフリーランスに。現在はITで隣人を救うデザイナーとして活動中。趣味はコスプレで、絵コンテや事前MTGから準備するガチっぷり。
「私以上に変な人がいる!」創作活動の日々と専門学校での出会い
デザイナーの舞さんは愛知県の中部にある都市で生まれました。
その地元は車がないと移動が厳しい上に、昔からのコミュニティ内で進学・就職をする人が多い田舎。
そのため舞さんは子供の頃から自由にパソコンを触り、Webの基礎を自分で習得しながら創作活動をしていましたが、同じ趣味を持つ人は身近にいません。
さらに舞さんはアニメやゲームキャラの格好をするなど自分の好きなものを楽しんでいましたが、そのような趣味の合う人もおらず。周りとの違いを日々感じていました。
しかし19歳で名古屋の専門学校に進学してからは「人生が開けた」と話します。
楽しい専門学校生活を経た後、舞さんはフランスへ旅立ちます。てっきりデザインを学ぶためかと思いきや、自分の祖母が「フランスはすごいところだから」としきりに話していたからなのだそう。
そうしてフランスに到着しますが、なんと初日から滞在先の寮に入れないハプニングが発生します。手続きに手違いがあり、到着したけれど「君は入れない」と言われたのです。
そのときは近くにいたフランス人が「こっちに安い宿があるよ」「ここは〇〇円だけれど大丈夫?」と助けてくれて、なんとか宿を確保しました。
初日から現地の人の優しさに触れますが、住み始めて感じたのは「アジア人への差別」。駅で切符を売ってくれないとか、いきなり靴を磨けと言われたこともあったそうです。
そのようなトラブルに出くわすと焦りますか?ドンと構えますか?と聞こうとすると、腕をブンブン振り回しながら肩慣らしをする舞さんが目の前に。
聞かずとも落ち着いて構えるタイプであることが伺えました。
フランスには1年滞在しましたが、現地で出会った人と日本に帰国。舞さん自身は特に興味があったわけではなかったそうですが、パートナーの強い希望で東京に住むことに。
そしてデザイナーとして組織で働き始めます。そこは徹夜して働く人も多いハードな環境でした。
呼ばれて就職。でもニューヨークへ
最初の会社は1年で退職し、その後は入社して辞めて入社して辞めて……を繰り返す日々。
その中で20代後半のある日、近年はアート系イベントで有名なチームラボに’’呼ばれて’’入社します。
チームラボといえば今は華やかなイメージがありますが、そもそもはWeb制作やアプリ開発を請け負う会社。舞さんはそのWebサイト制作やアプリ開発のチームに所属していました。
当時は淡々と働いていたそうですが、振り返ると「チームラボがいちばん長く続いたし、いちばん自分に合っていた」。相性の良さに気付いたのはアメリカに行ったからだそうです。
ニューヨークといえば世界の中心的な場所で、あらゆる国から夢を叶えようと人が集まる都市。そのイメージ通りミュージシャンやお笑い芸人などさまざまな夢を持ついろんな国の人と出会います。
中にはくいだおれ人形のモデルとなった喜劇役者・杉狂児のお孫さんや亡命ビザを使ってアメリカに来たベネズエラ人など、印象的な人もいました。
アメリカといえば即戦力を求められる、結果が出なければ即クビといったイメージがありますが、舞さんはそこまでのプレッシャーを感じなかったそう。
そもそも日本とアメリカは雇用に関する法律が違う上に、仕事を依頼するときのスタンスも異なります。
アメリカではその人に求められるミッションが明確で、本来の契約期間が満了したらさようなら。お互い違うなと思ったら次の日から出社する義務はなく、本当に荷物をまとめていなくなることもめずらしくありません。
よく海外の働き方に対して「服装も髪型も自由でうらやましい」「日本は窮屈だ」と言われますが、それは働く人の人柄ではなく仕事内容や役割を重視しているから。
雇用側と従業員が対等な関係で、目的が合ったら一緒に働こう、合わなかったら別のことをしようという考え方なのです。
そのため即戦力は求められるものの、自分の役割はキッチリこなしながら自分の人生も大事にする人が多かったと舞さんは振り返ります。
アメリカのコミュニケーションは自分には合わないかも
働き方の違いを目の当たりにした舞さんですが、アメリカでは考え方やコミュニケーションの取り方が自分には合わないと感じます。
長く一緒にいると少しずつ分かり合えるし、放置してほしいときはありがたいと感じた舞さん。アメリカ人全員がそういうわけではありませんが、お互い踏み込まない関わり方が暗黙のルールとしてある人とは、本当に仲良くなるのは難しいと感じたそうです。
日本の地元で過ごした学生時代やフランスに渡航した19歳のときは狭いコミュニティゆえの生き辛さを感じたものの、広い世界に出るとその寛容さが辛かった。ある程度の仲間意識、帰属意識は大切なのかもしれない。
そう感じた舞さんは帰国し、大阪で生活し始めます。2018年のことでした。
会社組織では自分の貢献度合いが見えない
