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「風」と「土」のあいだで想う

こんにちは。
22年勤めたマスメディア業界を辞め、地方の教育機関で働き始めて1年が経ちました。
前職からの習慣で毎朝新聞を読み、テレビでニュースを見ていますが、全国紙の地域面やNHKのローカル番組が縮小しているのを実感します。日曜日の昼に放送したニュースが月曜日の夕方ローカルニュースで再放送されていたり、以前なら各県ごとにあった全国紙の地域面が複数県の広域版になったり。マスメディア離れ、働き方改革、転勤をめぐる問題等々、様々な課題があるなかで全国ネットワークのメディアはその体制を維持していくのがいよいよ難しくなってきていると感じます。
ネット環境が発達した今、地方に住まなくても取材はできる、緊急のときには東京から応援を出す。前職の最後の頃、そういう方針が当たり前になっていくなかで、私は自分が経験してきたことー転勤を受け入れ、知らない土地で生きることーがもはや「時代遅れ」の徒花なのではと虚しくなっていったことを、ふと思い出しました。

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地域の支局にいたとき、自分の役割はなんだろう、と悩んだ時期がありました。自分のふるさとでもない土地に辞令ひとつで転勤するわけで、自分にとっては新鮮な情報でも、地元の人にとっては当たり前。果たしてこんな素人みたいな人間が、地域の役に立つ情報発信をできるのだろうか、と。
でも、ある大災害の復興の過程を取材していた折、支援の仕事をしていた人から聞いた言葉に背筋が伸びました。

地域には、「風」の人と「土」の人が必要なんだよ。

その土地に根差して生きる人と、風のように外からふらりとやってくる人。その両方が混ざり合うことで、地域はいきいきとしてくるのだ、と。

私が取材したのは災害の前から過疎化が進む中山間地域でした。災害を機に外から多くのボランティアの人たちが入ってきて、新しい考え方や取り組みを持ち込み、住民の方々もそれを半信半疑ながらもうまく取り入れていき、少しずつ、災害前とは違った活気が生まれていったのでした。
辛く悲しい出来事であることに変わりはないけれど、それでも、残されたものに新たな価値を見出し、希望を紡いでいくことはできる。
「風」と「土」の人々が一緒になって苦境を乗り越えていくさまを記録するうち、私自身仕事に向かう姿勢が変わっていきました。私は「土」の人にはなれないけれど、「風」の人としてできることがあるのではないか。遠い地方の出来事を、都市部の人々に自分ごととしてとらえてもらうための切り口や構成。必死に考えて、取材して、出し続けた数年間でした。

今、地方で教育の仕事に携わっているのは、そろそろ「風」から「土」へ、土地に根ざして地域と関わっていきたいと思ったからかもしれません。

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このnoteを書き始めた週末、能登で大雨による大災害が発生し、胸が痛みます。地理的にも遠くメディアの取材網が届きにくいエリア。そんななかで「風」の人として踏ん張る取材者、支援者にエールを。そして、ふるさとを愛する地元の方々に1日も早く平穏な日々が戻ってくることを願ってやみません。


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