「悪役令嬢に転生しても、腐女子だから全然OKです!」第9話 百合王国、万歳!
「こ、これは……なんということをっ!?」
と口を大きく開いてみせる、第二王子ことカデル。
幼いころから、本が大好きで知識も豊富。
第一王子である兄アランの右腕。どんな時も冷静沈着な彼が、額から大量の汗を吹き出している。
「手に取ってお読みになられては? カデル王子」
そう言って、ほくそ笑む。
計画通りだ。
チョークで、絵を描くのには限界があった。
だから、百合で洗脳した兵士たちに命令し、紙と万年筆をゲット。
あとは私がその真っ白だった世界に筆を使い、インクを落としていく。
瞬く間に、百合の花で埋め尽くされた同人誌が完成された。
その名も……。
『私生活ではあなたのメイドでも、ベッドの上では私がお姉さまよ』
我ながら、素晴らしい作品を作ったわね。
昨晩、作り終えたばかりだと言うのに、兵士長なんかはもう30回読み直したらしいわ。
さすが私の弟子ね。
「……では、拝読させていただきます」
「どうぞ」
~数分後~
最後のページを読み終えたカデル王子は、床に手をつき泣き始めた。
「ううっ……私は誓ったのです。この国のため、父上や兄上を支えるためにたくさんの知識を吸収したいと」
溢れる涙が止まらず、思わず眼鏡を外すカデル。
美しい碧色の瞳が露わになる。
「それで、どうでしたの?」
「なんと言ったら、良いか……ユリ様の描くこの本を読んでいると、こう胸が熱くなって……兄上の婚約者でこのような気持ちを抱くなどっ!」
私は床に膝をつき、カデル王子の肩を掴む。
そして優しく頷くのだ。
「カデル王子、創作と現実を一緒にしてはいけません」
「え? どういう意味ですか」
「この作品でオリヴィアはザリナに、あんなことやこんなことをしていましたが、実際の彼女は今どこにいますか?」
「そ、それは……宮殿で一番、厳重に守られている部屋で、今ごろザリナとクッキーでも作られているのでは……」
「素晴らしい。その通りです。だから、創作と現実をごっちゃにしてはなりません。こういう時は、素直に”てぇてぇ”と叫びましょう」
私がそう言うと、兵舎に集まっていた兵士たちが叫び声をあげる。
「「「百合王国、万歳! てぇてぇ! キマシタワー!」」」
ふふ、たった一週間でここまで仕上がるとは、ナイスですわぁ。
「しかし、私はこの国に命をかけているのですっ! そのような、いやらしいことを胸に抱いては……」
「カデル王子。自分を責めてはいけません。素直に受け入れるのです、自分と言う名の性癖を」
「ユリ様、わ、私は……」
それ以上、彼を悩ませてはいけないと思った私は、優しく手をさし伸ばす。
「自分を追い込んではいけません。私と共に参りましょう、レッツ百合ライフっ!」
「はっ! イエス・ユア・マジェスティ!」
これで残るは、アラン王子のみね。