「悪役令嬢に転生しても、腐女子だから全然OKです!」第15話 百合と汗だくな男たちの国
男性は百合、女性たちはBLというジャンルで、この国の人間全てを洗脳できた。
民草どもは私のことを前国王ヒューイより、民に優しい女王様だと言う。
私の調教もあってか、国名が魔法と百合の国ユリーナにBL要素が追加された。
その名も、百合と汗だくな男たちの国、”兜くんとユリーナ”。
私が考えた国名ではない。カデルが考えたのだ。
毎日、玉座の上に腰をかけ、弟子たち。アランとオリヴィアの原稿をチェックする。
私のことを師匠と言い、玉座の下にある冷たい床で正座している。
木箱を机にして、原稿を描くのだ。別に私がそうしろと言ったわけじゃない。
この子たちが勝手に始めたことよ。
一番弟子のカデルだが、彼は読み専だと言い張り、既に卒業済み。
彼の作業はもっぱら原稿のコピー。
百合を担当しているアランが、嬉しそうに書き上げた原稿を玉座の前に持ってくる。
「陛下っ! 今回の作品には自信があります! 今度、開催されるコミケにも出せると思います!」
「ほう……よほど自信があるのだな。良い心掛けだ。では、拝読させてもらう」
「はい!」
アランが考えた百合マンガは、とてもベタな展開だった。
女子高に転校してきたギャル生徒が、真面目そうな生徒会長に惚れるという作品。
途中までは、てぇてぇだったが……とあるページで、私の指は止まってしまう。
それはある違和感があったからだ。
私は怒りのあまり、その場でアランを怒鳴りつける。
「アラン! これが本当に百合だと言えるのか!?」
「はい……しっかりとてぇてぇな展開だと思いますが。どこが悪かったのですか?」
悪びれることもなく、きょとんとした顔をするアラン王子を見て、私はため息をつく。
「アラン……同性愛の作品を描く際、一番注意すべきことは何だと思う?」
「そ、それはえっと……」
この間、体感にして0.3秒。
彼が回答に困っている姿を見て、私の怒りは頂点に達した。
「判断が遅いっ!」
玉座から立ち上がると、右手に拳を作る。
そして前足に重心をかけて、アランの顔面めがけてストレートパンチをお見舞い。
「ぐはっ!」
私の渾身のパンチを食らったアランは、膝を崩してしまう。
同時に、口と鼻から大量の血を吹き出す。
何本か前歯が折れたようで、カランと音を立てて床に散らばった。
「同性愛の作品に異性はいらないんだよっ! 読み手からすると殺意しかわかないのだっ! バカ者!」
「も、申し訳ございません。こんな原稿、直ちにお捨てします!」
しかし、私もそこまで鬼ではない。
その場で原稿を破ろうとしているアランを止めに入る。
「まあ待て、アランよ」
そう言うと優しく微笑む。
「女王様……」
「間違いは誰にでも起こることだ。そんな時は修正すれば良いのだ」
「修正って、もうペン入れしちゃったんですよ?」
「ふふ、まだ甘いな。アランよ……そんな時こそコレだ!」
私が手の平を宙にかざすと、背後に立っていたカデルから小さな瓶を渡される。
「はい! どこでも修正液~!」
こんなこともあろうと、極秘裏にカデルへ開発を頼んでいたのよ。
「しゅ、修正液ですと? それがあれば、今からでも変更できるのですか?」
「そうよ。これを使えば百合の世界に出て来た男を消すことが出来る。もしくは髪型や服装だけ変えて、女の子に性転換すればライバルとしてもOKよ」
「さすが女王様!」
そんな創作ライフを送っているのも束の間。
隣国、剣の国”インフィニティ”から宣戦布告を叩きつけられてしまう。