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はじめての北千住

新宿末廣亭で観た「悲しみは埼玉に向けて」で爆笑して以来、北千住への愛を持て余している。「悲しみは…」は三遊亭圓丈のオリジナル演目だが、僕が観たのは他の噺家のバージョンだ。そこでは、千代田線直通電車で繋がる成城学園前のハイソなイメージと北千住を対比させていたのだが、経堂駅から同様の電車で向かっていることがなんだか楽しい。思いつきで音源を探してみると、Youtubeにオリジナルバージョンがアップされていた。聴きながら向かうとしよう。

いや面白い。是非一度味わってみてください。

↑当日(10月17日)ここまで書いて、僕は北千住に飲み込まれた。


↓以下、記憶を手繰りながらの記録。

1件目 「鳥しげ」

老舗感

仲間と合流。体を馴染ませながら1件目を探す。始まりが肝心なんだ。メインの横丁と思しき通りからちょっと裏に入ったあたりに老舗がいくつか。そのなかからチョイスしたのが「鳥しげ」だ。7席ほどのカウンターに加え、奥にはちょっとした宴会ができそうな座敷。外の賑わいを無視するかのように、店内には1人客1組だけ。蛍光灯がよく似合うここで、僕らはチューハイをセレクト。北千住が始まった。

うますぎるお新香

結論すると、この店はお新香がうますぎる。特にキュウリは、しっかりと深みのある奥行きに加えて輪郭もシャープ。味わいが非常に複雑で、時間による変化を楽しめる。「和製ボーズ・オブ・カナダ(?)」のサウンドをバックに「シンディ・ローパー」が歌った感じ。ナンコツとシシトウの串は大ぶりで、強火でカリっと焼かれたその具合と塩加減が絶妙。もっと食べたいが、ハシゴ前提なのでこの程度で。チューハイ3杯。

2件目 「しず」

こういう感じが好物

「今日は、あのお新香よりウマイものには出会えないだろうね」という共通認識を抱えて2件目を探す。そうそう、2件目はこんな感じもいい。本当のファンタジーに出会うためには、それがファンタジーであることを忘れられるような導入が必要なんだ。のんびりいこう。繁華街の辺境で見つけた「しず」は地元に愛されるカラオケ飲み屋、ということで間違っていないはず。入店すると「お、珍しい奴らがきたな」という好奇の目線を店内の全員から受ける。でもそこには嫌味がない。おそらくママの人柄なのだろう。穏やかな気持ちで、仲間との会話を心地よく楽しむことができた。チューハイ2杯。

3件目 「寿司勝」

このムードこそ、探し求めていたもの

酔っ払ってきたし、もう裏道、細い道。ドンツキで見つけた完璧なムード。コハダの酢の物、卵焼き、ゴボウ巻き、それから梅干しを使ったアンズ巻きとやらも美味かった。最後は2人で特上握りを1人前。とにかくマグロが美味かった。必ずまた来ます。日本酒を2人で4合。

4件目 「昭和サロン 小柳」

なんだこれ高円寺みたいだ

辿り着いてしまった、という感じ。そして気がついたら店内に。店主の島田安彦さんは美術関係のコレクター。エドワード・ゴーリーの作品や年代物の春画などを見せてくれた。レコードを聴きながら、次々と渡される美術資料に目を通しながら、とめどなく続く島田さんの話を1/3くらい聞きながら、僕は何を感じていたのだろう。これはアトラクションだ。

コレクションに囲まれる店主
店内にて小生
この曲をリクエストしたことは覚えている
年季の入った「ガロ」

妙に高い請求額を聞いて一瞬変な気持ちになるが、そんなことは最早問題じゃないくらいファンタジックな感覚。ここがなんなのか、いつなのか、分からない。きつねにつままれたような、とはまさにこの時のために用意された言葉だろう。仲間とふたり、ただ笑いながら歩き始める。理論と常識を超えたこの時空感覚こそが、あるいは北千住の真髄なのだろうか。

店主・コレクターの島田安彦さん

帰りの電車でもう一度「悲しみは埼玉に向けて」を聞いたことを覚えている。そして僕たちは下北沢で電車を降り、また夜を続けようとする。

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