今度は大阪に本社を置くアプリ開発の会社に入社します。
その会社に入社したのは、ITで日本に貢献できるのではないかと思ったから。チームラボでの仕事やアメリカ滞在をきっかけに、自分の得意なことでみんなに喜んでもらいたい気持ちが強くなったのです。
その1つとして社会に貢献したいと思い、国や市町村、大企業などから発注を受けている企業を選びました。
しかしあらためて日本で働き始めた舞さんを待ち受けていたのは、日本企業ならではの窮屈なルールでした。
また国や大企業と関わる仕事もありましたが、規模が大きいゆえに言われたことを淡々とこなすような、貢献を実感しにくい業務だったことも理由にあるそうです。
会社という組織内では自分の貢献度合いは見えにくい。おもしろいと感じることも難しい。
そうやってたどり着いた先がフリーランスという働き方でした。
そんな舞さんの現在の肩書は「ITで隣人を救うデザイナー」。
自分が作ったものに対して誰か1人でも喜んでくれたら十分だからと、この肩書きを使っています。
住まいは大阪から京都へ移し、当時住んでいたシェアハウスの同居人が京都と縁深い会社を経営していたことから京都の知り合いや場所を紹介してくれ、フリーランス生活は順調にスタートします。
棚ぼた的なラッキーが重なったように見えますが、いきなり知らない人・場所に出向くのは緊張するもの。それでも順調に物事が進むのは舞さんの行動力と人柄ゆえだと感じます。
動く中で迷うことはないのかと聞くと「確かに迷うときもあるけれど、決めるときは直感ですぐ決める」と舞さん。
むしろ「この選択肢を逃したら……」とチャンスを得られないことに焦る。振り返ったときに「する」を選んで良かったなと思いたいし、後悔したくないからパッと決めるそうです。
そうして不安はありつつも持ち前の「まあ大丈夫かな」精神で、2022年にはフリーランス4年目を迎えました。
仕事も趣味も全部楽しい!おもしろそうならどこへでも
良い未来が見えるなら、何か行動する方を選ぶ。
そんな軸がある舞さんにデザインやものづくりのおもしろさについて聞くと、「誰か1人でも作品に共感して、愛してくれればそれで良い」というブレない答えが返ってきました。
さらに仕事のデザインは、完成した作品だけでなく作る過程もすべておもしろいと話します。
やりたいことは現実でしっかり叶えられているから、自分を信じておもしろいものに取り組み続けることができる。そうして作ったものを1人でも好きになってくれたら良い。
さらに自分の正義を信じて実行し続けていれば、共感者や仲間がどんどん増えて他の人の正義になることもある。形がないものが形になることがおもしろく、「つくること」に関しては嫌いなところがない。
そう話す舞さんですが、趣味でも全力を注いでいるものがあります。
それは「コスプレ」!アニメやゲームが好きだったこともあり、ハーレイ・クインや鬼滅の刃など、さまざまな作品やキャラクターを楽しんでいます。
しかも好きなキャラに変身するだけでなく、衣装作りから絵コンテ、撮影まで仲間と協力しながらすべて自分で考えているというからオドロキです……!
仕事も趣味も境目なく楽しむ舞さんですが、今後もフリーランスとして働き続けますか?と聞くと、意外な答えが返ってきました。
プライベートはどのように過ごしたいですか?と聞くと、突拍子もない答えが返ってきました。
馬……?と思わず声を上げるほど独特の感性が爆発していますが、そこには舞さんらしい理由がありました。
動物の中でもどうして馬なのかと聞くと、シンプルに「かわいいから」と。
ちなみに馬は公道を走ることが認められているため、高速道路なども走ることができるそうです。「馬に乗って走りたい」「でもETCとか通れるのかなあ」「首から札をぶらさげれば……」と、舞さんワールドが炸裂します。
舞さんの話を聞いていると、冒険に出る内に仲間や武器が増えるRPGゲームが思い浮かびました。
とにかく悪者を倒したいから、勇者はレベル1のままラスボスのいる城に向かう。その野望に共感した仲間がそれぞれの得意技で勇者に協力する。そうやってどんどん強くなり、レベルも上がり、最終的にはラスボスを倒してしまう。
でもみんなが協力するのは、勇者である舞さんのデザインへの気持ちが純粋で、楽しんでいるのが分かるからです。普段から舞さんが身近な人やものを大切にしているから周りもお返しをするし、舞さんが誠実に応えるからまた返ってくる。
何よりも普段から自分の好きなものをハッキリと自覚して大切にしているからこそ、迷ったときも直感で良い未来を選ぶことができるのです。
将来を考えると何か大きなことを成し遂げよう、技術をしっかり身に付けようなど考えますが、まず自分の好きなものを大切にして突き詰める。
本当はそれくらいシンプルかつ自分に正直でいた方が全部うまくいくのかもしれない。そう思わせてくれるインタビューでした。
Interview & Edit by ちき(モリキアユミ)